「ところであんた、なに読んでたの?」
一通り暴れてすっきりしたのか? アスカは転がっていた雑誌に手を伸ばした。
シンジはといえば、アスカに四の字固めをかけられた状態である。
「痛い痛い痛い……」
「うっさい! これ……ヒカリたちが読んでたやつじゃない」
「うん……みんながくれるっていうからもらってきた」
「ふうん……」
寝っ転がったままでぱらぱらとめくっていく。
「なっつかしいなぁ……あたしにもこんな頃があったのよねぇ」
「それ……おばさんくさ……痛い痛い痛い!」
「なんでそうよけいな一言が多いんだか」
ふんとあざける。
「ま……たしかに今のアタシじゃ無理かもね」
「そうなの?」
「まあね……」
「でもアスカってかわいい……ああって、そういう意味じゃなくって、ええと……そういう意味か」
「……ありがと」
「うん……」
「でもあんたよくわかってないでしょ」
「え?」
「こういうお澄まし顔やれっていわれても、今のアタシには無理だって言ってんのよ。我慢できない。鳥肌が立つわ」
「それって自分がわかってきたって……痛い痛い痛い!」
「……さっきの帳消し」
「痛い痛い……ねえ」
「なによ? ……余裕あるじゃない」
「きつくしないでよ! っていうか、アスカってこういうのやってたからお金あるの?」
ざーんねんっとアスカはブーッと口を鳴らした。
「モデルを雇うお金がないからって頼まれてやってたのよ? それもママに。大したお金なんて」
「じゃあどうしてお金あるの? お母さんの?」
「アタシのよ」
「?」
「株よ、株! モデル代を投資したのよ。まあ子供じゃ無理だったからママに名義を貸してもらってやってたんだけどさ」
「へぇ……凄いんだ」
「あたしとしては将来はシンジ名義に」
「……それはおいといて」
「なんでよぉ!」
「アスカって凄いなぁ……ちゃんとお金を稼ぐ方法がわかるんだ」
「そんなの簡単じゃない」
「そうかなぁ?」
「そうよ」
「でも僕にはアルバイトくらいしか想像できないよ」
「そういうもん?」
「普通そうだと思うよ?」
「ふうん……まあいいわ」
「なにが?」
「とりあえず家計簿の付け方から教えてあげるから、ちょっとは覚えといた方がいいんじゃない?」
「そうかなぁ……」
「そうよ! 将来このマンションの経営とか、あんたもやんなくちゃいけないんだからね!」
「だからぁ……」
「碇君」
「わぁ!? 綾波!」
シンジはのけぞって逃げようとしたができなかった。
アスカに足を固められているからである。
「ちょっとあんた!」
そのアスカもやはり動けない。動こうとするとシンジに四の字固めを返されたような状態になってしまうからだ。
それをいいことにレイは腹這いの状態でシンジの顔に接近した。
「碇君」
苦手な目がそこにある。
「あの人に感謝しましょう」
「へ? なんでさ」
「ありがとう、感謝のココロ」
「だからなにいってんだよ?」
「だってあの人はこのマンションをくれるって言ったわ」
「あんたに上げるなんて言ってなぁい!」
「でもわたしは碇君のものだから、碇君のものはわたしのものだわ」
「なんかそれおかしいよ……」
「そういうわけだから、子供はたくさん作りましょう」
「子供ぉ!?」
「そう……子供がたくさん。働き手がたくさん。部屋は一人一部屋で。なんて贅沢……そして子供たちには働かせて、悠々自適に老後を過ごすの」
「なんて退廃的なのよ……」
「そんな感じで、わたしたちの未来は薔薇色よ……そこにいる人を人柱にして」
「すんなー! せめて犠牲と言えー!」
「くすくすくす……じゃあ生け贄に」
「あんたねぇ!」
「痛い痛い痛い痛い痛い!」
怒りに我を忘れて起きあがろうとしたアスカの動作に、シンジは本気で泣きを入れた。
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