「ああ……居た居た。なにやってんの?」
 シンジはマンションの裏庭にある桜の木の前で、じっとしているレイを見つけた。
 なにか思い深げに犬座りをして木を見上げている。それもじーっとだ。
「シンジぃ」
「アスカ、こっち」
「どうしたの?」
「それがわかんなくて……」
 二人も一緒になって木を見上げた。
「これって桜の木なんだよね……」
「おかげで毛虫とか出るのよねぇ……202の田中さんからなんとかならないかって苦情が来ててさ」
「そうなの? 伐るの?」
「伐らないって……春になったらお花見できるってね? ま、近所づきあいの方が大事だし」
「へぇ……」
「なによぉ……」
「いや……アスカっていろいろ考えてるんだなって思って」
 考えなしのほほえみを向ける。
「案外いい奥さんになるかもね」
 ぼっと赤くなるアスカである。
「や……やあねって……ちょっとぉ……、案外ってなによぉ」
「あ……、いや、ごめん」
「あんたほんとに一言多いんだから!」
「だからごめんって!」
 などとやっている間に、レイが前足……手で桜の木の根本を掘り返していた。
 いつの間にかマナも手伝っていた。
 そしてある程度の深さになったころ……アスカはそこに銀色に反射するものを見て、ああ! っと叫んだ。
「ど、どうしたの!?」
「シンジはあっち!」
「へ?」
「ちょっとあんたたち! なにそんなもん掘り返してんのよ! やめなさいよ!」
「掘り返してって……ああ!」
 のぞき込んで思い出す。
「か……カヲル君……」
 レイはある程度まで掘り返すと、その髪に鼻を近づけてくんくんと嗅いだ。
 マナもそれをまねした。そして二人は頷き合うと……また穴の縁に戻って後ろ足で埋め始めた。
「……あんたら」
「なんなんだろう……」
 なんだかとても不吉なことをやってる気がする。
 シンジは酷く気になったのだが、答えが怖くて問いただせなかった。

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