おっでこぴっかぴーか♪
 生え際こおたーい♪
 そーれがどうした?
 僕どらエヴァン
(以下略)



 どらエヴァンは未来から来たおじさん型ロボットである。
 もともとは未来の紳士淑女型ロボットコーナーで売られていたのだが…


 バシュー…
 吹き荒れる電磁波の嵐。
 その中から立ち上がる影、どらエヴァンだ。
「ふむ」
 くいっと眼鏡の位置を正し、きゅっとお尻を引き締める。
 時空間転移の都合上、服は消し飛んでしまったのだ。
 電灯に映える生ケツ。
「夜の駐車場か…」
 周囲の確認。
 転移物体が転移先のもの、例えそれが原子単位のものであったとしても、次元軸が重なれば対消滅を起こしてしまう。
 その解決方法として、どらエヴァンを中心とする直径二メートルの空間は、現在と未来とで入れ代わっていた。
「そしてそれが未来に手がかりを残すことになる」
 車やアスファルトが、どらエヴァンを中心に、円形に削りとられていた。
 それらはどらエヴァンを送り出した転送ポッドの中へ送られたのだ。
「まあ良い、追っ手などどうにでもなる、さて…」
 堂々とふる○んのまま胸を張る、偶然道を通りがかった女の子と目が合った。
 顔を真っ赤にして、信じられないものを見つけたような目つきをしている。
エッチバカ痴漢変態!、もう信じらんなーい!
 それが彼女、惣流・アスカ・ラングレーとの出会いだった。



てけてけん♪
綾波レイ...の巻

ふぁ〜んふぁ〜んふぁ〜〜ん…




「碇君…」
 スケッチブックを手に、レイが立っていた。
「綾波…」
 下校途中、シンジはレイに呼び止められた。
「な、なに?」
 レイはいつも制服だった、シンジはその制服が何の制服なのか知らない。
「姉さんが呼んでいたから…」
 うっと嫌な顔をするシンジ。
「じゃ、ジャイアンがぁ?」
「それじゃ、あたし先に行くから…」
「あ、ちょっと待ってよ、綾波ぃ!」
 慌てて追いかける。
 追いかけたはいいものの、話すことが無くてシンジは困ってしまった。
「え、えっと…」
 間が持たない。
「そ、そうだ、綾波っていつもスケッチブックを持ってるね」
 返事は返ってこなかった。
 だがくじけずに訪ねる。
「どうして持ち歩いてるの?」
 レイの歩みがとまった、立ち止まる。
「綾波?」
 近寄りがたい雰囲気を受ける。
「絆…だから」
 迷うような答え方。
「絆?」
「そう」
 肩越しに見える目。
「私には、他になにもないから…」
 また歩き出した。
「綾波…」
「バカシンジー!」
「うわぁ!」
 良い雰囲気は一瞬で破壊された。
「じゃじゃじゃじゃじゃ、ジャイアン!」
「それはやめなさいって言ってるでしょ!」
 ヘッドロックをかける。
「何すんだよ!」
「あんたバカぁ?、このあたしがあんたいじめるのに、いちいち許可がいるわけ?」
「酷いやそんなの!」
「うっさい!、あんたはあたしの言うことだけ聞いてりゃ良いのよ!」
 ヘッドロックをかけたまま引きずり出す。
「ちょっと、どこに行くのさ!」
「あたしの家!」
「な、なんで急に!!」
「良いから!、来るのよ!」
 シンジからは見えなかったが、アスカの耳は少し赤くなっていた。


