「はぁ……」
 教室である。
 トウジとケンスケは日増しにやつれていくシンジの様子に、そろそろ危ないかと忠告した。
「シンジぃ……」
「なにさ?」
「お前の性格はよぉわかっとる。そやけどええかげんにしとけや?」
「そうだぞ? 毎晩がんばり過ぎなんだよ」
「いくら相手が惣流やからて」
「サルじゃあるまいし」
 はてとシンジは首を傾げた。
「なんの話をしてるんだよ?」
「だから……」
「夜の話をやなぁ」
 ガンッと後頭部を打ったのは日誌だった。
「なに不潔な話してるのよ!」
「い……イインチョ、ちょおキツイでそれは」
「トウジ、割れてるぞ? 頭」
「うう……あほになったらどないすんねん」
「もうそれ以上悪くなりようなんてないでしょ」
「あれ? アスカどうしたの?」
 すで鞄を背負っていた。
「ちょっとねぇ……あ! あんたは先に帰ってしっかり勉強してんのよ!」
「う……うん。わかったよ」
「あたしがいないからって適当こいて遊んでたらコロスからね!」
「うう……わかったよ」
「じゃね」
 なにやら急ぎ足で行ってしまった。
「ううううう……」
「災難やのぉ……」
「しかし同情はしない……しないが」
「なんや?」
 ケンスケはきらりと眼鏡を光らせた。
「怪しくないか?」
「なんの話や?」
 ひそひそと話し合う二人である。
「どこ行ったんだと思う?」
「どこって……そりゃあ」
「な?」
「……男やな」
「間違いないな」
 二人はこくりと頷き合った。
「後……」
「着けるか? ……いいいいいや、やめておこう」
「そそそそそ、そやな! そないなこと男のすることやないで!」
 もちろん二人が態度を改めたのには、ぶんぶんとモップで素振りをする委員長の存在があったからに違いない。


(どこに行ってるか心配じゃないかって? どこ行ってるか知ってるんだけど)
 実はアスカは買い物に回っていた。
『あーもう! 洗濯物ためてるし掃除もしてないし! 食事もインスタントってどういうことよ!』
『アスカが勉強ばっかりさせるからだろう?』
 というわけである。
「まあやってくれるっていうなら楽でいいんだけどさ」
 うれしそうにぼやくシンジを、レイは背後からじっと見つめていた。
 彼女はアスカの狙いについて、しっかり気が付いていたのである。
『くくく……こうやって餌付けして舌を慣らしとけば、アタシ以外のやつが作った御飯なんて、『なにか違う……』って感じになるってね?』
 お弁当攻撃……などというベタな戦法に対する防御策……ということまでも含まれていたのだが、アスカは少しばかり過剰に意識しすぎていた。
(碇君を狙うような物好きは少ないのに……)
 くすくすと笑う。
 アスカを除けば人外のものにしかモテてはいないシンジであった。

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