「…………」
 窓辺に犬座りをしているレイがいる。
 外は雨。じっと雨打つ音に身を任せている。
「綾波ぃ……なにしてるの?」
 シンジはその隣に腰を落とした。
 なんとなしにレイの背を撫でてしまう。
「雨……」
「ん?」
「雨は憂鬱……けだるくなるから。嫌なことを思い出すから」
「そっか……」
「一人の時。じっと待ってた。誰もわたしを見ようとしなかった」
「寂しかった?」
「…………」
 そっかと勝手に納得するシンジである。
(一人ねぇ……)
 しかしなんとなしに聞いていたアスカは想像してしまっていた。
 勝手に移動するレイの小屋。
 その小屋の中でじっと雨がやむのを待っている女の子。
 目を合わせないように避けて通る一般ぴーぽー。
(異常者?)
 そりゃ誰も声なんてかけないわ……と冗談交じりに考えて、アスカはそれが正解なのではないかという気がして、レイの鬱病をもらってしまったのであった。

 ──ザァザァと雨が降る。
「明日も雨なのかな……」
 アスカが答える。
「そうなったら、相合い傘ね!」
「なんでだよ……」
「だあってぇ〜〜〜、傘飛ばされちゃいそうだしぃ♥ シンジ助けてぇって」
「僕より力あるくせに」
「何か言ったぁ!?」
「別に……」

 ゴォゴォと雨が降る。
「っつかさ……」
 顔面を叩きつけるしぶき。
「台風なんじゃないのぉ!? これ────!」
 シンジも焦る。
「綾波、窓閉めてよぉ!」
 真正面から雨を受けながらも動かないレイ。
「部屋ん中びしょびしょだよー!」
 ピカ! ごろごろごろ……。
 とうとう雷まで鳴り出した。
 ピカ! ごろごろごろ……。
 レイの髪と尻尾が一瞬ふくらみ……そして徐々にしぼんでいく。
「あ────! こいつおもしろがってる!」
「綾波、そういう遊びはやめてよぉ!」
 ──にたり。
 口元にいやらしい笑みを貼り付け、レイはやはり動かなかった。

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