「レイー?」
ムツダロウさんと罵声の王国というあやしいドラマを見ていたレイが、アスカの呼ぶ声に振り返った。
お風呂場にいるらしいアスカに対して、目で「なに?」と問いかけている。
「あんたもちゃっちゃっとお風呂に入んのよー?」
スッと立って、そのまま部屋へ。持って出てきたのはタオルと着替えだ。
アスカの教育が──アスカはしつけと口にしているのだが──それが利いた結果であろう。
しかし、シンジはなんでと思った。
「ねぇ……」
「なに?」
お風呂場に消えようとしたレイを呼び止め、シンジは訊ねた。
「なんで僕のパンツ持ってくの?」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
──ポッ。
「なに赤くなってんのよー!」
──ガスッ!
アスカの光よりも速いつっこみ──蹴りが入って、レイはすっ飛んで消えてしまった。
「……アスカ、加減忘れたね?」
「あう……」
「わ、悪かったわよ」
アスカはしぶしぶと言った感じで、シンジの背中に隠れてじっと睨んでいるレイに対して謝った。
警戒して怒っている……ようにも見えるのだが、頭の上につきだしているケモノ版の耳は伏せられている。おびえているのだ。
だからアスカの調子も悪かった。
「でもあんたも悪いのよ!」
「…………」
「なんでシンジのパンツなんか」
そうだよとシンジ。
「……なんでさ?」
レイはわずかに離れると、こういうことよとスカートを上げた。
──ブゥ!
「きゃああああ! シンジっ、鼻血、鼻血! っつか、なんであんたシンジのパンツなんてはいてんのよ! それも前後ろ逆!」
くるっと回ると、尻尾があった。
ぱたぱたと揺れている。
「こういうこと……」
「出すなー! それも、そんなとこからー!」
「でも女の子用じゃ出せないもの」
「出さなきゃイイのよー!」
「……なに赤くなってるの?」
「なるに決まってんでしょうが! そ、そんな……そんな」
両の頬に手を当てる。
真っ赤にゆであがっている。やたら火照ってしまっている。
「そんなシンジのが収まってたとこから! それも、あんたが大事なトコ当ててる部分なんて、前なんてシンジのお尻があったところよ!?」
シンジは鼻を押さえつつ立ちあがった。
そしてレイではなくアスカを見上げた。
「……なんでそんなとこだけ純情なの?」
──ガン!
素朴な疑問だったのに……そんなシンジの悲しい嘆きの声は、乙女心を毒されたアスカには届かなかった。
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