「シンジシンジシンジぃ!」
「は?」
「松阪牛よ、松阪牛! それも本物の松阪牛!」
ドッシリと重い竹の包みを突きつけるアスカである。
「がんばって三重県まで行って買ってきたの!」
「へ? でも松阪牛ってそこのスーパーでも」
「あんたばかぁ? この時代、本物を食べたかったら現地まで行かないとね! 偽装とかなんとか」
「うわぁああああ!」
「なによ?」
「時事ネタだけど危険なのはやめとこうよ」
「……よくわかんないんだけど、ってあんたわ!」
──パカン!
「きゃうん!」
「丸かじりしようとするんじゃない!」
「だっていいにおいするんだもぉん!」
「レイを見習って待ってなさい!」
「見習うの?」
「なによ?」
「なんだか台所でいろいろ準備してるんだけど……」
「……まあいいわ。あんたたちの割り当て分もあるから、食べ方は勝手にしなさい」
「じゃあ怒らなくってもいいじゃない……」
「それはそれ! これはこれ! しつけはきっちりとね! で」
アスカはくるりと舞うように回ってシンジに訊ねた。
「食べ方はなににするぅ? すき焼き? 網焼き? しゃぶしゃぶ? それともオーソドックスに焼き肉ぅ?」
瞳がきらきらとしてるなぁと思うシンジである。
「でも……」
「なぁによぉ?」
「そういうお肉って、なに用ってあるんじゃないの?」
「そうなの? 部位ってのはあるでしょうけど……」
「お肉屋さんだとなに用って……よくわかんないんだけどさ」
「う〜〜〜ん……。そういわれるとアタシも自信ないんだけど」
首をひねる。
「あっちじゃお肉はお肉で大ざっぱに売ってたし……日本ってなんだかきっちり分けられてるんだけどさ、どう見ても同じ部位だったりするし」
「シチュー用とカレー用って一緒のお肉なんだよね……ラベル違うだけで」
「ううううう〜〜〜」
ポンッと頭のてっぺんが噴火した。
「とにかく! やっぱり素朴に食べるのが一番よね!」
「で……結局こうなるのか」
レイが用意したらしい七輪の炭に火を入れる。
「でも七輪なんてどこから……」
「借りてきたの……」
「借りてきたって……どこから?」
「パパから」
「…………」
父さんトラウマ再発してないと好いんだけどなぁ……。
シンジはちょっとだけ父の病気を案じてしまった。
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