「人間は薬で治すもんなのよ!」
「でも人が病気を治すためには看病は必要よ。汗を拭くことも」
「なんでそんなことは知ってるのよ……」
「だからわたしが……」
「そういう方法を取るなって!」
「なぜ? 問題ないわ。獣は人の手を舐めて塩分を取るものだから」
「それは猫の話でしょうが!」
「ああいえばこういう……」
「それはあんたのことでしょう!?」
「わたしにどうしろというの?」
「看病するなとはいわないけどっ、ごく、普通に! 当たり前に看病しろっていってんのよ!」
「だからこうして……」
「襲うなぁ! 食うな、食べるなぁ!」
「なにを?」
「ふらんくふると!」
(いまのうちに……)
 せっせと体をぬぐうシンジである。
「はいシンちゃん腕上げて」
「うん……」
「アスカたちも静かにしてくれたらいいのにね?」
「うん……でも」
「なに?」
「あったかい……」
「ふえ?」
「こういうとき……誰か居てくれるって、あったかい」
「シンちゃん……」
「一人でじっとしてると、死ぬのかなって思うとき、あったから」
 暗い瞳が過去を見ている。
 庭のプレハブ小屋の中。
 湿気たかびくさい空気を吸いながら、こんこんと咳をしたこと。
「だから……にぎやかなの、嫌いじゃないよ」
「うん!」
「って、え?」
「え?」
 シンジはようやく気が付いた。
「マナ?」
「はい?」
「なんでここにいるの?」
「シンちゃんの手伝いだけど?」
 まずい。
 そう思ったときには遅かった。
「しーんじぃ?」
 恐ろしい声。
「そう……その子なら良いのね」
 ぎちぎちと恐ろしく固い音を立てつつ、首を巡らせるシンジである。
「は……はは、いや、これは……」
「コロスぅ! あんた殺してあたしも死ぬぅ!」
「なんでそうなるんだよ!?」
「…………」
「綾波なんか言ってよ! 睨まないでよ!」
 はいはいまぁまぁとマナが追い出す。
「シンちゃん風邪引いてるんだから、ね?」
「う〜〜〜!」
「…………」
「じゃシンちゃん、ゆっくり寝ててね?」
 続きは元気になってから。その言葉に元気になるのも怖いなと思う。
 シンジはごろんと転がった。にやけた笑みが浮かんでしまうのは、今が楽しいからだろう。
 シンジは泣きそうになって、腕を顔に当てた。そして気が付き、くんと嗅ぐ。
「取れないや……唾液の匂い」
 う、膨張してしまった……恥ずかしい。
 妙な興奮を覚えてしまう、年若い思春期の少年であった。

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