「ママ! テストで一番になったの! はじめて百点取ったの!」
──走る。
「ママに褒めてもらおうと思って、一生懸命がんばったの!」
──力一杯。
「だからママ!」
──仕事場。
「ああ、アスカちゃん、お帰りなさい」
「うん! あのね? あたしね!」
「アスカちゃん、ほら! 新しいお洋服ができたのよ?」
「ママ……」
「きっとアスカちゃんに似合うから、ほら、ぴったり! あ、でもここがちょっと」
「ママぁ……」
作業台の上に、ぽつんと丸めて捨て置かれる答案用紙。
広げられる型紙が、それを押しのけ、床に落とす。
嬉々としてミシンに向かう母。そしてその仲間たち。
(あたしを見て……)
椅子の上に、お人形。
(あたしを、見て……)
着飾られるだけの、お人形……。
「…………」
学校。
やけにくたびれているアスカ。
机に突っ伏すようにして眠っている。
「なんや、どないしたんや?」
「アスカのこと?」
「えらいおつかれのご様子で」
ぐぷぷといやらしい目でシンジを見やる。
当然ケンスケも追従した。
「トウジ……そういうのを野暮って言うんだよ」
「おおっ! そやな、そやそや」
「俺たちお子様には関係ない世界のできごとなのさ!」
「小突くなよなぁ……」
頭をかばいつつ、アスカを見る。
「……僕にわかるわけ、ないじゃないか」
シンジはちょっとだけ唇をとがらせた。
「アスカは自分のこと、なにも話してくれないもん」
(でも……)
雑誌のことを思い出す。
(あれからアスカ……)
──二年A組の碇シンジ君。校長室まで……。
シンジは呼び出しの放送に顔を上げた。
「なんや、なんかしたんか?」
「別に……覚えなんてないけど」
「気を付けた方が良いんじゃないか?」
「え?」
「だってさ……。お前って、一応同棲してるようなもんだろう?」
「違うって……」
「そうだろうけどさ……。でもハタから見てると同棲なんだよ」
「……そうなのかなぁ?」
「そうなの! お前、そこんとこ学校に説明できるか?」
「あ……」
不安げなシンジが視線をさまよわせると、偶然、アスカと目が合ってしまった。
「失礼します」
ノックして、声をかけて、扉を開く。
それかもう一度失礼しますと声を発する。
「あの……」
「そこに座りなさい」
校長に促されて、腰掛ける。
正面には、見慣れない人が座っていた。
「ではわたしはこれで」
校長が退出していく。
え? という顔をして、シンジはどういうことなのだろうかと訝しげに女性を見た。
「初めまして、碇シンジ君ね?」
「はい……」
「わたしは伊吹マヤと言います」
「はぁ……」
渡された名刺に目を落とすのだが、読めなかった。
日本語で書かれていなかったからだ。
「ドイツのデザイナー業界で……、そうね、雑誌とか、ファッションショーとか、そういったものを企画する仕事をしているのよ」
「…………」
「で、ね? 今日お話しさせてもらいたいのは……アスカちゃんのことなのよ」
ああ……やっぱりな。
シンジはどこかで、冷めていた。
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