「ちょっとどこ行ったのよバカシンジ!」
 アスカの声が聞こえる。
「冗談じゃないよ、どうして僕がアスカの枝毛なんか切らなきゃいけないんだよ」
 シンジは惣流家の庭の茂みの中に隠れ潜んでいた。
 でかかった、とにかくでかい家だった、家と言うよりは豪邸である、アスカは日本でも三本の指に入る総合百貨店「ソウリュウ」の社長令嬢だったのだ!
 日本庭園風、庭だけでも学校の敷地より広かった。
「でも出口どっちなんだろ?」
 茂みから出ようとして、あっ!っと落下感に囚われた。
 次の瞬間、シンジはぼっちゃーんっと池に落ちていた。
「つめた〜、こっち池になってたのか…」
 運よく膝から下が濡れただけですんだ。
「碇君…」
「あ、綾波…」
 レイが池の側、一抱えもありそうな庭石の上に座っていた。
「はは、酷いとこ見られちゃったね…」
 池からはいあがる。
 レイは相変わらず冷たい目でシンジを見ていた、が、興味をなくしたのか、再びスケッチブックに向かいはじめた。
「何を描いてるの?」
 覗きこむ、レイは0.3の製図用シャープペンシルで、庭の様子を描いていた。
「へぇ、うまいんだ」
 シンジは素直に感心した。
「な、何を言うのよ…」
 珍しくうろたえる、首筋まで真っ赤になっていた。
「ほんとにうまいよ、綾波って案外、画家とかになったりしてね」
 はははははっと一人で笑う。
 だがレイの手が止まったので、シンジは笑うのを止めた。
「あ、ごめん…、バカにしたわけじゃないんだ」
 レイは黙ってページをめくろうとした、ただ描きあがっただけだったのだ。
 しかし手をとめる。
「あれ?、どうしたの?」
 レイはいったんスケッチブックを閉じ、最初のページを開いた。
「へぇ…」
 そこには惣流家のだんらんの様子が描かれていた。
「アスカって普段こんな風なんだ…、これってアスカのお父さんとお母さん?」
 そこであることに気がついた。
 だんらんの中に、綾波がいる。
「あ…」
 レイはおもむろに消しゴムをかけはじめた。
「綾波、どうして…」
 レイは几帳面に消しカスをまとめ、ハンカチで包んだ。
 そしてまた風景を描きはじめる。
「まだページあったんじゃないの?」
「もう、描いてたから」
 追求できないシンジ。
 レイはかまわずに描き続ける。
「やあ、君が碇シンジ君だね?」
 背の高い、学者風の男が近寄ってきた。
「えっと…、アスカさんのお父さん…」
 シンジはレイの画力を再認識してしまった。
 はじめまして、と頭を下げるシンジ。
 レイの描いた絵にそっくりだった、だからすぐに判った。
「こんにちは、レイ、また絵を消したのか?」
 惣流家の養子で、旧姓を冬月、名をコウゾウと言う。
「ごめんなさい…」
 レイは手をとめて、スケッチを抱きしめた。
「いや、良いんだ、続けなさい」
 小さく、レイは「はい」と答えた。
「シンジ君、ちょっといいかな?」
 少し歩こう、と誘われる。
「君は、レイのことを知っているのかな?」
 シンジは頷いた、レイはアスカの本当の妹ではないのだ。
「私とあの子の両親とは親友だった…、だが私のプレゼントした結婚記念日の旅行で死んでしまってね…」
「え!?」
「手を振って、久しぶりに遊んでくると…、笑顔だったよ、だけど飛行機は離陸直前、私たちの…、私と、妻と、アスカと、レイの目の前で、落ちたんだ」
 シンジは混乱した。
 両親が死んで、惣流家に引き取られた。
 その程度のことしか知らなかったからだ。
「親戚らしい親戚も居なくてね、レイは施設に預けられた、だが…」
 そこからの話は、シンジには辛かった。
「レイは良い子でいようとした、だが生意気だと同じ施設の子供達にいじめられた」
 シンジにも覚えがあった、母が死んですぐ、父親は外国へ働きに行ってしまったのだ。
 シンジはその際、家庭教師をしてくれていた先生の家に居候させてもらうことになった。
 だから良い子でいようとした、父が迎えに来てくれることを祈って。
「今度はいじめられないように、手を抜くことを覚えた、それで先生に怒られたがね」
 シンジもだ、「人のことなんか関係ないでしょ!」、そう言って、シンジの先生は怒ってくれた。
「そうやって泣くことをやめた、笑うことをやめた、喜ぶことをやめ、悲しむことをやめ、そして今のレイになった」
 シンジは逃げ出したくなっていた、まるで忘れかけていた記憶を掘り起こされているようだったからだ。
(でも…)
「レイのスケッチブックを見たかな?」
 頷くシンジ。
「ぼろぼろだったろう?、あの子はこの三年間、ずっとあのスケッチブックに描き続けているんだよ」
 笑みが消える。
「描いては消し、描いては消し…、ずっとね」
 悲しそうに話した。
「あれは私からの最初で最後のプレゼントなのだよ」
 両手を後ろに組み、空を見上げる。
「最後って…」
「他にレイは何も受け取らなかった…」
(何も欲しがらなかったんだな…)
 シンジにはわかるような気がした。
「事故の後、ばたばたしていてね、気がつけばレイはもう施設に放り込まれていた…、行方を探しあてたのは一年後、七才の時のことだ、あの子はもう、今のようになっていた、いや、今よりはましだったがね…」


