──リビング。
 丸くなるようにして眠っているレイが居る。
 視線を感じるのか? 寝苦しげに寝返りを打って仰向けになる。
 そのまましばらくお腹をさらしたかと思うと、反対側にごろんと横になって、また丸くなった。
 ──シンジは思った。
(そういえば、父さんに全然会ってないな)
 今度会いに行こう、そう考えた。


 ──日曜日。
「よく来たな、シンジ」
「うん……」
 ほらっと脇を小突かれ、シンジは慌てて言葉を付け足した。
「ごめん、全然連絡しなくて……」
「いや、良い……。問題ない」
 碇家本宅。
 庭にはレイとマナがはしゃいで転がり、芝を荒らし回っている。
 ちなみにそちらに背を向け、決して見ないようにしているゲンドウである。よって庭に対して家長が背を向け、客が家の奥に座らされているという、妙な配置ができあがっていた。
「アスカ君もよく来てくれた」
「はい……あの、赤木さん」
「はい?」
 ちなみにリツコは少し離れて部屋の角隅に座している。
「ありがとうございました……マヤのこと」
「ああ。あの子にも困ったものね……思いこみが激しくて」
「はぁ……」
「どうもなにか誤解してたみたいで」
「あの……」
 思い切ったのはアスカであった。
「赤木さん……」
「リツコでいいわよ?」
「……リツコさんとおじさまって、どういうご関係なんですか?」
 リツコはちらりとゲンドウを見てから、正直に答えた。
「押しかけ女房……」
 ──ブゥ!
「というのは冗談で」
 ──ゲホゲホゲホ!
「レイのことで入院なさったときに、介護してくれるような人がいないって聞いてね? それでわたしが」
「それだけなんですか?」
「新しいシンジ君のママだって思ったの?」
「そうだったらあたしのママにもなる人ですから」
「まあ」
 恐ろしい話だと男二人はそっぽを向く。
「良い天気だな」
「うん」
 ホケキョと鳴いた。なんだろう?
「まあ……なんとなしに居着いてしまって、そのままなのよ」
「そうなんですか」
「職場も同じだし、部署も同じだから仕事時間も重なっているしね。それにわたしも一人暮らしだったから」
「それで、同居を?」
「というよりも単純に家賃の問題かしらね? ほとんど家に帰れないのに、職場の場所柄高い家賃を払わなきゃならなくて、困ってたのよ」
「そうだったんですか……」
「家政婦として花嫁修業の見習いをさせてもらっている……と言ったところよ。この歳で花嫁修業もないでしょうけど」
 ねぇっと微笑む。
 アスカはその笑みに対して、いい人なんだなとかぶりを振った。
「あたしだってまだ子供だけど、そういうこと考えちゃいますから」
「そう?」
「はい。年齢はあんまり関係ないんじゃないかな? 好きな人が居れば……」
 二人の目が、そろって依然としてあさっての方角を見やっている男共へと向けられた。
「シンジ……」
「なにさ?」
「逃げてはいかんぞ」
「じゃあお手本見せてよ」
「シンジ、父を越えて行け」
「僕はまだ父さんの背中を見て育つ歳だから」
 ……実際よく似た親子であった。

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