──綾波レイの夜は早い。
 どれくらい早いかと言えば、朝五時に起きて散歩に連れて行けとわがままを言い出すくらいに早く寝る。
 言い方を変えれば、食ったら寝る……とも表現できる。
「こいつは……」
 アスカはいらいらとレイを見下ろした。
 テレビの前でぐでんと横になっている。口のまわりには肉の脂がべったりと付いている。
「ああもうちゃんと拭かないと……」
「優しいんだ……」
「違うわよ! こんなんでごろごろやられたらカーペットとかどうすんのよ!」
 なるほどと思うシンジである。
「気づかなかったな……」
「はぁ……あんたって子供ができてもにこにこ笑ってみてるだけでやりたいようにやらせるタイプね」
「なんだよそれ……」
「ああもう!」
 テーブルを拭いた布巾でごしごしとレイの口をぬぐい去り、アスカはその布巾をテーブルにたたきつけた。
「なんであたしがこいつの面倒まで見なきゃなんないのよ!」
 そのレイはといえば布巾で拭かれてくさくなったのか必死に鼻をこすっている……寝たままで。
「ごめん……」
「あやまってすませようってんじゃなくて! なんとかしつけろってのよ!」
「でも……」
「なによ?」
「苦手なんだよ……綾波。あの目でじっと見られると」
「怖いの?」
「……なにか訴えてるみたいなんだけど、なにを言いたいのかぜんぜんわかんなくて、間が持たないんだ」
 アスカははぁッとため息を吐いた。
「それはきっと、ほんとになんにも思ってないか、なんにも考えてないから読みとれないだけなんじゃないの?」
「そうなのかなぁ……」
「そうよ!」
 だいたいねぇと、アスカはレイの背後に座ると彼女の髪を両手でつかみ上げて左右に引っ張った。
「ペットってのは! 普通もっとこうかわいげがあって! 媚びて餌をもらおうってするもんなのよ!」
「そうなの?」
「そうよ! マナ見てればわかるでしょ?」
 なるどと納得してしまうシンジである。
「まったくもう……こいつほんとに、どうしてくれようか」
「はぁ……」
「せめて見た目にかわいげがあったらねぇ……」
「たとえば?」
「猫だったら猫耳とか」
「ネコミミ……」
「犬耳としっぽとか」
「う……」
 何を思い出したのか? 鼻を押さえるシンジである。
 そしてそんな不自然さを見過ごしたりはしないアスカであった。
「あんた……」
 ギロリと睨まれ、シンジは自爆した。
「ちがう! ごかいだよ!」
「なにが?」
「う……」
「ちょっとあんたなにがあったのよー!」
 血走った目をしてシンジを脅す。
 そんなアスカは怖かった。

[BACK][TOP][NEXT]