「レイ、こちらへ来なさい…」
「はい…」
 怯えたように言うことを聞くレイ。
 戸惑っているのは彼も同じだった、コウゾウの知っているレイは、これ程大人しくは無かったからだ。
 レイは言われた通りに近寄った、だが何も言わずに、ただじっとしている。
 無言でレイへと、スケッチブックを差し出した。
「これは?」
 確認するレイ。
「プレゼントだよ、今日は誕生日だろう?」
 レイは恐る恐る手を伸ばした。
「ほら、この間の図画の宿題を見せてもらったろう?、ほんとうに上手だった、だからこれなら気に入ってくれるかと思ってな」
「ありがとう…」
 レイは嬉しさを堪えきれずに笑みを浮かべた。
 一滴、レイの頬に涙がつたった。


「だがそれさえも残酷なことになってしまった」
 シンジは息を呑んだ。
「君は知っていたかな?、本当はアスカより年上なんだよ、レイはね」
 話の飛びかたに、シンジは戸惑った。
「といっても三ヶ月ほどだが…、しかしレイはアスカのことを姉と呼んでいる」
 アスカとレイ、どちらが姉かと訪ねられたら、誰でもアスカと答えるだろう。
「レイには…、あの子には悪いことをしてしまった…」
 うなだれる。
「私が留守の時だった、レイを養子としてひきとろうとしていた時、レイが姉になってしまうと言うこともあってか、私の妻がぴりぴりしてしまってね、親戚を巻き込んで…、レイを…、レイに酷いことをしたんだよ」


 部屋の片隅に立ち、じっと見ているレイ。
 その目の前で大人達は、彼女の部屋を漁り、散らかしていった。
「何一つ渡すもんですか、何一つ!」
 やめて、やめてよママ!
 アスカが泣いてすがっている。
「これも貴方のためなのよ」
 いや!、そんなの嫌ぁ!!
 シーツが引き裂かれた、枕にもナイフが突き立てられる。
 レイはそれでもじっとしていた、ただ一つの宝物、スケッチブックを持って。
 それにアスカの母、キョウコが気がついた。
「それね?」
 レイは初めて動揺した。
「それをこっちに渡して!」
「ダメ!」
 立ちはだかるアスカ。
「どきなさい!」
 アスカを突き飛ばす、アスカは机の角に頭をぶつけて、動かなくなった。
「さあ、渡して!」
 キョウコは気がつかない。
「渡すのよ!」
 レイは恐ろしさのあまりしゃがみこんでしまった。
「キョウコ、何をしている!」
「あなた…」
 そこでようやく、アスカの異常に気がついた。
「アスカ?、アスカ!」
 レイは耳を塞いでいた。
「貴方のせいよ!、あなたの!!」
 レイは耳を塞いだままだった。


