「ふうん……伊吹さん、帰ったんだ」
「そうよ! まったく、イライラする」
 あんたも! っと指を差す。
「あんな奴の言う言葉に惑わされてんじゃないの! わかった!?」
「ごめん……」
「良い!? あんたはあたしの言葉を、しっかりと信じてくれてればそれでいいのよ!」
「うん……でも」
「なによ?」
「本当に……アスカはそれで良いの?」
「良いに決まってんじゃない」
「でも僕にはわからないんだ」
「なにが?」
「僕に、そんな価値があるの?」
 アスカははぁっと嘆息した。
「気持ちは、わかるわ」
「うん……」
「自分に自信がないのね。だから好きだって言われても受け入れられない」
「そうなのかもしれない」
「あたしと同じね」
「アスカ?」
「ねぇ、小さい頃のこと、覚えてる?」
「…………」
「みんな可愛いって言ってくれた。かまってくれた。でもそれはお人形と同じ扱いだった。あたしはそれが嫌だった」
 愁いを帯びた顔を見せる。
「だからいつも、けんか腰だったの。イライラしていたから。でもそれ以上に、人形じゃない、生きてるんだって表現したかったのよ」
「そうだったんだ……」
「でもそれはただの生意気なガキだったわ、だからみんなに嫌われてた」
 シンジを見る。
「シンジだけだったじゃない……。そんなあたしに、突っかかるだけで、一緒にいたってちっとも面白くないあたしに、ずっとかまってくれてたのって」
「そうだっけ……」
「そうなのよ。あたしはそれが嬉しかった。だから引っ越すことになって、シンジを失ったとき、あたしは昔のアタシに逆戻りしたのよ……。お人形にね」
 それが子供服のモデルをしていた頃だと話す。
「だから、シンジに逢いたかった。シンジに逢えば、人に戻れるって思ってた」
「アスカ……」
「シンジには……わかんないでしょうね。あたしがどれだけシンジを必要としているのか? シンジがどれだけ大事なのか? それはあたしが感じてるものだから、シンジにはわかりはしないでしょうね」
 寂しげにする。
「シンジがどうしてあたしを友達だなんて思ってくれてるのか、本当にわからなかったのよ……。ううん、今でもわかんないわ。一体あたしに、どんな価値があるっていうの? 可愛いとか綺麗なんて言葉、嬉しくもなんともないのよ。それはお人形だって言われてるのと同じだから……」
「…………」
「ほら! しゃきっとしなさいよ!」
「うん……」
「あたしこそ……あんたがいてくれないと、ダメになるのよ……。だから貢ぐの、今は物しかないから。お金くらいしか渡せないから」
「そんな! そんなのってないよ……そんなやり方なんて」
「嫌われるのはわかってる。最低だもんね? でもあたしには他に必要だって思ってもらえるようなこと、なんにもできないんだもん」
 だから。
「あたしをもらって!」
「ええ!?」
「こういうのが嫌なら、あたしをもらって!」
「なんでそうなるんだよ!?」
「そうすればあたしがシンジのものになると同様に、シンジもあたしのものになるからよ!」
「そんな勝手な!」
「みんなで幸せになりましょう?」
「みんなって、誰なんだよぉ!?」
「コドモー!」
「いーやだ────!」
 なぜ十四歳で、ここまで追いつめられなくちゃならないんだろう?
 ちょっとだけ自分というものを見返してしまったシンジであった。

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