「アスカさん……」
「なんですか? シンジさん」
非常に憂鬱な夕げであった。
ずるずると物憂げな音が響き渡る。
「どうして晩ご飯がカップ麺なの?」
「それはあそこで反省の板を下げているバカ犬に聞いてくださらない?」
ヌードルの破片が付いている箸で指す。
そこには首からわたしはバカですの看板を下げているレイがお預けを食って座っていた。
──あんたも犬なら、お使いの一つくらいしてみなさいよ!
突如としてアスカがキレた。
シンジが知っているのはそこからだった。
「なに!? どうしたの!?」
「なんでもないわよっ、バカシンジ!」
「……綾波、なにしたの?」
「なんでもないわ」
「…………」
のけもの? と寂しくなったシンジを慰めてくれたのはマナだった。
「シンちゃんシンちゃん、さんぽいこー」
「うん」
そしてシンジは後悔した。
「なにがあったんだよ……」
「だからぁ」
いらいらと口にする。
「学校で見たでしょ、あたしが出てた雑誌!」
「うん……」
「人にこび売ってお金稼ぐなんて浅ましい……ってなことを言いやがりましたのよ!」
「はぁ……」
「だから言ってやったのよ! あんたみたいにみすぼらしい雌犬にはつとまらない仕事なのよってね!」
「…………」
「そしたらそれはシンジが手入れにお金をかけてくれないのが悪いんだって」
「はぁ?」
「シンジの貧乏が悪いのよ! って話になったから、だったらお使いくらい行ってこいって、お小遣いやるからって」
「それがどうしてカップ麺に繋がるの?」
アスカはぎりぎりと歯を咬んだ。
「カレー用のお肉三百グラム買って来いって行かせたら! サーロインステーキ十キロも買って来やがったのよ!」
「……そうなんだ」
「しかも口にくわえて帰って来やがったもんだから食べることもできないし!」
「なるほど」
「そういうわけであのバカ犬の不始末の責任はシンジにとってもらいますからね!」
「ええと……」
だったらとシンジは首をかしげた。
「どうしてアスカもカップ麺食べてるの?」
「アンタばかぁ?」
アスカは本当に呆れた調子で口にした。
「あんたがカップ麺食ってる目の前で、なんで普通に食べられんのよ?」
日本人は察しと思いやりってね! つき合いよつき合い! ……そういってずるずると二個目のカップ麺にかかるのだがやはり謎であるとシンジは首をひねった。
(綾波が食べちゃった分を弁償しろっていうならわかるけど、だったらどうしてカップ麺を分けてくれるんだろう?)
どっちみちアスカのおごりである。
なんだか理解できないシンジであった。
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