──深夜二時。
 暗闇の中に、ぼうっとした光がともっていた。
 ラップトップタイプのパソコンのモニターが、青い光を放っているのだ。
 タッチパネルを、細い指がつつっとなでる。
 勉強机に座っているのは、パジャマ姿のアスカであった。冷たい目をして商品カタログを確かめている。
「……今日も新製品はなし、か」
 痛ましげに目を伏せる。
「スランプになったデザイナーなんて、哀れなものよね」
 アスカはページの最後にある、ブランドの名前から目を背けた。
 そこには『Kyoko』と、彼女の母親の名前が刻まれていた。


「おっはよー!」
 元気に手を挙げるアスカである。
 その背後ではシンジが息を切らせていた。
 しかしアスカは、今日はクラスの雰囲気が違うなと首をかしげた。
「どうしたの?」
「あ、アスカ!」
 慌てたのはヒカリだった。
「ねぇアスカ! これってアスカじゃない!?」
「え?」
 アスカは突きつけられた雑誌に目を丸くした。
「へぇ……よくこんなの見つけたじゃない」
「じゃあやっぱり!?」
「うん……まあね」
 アスカは何でもないことのように口にして、自分の席へと向かった。
 鞄を置いて椅子に座ると、それまで盛り上がっていたらしい女の子たちが寄ってきた。
「なんで黙ってたの!?」
 ヒカリが突きつけたのは古いファッション雑誌だった。それも外国の物である。
 開かれているページには、一・二年前のアスカがお澄まし顔でひらひらとした服を着てポーズを取っていた。
「なんでってねぇ……」
 アスカは子供服のページを何ページかめくった。
「だってもう、あたしこういうのやめちゃったし」
「え!? どうして?」
「だって続けながらじゃ日本に住めないじゃない」
「それはそうだけど……」
「それに」
「なに?」
「うん……それってさぁ、ママがデザインした服が取り上げられた時のやつなのよね」
「アスカのママって、デザイナーなの!?」
「一発屋ってやつよ。今じゃさっぱりだしね」
「ふうん……」
「そんなだから、モデルの子を雇うほどの余裕がなかったのよ。それであたしがね」
「なんだぁ」
「別にオーディションに勝ち抜いたとか、コネとかじゃなくてやむをえずってことでやらされたのがきっかけで、それでしばらく続けてたのよね。そんなだから自慢になんてなんなくてさぁ……恥ずかしくって」
 そっかぁと女の子たちは離れていった。
 しかしシンジだけが気が付いていた。
(アスカ……ほっとしてるよな?)
 どうしてだろう?
 そこまでわかるようなシンジではなかった。

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