「それじゃあ始めるわよ! レイ!」
「…………」
「あんたは床拭き! 雑巾とバケツ持って来てさっさとやる! マナ!」
「あうん?」
「あんたはレイの監視!」
「ちっ……」
 レイの漏らした舌打ちに、やっぱり逃げる気だったかとじろりと睨む。
「シンジはアタシと一緒に部屋の整理から!」
「整理?」
「とりあえずアンタの部屋からね! リビングにもの移動して隅々まで綺麗にする!」
「……」
「なによぉ、その目は」
「いや……なにかうれしそうだなって」
「え? え? そっかな」
「うれしそうというよりもにやついているわね」
「……怪しいよね」
「なにか企んでない?」
「なんにもぉ〜〜〜?」
 しかしそれは嘘だった。


「それじゃあシンジは机の上の物を箱詰めする!」
「なんでいきなりベッドの下とかマットレスの下とか漁ってるんだよ」
「……なんか隠してない?」
「ないよ。別に」
「むぅ〜〜〜面白くないわね」
 そういうことを考えていたのかと呆れた目で見る。
「……ほんとにもぉ」
「はは……って、なにこのビデオ。ポチはつらいよ? わんわんの妻たち? わん太の七日間戦争?」
「ああ、それ綾波のだよ」
「ふうん……わんちゃんが102匹いる? ドッグ・コレクター?」
「あ、それ僕のだ」
「……でや!」
「わぁ! なにすんだよ!」
「うっさいわねぇ! なんか蹴ってやりたくなったのよ!」
「なんだよもぉ……高かったんだからなぁ?」
「あんたねぇ……」
 きりきりと痛むこめかみに耐える。
「そんなもんに払う金があるんなら! あたしになにか買ってくれたっていいじゃない!」
「……まるでもう終わりかけなのに必死にしがみつこうとしているカノジョみたいね」
 アスカをひきつらせたつぶやきは、入り口からコソッと覗いていたマナが吐いたものだった。
 ツツツと消える。
「ええと……なんだっけ」
「はぁ……もういいわよっ、バカ!」
 ぷんっとそっぽを向いたアスカに、シンジはプレゼントか……と呟いた。
「あんまり良い思い出がないんだよな……プレゼントなんて」
「え?」
 アスカは久しぶりな感じで、シンジの鬱に入った話を聞いた。

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