──誰か僕を助けてよ。
 意外なことにこの訴えに応じてくれたのは、普段彼に対して妬心を燃やしているクラスの男の子たちであった。


「碇」
「な、なに?」
 暗い部屋。
 シンジは壁際に追いつめられていた。
「話は聞いた……。確かに惣流さんには行きすぎのきらいがある」
「うん……」
「そこで、俺たちはお前の味方をしてやることにした」
「な、なんでさ?」
「もちろん、俺たちとしても、惣流さんには嫌われたくはない……むしろ、好かれたいと言っておこう」
 くぅっと腕で涙を隠す。その気配に、一人二人ではない、少なく見積もっても十何人かは居ると確信する。
「しかしだ! お前の言い分もわからないではないっ、彼女は明らかに暴走している」
「暴走……」
「そうだ! 中学二年生で、ああもあからさまに性交渉を口にするなど、常軌を逸しているとしか言えないだろう!」
「そうだね……、うん」
「そこで! 彼女にはまず日本人の正しいおつき合いの形というものをだな!」
 ──バン!
 鬱陶しく薄暗かった更衣室に、明るい廊下の光が差し込んだ。
「……おつき合いの形が、なんだって?」
「アスカ!?」
 力任せに扉を開いたのはアスカであった。からんと落ちたのはかけていたはずの鍵の蝶番(ちょうつがい)である。
「馬鹿な!? あの鍵は技術部の連中が面子にかけて制作した!?」
 どんな面子かと言えばこれさえ付けていればどんなにいかがわしい本を回し読みしていても、教師に踏み込まれなくて済むというようなくらいである。
 ちなみに技術部とは技術工作部のことを指す。
「あれの発注には相田の利益の一部も回って……はっ!?」
「ほほぉ」
 ぱきぽきと指を鳴らす音。
「面白い話が聞けそうね?」
「くくぅ! こうなればやむを得ん! 碇っ、許せよ!?」
「ええ!?」
「惣流! 碇は預かった! 無事に返して欲しくば……」
「アンタばかぁ?」
「なにぃ!?」
「っていうか、あんたらばかぁ?」
 にやにやと笑う。
「あたしから逃げようったってそうはいかないんだからね? ばかシンジ!」
「あうあう!」
「あたしから逃げようとした罪は重いわよ!? よってあんたも殲滅対象!」
『わぁあああああ!』
 狭い中で逃げまどう、シンジを除いた総勢二十名。
 単純なシンジは気づいてはいなかった。所詮彼らは横恋慕組合である。シンジとアスカの関係発展の阻止をもくろんでいただけなのだ。
 そんな彼らにとって、可愛い女の子はあくまで共有資源、財産である。
 そう、アスカはまさに魂の人。
 彼らの魂の座に座る人。
 故に、彼らはこう名乗っていた。
 ゼーレ。アスカ共同鑑賞委員会、と。

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