「まあ」
シンジである。
「犬猫の赤ちゃんって自分でうんちとかおしっこができないから、親が舐めて刺激してあげるんだって言ってたしね」
「誰が?」
「綾波」
「それで?」
「…………」
「なんで赤くなってんのよー!」
「いや練習とかって」
「あああああ、あんたまさか!?」
「違うよ! してないよ!」
「あんた自分が中学生だってわかってんの!?」
「だからしてないって!」
「ほんとでしょうね!?」
「ほんとだよ!」
「まったくもぉ……」
「ほら……綾波は犬だから、ね?」
「都合の悪いときだけ犬とか言ってんじゃないっての」
「ごめん……」
「で、あのバカ犬は?」
「子犬見てくるってそっちの部屋に行ったけど?」
立ち上がりかけて、アスカはやめた。
「マナがいるから大丈夫か……」
「ほんとに?」
「大丈夫よ……たぶん」
アスカに教わったとおり、軽くしめらせた脱脂綿で子犬のお尻を刺激しているマナが居る。
それをじっと見ているのはレイだった。
「やってみる?」
ふるふるとかぶりを振り、またじっと見る。
それからようやく口にした。
「どうしてその子は、あなたに子供を任せるの?」
「え? なに?」
「母犬は子犬を取られるのを嫌がるものよ?」
「でもちょっと病気気味だから、あたしが任せてもらったの」
「ふうん……」
母犬は段ボール箱の一面を切り取り、中に毛布を敷いた即席小屋の中で療養中である。
「アスカ言ってた。産後の肥立ちが悪いのかもって」
「慣れているのね」
「勉強してるモン!」
えっへんと胸を張る。
レイはちょっとショックを受けた。
自分の胸を持ち上げるようにして手で支え、じっと見下ろす。
やっぱりショックを受けてしまった。
「そう……おいてけぼりなのね」
ぶつぶつと『ど根性がえる』の替え歌を歌い出す。
「母犬子犬、雌犬には胸があるけれど、貧乳は一匹♪」
「……異常な世界だ」
そっと覗いたシンジであったが、怖くなったので思わず引き返してしまうのであった。
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