「で、どうするの?」
ヒカリの問いかけに、アスカはう〜〜〜んと唸り声を上げた。
「どうもねぇ……犬って手放せないのよ。あたし」
「へぇ? どうして」
「昔ちょっとあってね」
「なに?」
「シンジが捨て犬拾ったことがあったのよ。どうしてもってがんばっちゃってさ、その時のこと思い出しちゃって、どうもね」
「ふうん……」
──本当は。
アスカは心の内でつぶやいていた。
玄関先で、子犬──マナを抱きしめてしゃがみ込んでいるシンジの顔がちらついてしまうのだ。
意固地になっている顔。昔は意味がわからなかったが、今では十分理解できる。
あの家の人たちの仲間にはなりたくないと訴えていたのだ。
(見捨てるような冷たい人間にはなりたくないって)
だがそれをしなければならない現実があって。
(悔しかったのよね……)
ちらりとシンジの様子を覗く。
「だからぁ!」
「よしっ! 十歩譲って妊娠は間違いだったとしておこう、しかし!」
「お前があーんなこととかそーんなこととかをしていないという保証はない!」
「あああああ!」
はぁっとため息をこぼしてバカとつぶやく。
(レイだって似たような感じで拾っちゃったみたいだし、中身、変わってないのよね)
「ただいまぁ」
アスカは下駄箱に手を突いて、逆の手をかかとにやり、靴を脱いだ。
「マナいないのぉ?」
「こっちぃ……」
弱々しい声がリビングから聞こえてきた。
「寝てたの?」
「違うぅ……」
ぴくぴくとけいれんしている。
「なによ?」
「うんちしたのぉ……」
「誰が?」
「この子たちぃ〜〜〜」
「それで?」
「お尻舐めたら」
「…………」
「くさかった」
がくっと力尽きてしまう。
「あんたバカ?」
他に口にすべき言葉がなかったアスカであった。
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