「ふぅ……」
 教室。
 はしたなく机に肘を突いて、ほおづえを作っているアスカがいる。
(アンニュイ……じゃなくて、モナムーでもなくて、えっと)
 それを見ていたヒカリである。
(なんだっけ? もっとこう今風の……今風って! あたしおばさんじゃないもん! 今思い出すからちょっと待って! ああんもうどうして考えつかないの? あたし所帯じみてない! あたしまだ十四歳なんだからぁ!)
 そしてそれを見ていたトウジがいる。
「なんや今日も怖いなぁ」
「あ? ああ……電波受信してるんだろう」
「昔は電波系いうたら綾波やおもてたんやけどなぁ」
「あれはあれで変だけどな」
 ちなみにレイの耳は特別仕立てなので、しばらく二人は夜になると恐怖体験をする羽目になる。
 ──それはともかく。
「アスカ……どうしたの?」
 聞かれたアスカは、シンジを目にして、またも大きく吐息をこぼした。
「……ふぅ」
「なんだよ……人の顔見て」
「……できたの」
「できたって……なにが?」
「赤ちゃん」
 ガタタン!
『なにぃ!?』
「フケツよー!」
「え? え? え?」
「なんだよ!? トウジ、ケンスケ! なんで僕が拘束されなくちゃならないんだよ!」
「やかましいわ!」
「白状しろ!」
「白状って、なにがだよ!」
 ずずずいっと寄る男子軍。
「惣流さんの足!」
「腰!」
「胸!」
『なにしやがった!』
「なんにもしてないよー!」
「ちょっと男子!」
「黙っててよ!」
「うるさい! これは可及的速やかに解決せねばならん問題……」
「静かにしててくれないと、惣流さんに聞けないでしょう!?」
『なるほど!』
「なるほどって、なによ!?」
「そりゃシンジに聞いてもムカつくだけやし?」
「惣流から聞いた方が萌えるよなぁ?」
「あんたらって……」
 アスカははぁっとため息を吐いた。
「なんか勘違いしてるみたいだけど」
 パタパタと手を振る。
「赤ちゃんができたのはあたしじゃなくて、犬よ、犬」
『へ?』
「前に拾った犬が子供作っちゃってねぇ……どうしようかなって」
『なんだ……』
 ぞろぞろと離れていく。
「こいつら……」
 しかしアスカには見えないように、シンジを小突いていくのは忘れない。
「いてっ、いてっ。なんだよもぉ……」
「で……アスカ、犬なんて飼ってたの?」
 もっともなことを訊ねたのはヒカリであった。
「ちょっとねぇ……」
 ちらちらとシンジを見やる。
「それで何匹生まれたの?」
「三匹。マンションで飼うには多いし、どうしようかなって」
「もらい手探すの?」
「そう……しないといけないんだけど」
 いやんいやんと体を抱いて急にもだえる。
「これがもう可愛くってさ!」
「なるほどねぇ……」
「別に飼ってもいいんだけど。でも三匹も四匹もってなると、散歩とか大変だし」
「そっかぁ……でもアスカの犬なら欲しがる人っていくらでもいるんじゃない?」
「やぁよ。そういう奴だとアタシの名前とか付けそうで気持ち悪いし」
 ──キモチ悪い!?
 がーんっとショックを受ける少年たち。
 なにかイタイ心当たりがあるらしい。
「ふ、ふうん……じゃあどうするの?」
 ヒカリは急にどんよりと重くなった室内の空気に焦ってしまった。
「うん……今はマナが世話してくれてるからいいんだけど」
「え? 霧島さんが……」
「あいつ子犬とか好きなのよねぇ」
「へぇ……」
 本人が犬みたいだけど……とは、ちょっと遠慮して言えなかったヒカリであった。

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