「ふぅん……そういうことね」
 アスカはまとめた参考書をとんとんと机でそろえながら口にした。
「まあ確かにねぇ……無理に進学なんてすることはないんだし?」
 シンジは意外そうにアスカを見た。
「怒られるかと思ったんだけど……」
「そりゃあね……ふつうは高校は行っといた方が好いとかゆっとくもんなんでしょうけど、それって日本の『ふつう』でしょう?」
「……ドイツじゃ違ったの?」
「学校に行けないって子はたくさんいたもの」
「そっか……」
「でもねぇ……一応あたしもこっちで育ったしさ、学校は行って当たり前って感覚もあるのよね」
「はぁ……」
「まあ? そんなに就職したいってんなら、考えないでもないけど」
「どこかあるの? アテ」
「永久就職とかぁ〜〜〜
「……遠慮します」
「なんでよぉ!」
「いきなりそれはないだろう? それに……」
「なによ?」
 ぶちぶちと口にする。
「そうじゃなくても、ヒモとかなんとかからかわれてるのに」
「ああ……」
 アスカはくすっと笑って、シンジの額をツンとつついた。
「そんなの気にすることないじゃない」
「なんでだよぉ」
「別にねぇ……そんなにお金がいるわけじゃないもん。第一ここの収入だけでも十分だしね」
「この部屋の分くらいなくても?」
「そういうこと」
「だからってそれはアスカのお金じゃないか」
「だからあたしは別にお金がほしくてマンション経営やってるんじゃないってば」
「うん……」
 それを言われると弱いらしい。
「ごめん……僕のせいで」
「なぁに言ってんの……壁ぶち抜いたのあたしなんだから」
「それはそうなんだけど……」
 とシンジはついでとばかりに聞いてみた。
「ねぇ……」
「なによ?」
「前から聞こうと思ってたんだけどさ」
「だからなによ?」
「アスカって……マンション買うお金どうしたの?」
 アスカはにっこりとほほえんで答えた。
「ひみつー」
「なんだよそれ……」
「まあそのうちバレるとは思うんだけどねぇ……」
 ぽりぽりと頬を掻く。
「ちょっと恥ずかしいから」
「…………?」
「まあ気にしなくても、変なお金じゃないから大丈夫よ」
「……そんな心配はしてないけど」
「でもあんた、ほんと高校はどうするの?」
「どうしようか……」
 ぐじぐじと悩む。
「まあ……進学科に行くのはさ、アスカに部屋代持ってもらってるんだし、それくらいがんばるけど」
「あたしのために?」
「仕方ないじゃないか……」
「ほんとは嫌なの?」
「嫌っていうか」
 眉をひそめる。
「進学科に行っても意味がないんだよ。私立狙えるようなお金ないし」
 またそういうことをとアスカは顔をしかめた。
「だからぁ……学費くらい貸してあげるって言ってるでしょう?」
「返せないお金は借りたくないんだよ」
「第一おじさまに頼めば出してもらえるでしょうが」
「そうなんだけどさ……」
 まだ苦手なのかなぁ? アスカは少し慰めてやろうかと考えて、ようやくいつものおじゃま虫が出てこないことに気がついた。
「どうしたの?」
「ん? ……いつもなら、この辺でじゃまが入るはずなんだけど……」
「そういえば」
 二人はなにやらいやな予感を覚えて、『二匹』ともどこに行ったんだろうと捜すことにした。

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