「プレゼントって……喜んでもらえた試しがないんだ」
 片付ける手を休めて、シンジは膝を抱き込んでアスカに話した。
「でも……あげる機会はあったんでしょ?」
「うん。母さんにね……学校の社会学習か何かで、湯飲みとか茶碗を自分で焼くってのがあったんだ。それで作ったのをプレゼントして、喜んでもらえてさ」
 だがシンジはうれしそうではなかった。
「それで……調子に乗ってさ、もう一つ作ってあったのを上げたんだ」
「誰に?」
「友達……もう忘れちゃった。ちょうどすぐ後に誕生日だって子がいてさ、みんなで盛り上がって、なにを上げようかって話になって、上げたんだと思う」
(そういう部分は覚えてないのに……)
 アスカは胸が痛くなった。
「こんなのいらないって言われた。みんなもなんだこれって笑った。それで僕もおかしいでしょって笑った……笑ってたよ。笑って冗談にしちゃわないと、泣いちゃいそうだったから」
「シンジ……」
「あれから……怖いんだ。人になにかをあげるのって。欲しい物とか考えたってわかんないよ。思いつかないよ。僕が凄く良いって思った物を上げればいいの? でもあの湯飲みは学校に置き去りにされたんだ」
 教室の後ろにあるロッカーの上に放置されて……。
「一学期の終わりにゴミと一緒に捨てられちゃった」
「もういいから……」
「アスカにだってそうだよ。アスカはお金持ちだしさ、僕の持ってる物なんてろくなものないし、なにかプレゼントしようなんて思ったって、きっと大していいものなんて買えないんだ」
「…………」
「怖いんだ……こんなのいらないって言われるのが。ありがとうって言われたって、ああ、迷惑がられてるってわかっちゃうんだ……それなら上げない方が好い」
「シンジ……あんた」
 アスカは小さくかぶりを振った。
「でもね? それはシンジが間違ってる」
「え……」
「その……湯飲み? それって良くできたっていうのをみんなに褒めてもらいたかったんじゃないの? 喜んでもらいたかったんじゃなくて……」
「……そうかな?」
「そうよ。だから悲しかったんでしょ? 辛かったんでしょ?」
「…………」
「迷惑がられるのが嫌だっていうのも、嫌われそうだからでしょ? それが間違ってるのよ」
「……わかんないよ」
「シンジ?」
 アスカは優しく微笑んだ。
「いい? あんたのことが好きな人は、あんただと思って大事にしたいものを欲しがってるのよ。わかる?」
「……人形とか?」
「わかってんじゃない」
 アスカは身を伸ばすと、シンジの頭に手を置いてくしゃっと撫でた。
「でもあたしの場合はシンジだと思ってシンジから貰った人形を抱いて寝るより、シンジと一緒に寝たいからね?」
「な……なにをいうんだよ、もう……」
(赤くなってる)
 ぷくくと笑う。
「ま……そう考えればわかるでしょ? ペンダントとか、ネックレスとか、指輪とか」
「じゃあ……僕はあの時、なにを上げれば良かったんだろう?」
「そうねぇ……その子って、特別アンタのことが好きだった訳じゃないんでしょ? アンタも」
「うん」
「じゃあお菓子でもあげときゃよかったんじゃない? 妥当なとこで」
「そっか……そうかもしれない」
「キバリすぎだったのよ。難しく考えすぎて失敗しただけ」
 で……とアスカは問いかけた。
「アンタはあたしになにをくれるの?」
「え!? ええと……そうだ!」
「ボンレスハム……」
「そう! ボンレスハムって……綾波!?」
 じゅるっとヨダレをすすって、レイはつつつと入り口から消えた。
 いいところだったのに……と、拳を固めてぷるぷると震えるアスカが怖い。
「ええと……あの……」
「レイ! アンタちょっとこっち来なさい!」
 シンジの声も耳に入らないようである。
 どたどたと行ってしまった彼女にため息を吐いて、シンジは抱いていた足を解放し、あぐらを組んだ。
 ぼりぼりと頭を掻く。
「ボンレスハムかぁ……高いんだよなぁ」
 でもアスカって一応大家さんだし……お歳暮送っておかないとなぁと、また怒らせてしまいそうなことを考えているシンジであった。

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