「アスカを姉と呼び、惣流の名を名乗らないのは、そういう事があったからなんだよ…」
 ふうっと息をつく。
「レイはそれから…、もう二度と何も受け取ろうとしてくれなかった」
 悲しげに微笑む。
「お小遣いはもちろん…、洋服だってそうだ、レイの部屋にはアスカや私がプレゼントした服だってある、だがレイは着てみたことがない…、いつも制服を着ているだろう?、あれは前にいた施設の制服なんだよ」
 シンジは二度三度と汗ばむ手を握りなおした。
 レイの成長は、まるで服が着れなくなるを恐れているかのようにとまっていた。
「寝る時だってそうだ、ベッドを使おうとしない、シーツを汚したくないと、いつも部屋の隅に座り込んでいた…、私の言葉ではダメだったよ、アスカが助けてくれた」
「アスカが!?」
 想像できなかった。
「アスカが無理矢理自分のベッドに連れ込んだんだ、一緒に寝ようってね、以来あの子達は、同じ布団で寝ている」
「アスカが…」
 ちょっとだけ見直した。
「あ、じゃあ綾波が描いた絵を消してるのって…」
 悔しそうに唇を噛んだ。
「ああ…、新しいスケッチブックを買ってやろうとした、もちろん断られたよ」
 絞り出すような声。
「あの子は、完全に心を閉ざしてしまった…、どうやら私ではだめらしい…」
「そんなことないよ!」
 シンジは叫んでいた。
 シンジの豹変ぶりに驚くコウゾウ。
「見たんだ、綾波の絵、おじさんとおばさんとアスカが仲良くしてる絵だった、綾波はそこに自分も描いてた!」
「本当か!?」
 思わずシンジの両肩をつかんで揺さぶった。
「うん、きっと本当は、綾波も家族になりたいんだよ!、だからおじさん、そんな悲しいこと言っちゃだめだよ…、そんなの悲しいじゃないか…」
 顔をふせるシンジ。
「シンジ君…、すまない」
 自嘲気味の笑みを浮かべる。
「私こそ、一番しっかりしていないといけないのにな」
「そうですね」
 お互いに笑いあう。
「そうか、レイがそんな絵を…、そうか」
 よほど嬉しかったらしい。
「そうだ、一つだけ教えてあげよう」
「なんですか?」
 首を傾げる。
「あの子は、たった一つだけ消さない絵があるんだよ、気がついたかい?」
「いいえ…、あ、もしかして最後のページの?」
 レイのおかしな行動を思い出した。
「見たのか?」
「いいえ、見せてくれなくて…」
 微笑んで、シンジの髪を撫でた。
「そこにはね、レイの好きな人の絵があるんだよ」
「え!?」
 意味ありげにシンジを見る。
「えっえっえっ!?」
 困惑するシンジ。
「シンジ君、いつまでもレイの友達でいてあげてくれ…、いや、そんな事を言ったら、アスカに殺されてしまうかな?」
 バカシンジーっと叫びが聞こえてきた。
「あああああ、アスカ!?」
「こんなとこにいたのね、こら待ちなさいよ!」
「お、おじさんごめんなさい、じゃあ!」
 逃げ出す。
「もうっ、どうして捕まえておいてくれないのよ!」
 すれ違いざまに父親に文句を言う。
「こらー!、あたしから逃げるなんて、どうなるかわかってんでしょうねぇ!」
「逃げなくても酷いことするじゃないか!」
「あったりまえじゃない!」
 シンジの悲鳴が轟いた。
「碇君…」
 顔を上げるレイ、シンジの悲鳴が聞こえてきたからだ。
「レイ…」
「お養父さん…」
 レイは立って姿勢を正した、もちろんスケッチブックを抱いて。
 そのレイの前にしゃがみこみ、レイを抱きしめる。
「お養父さん?」
 驚くレイ。
 コウゾウはそのまま髪を撫でつけた。
「レイ…、シンジ君のことは好きか?」
 耳と首筋が一気に真っ赤になった。
「そうか…、だがアスカは手強いぞ?」
 レイは自分から離れた。
 悲しそうな瞳。
「…好きじゃありません」
 呟くように漏らすレイ。
「レイ…」
「好きじゃないです」
 くり返す。
「レイ」
 レイを力強く抱き締める。
 彼には、レイがふびんでならなかった…
 その様子を覗き見ていたものがいた。
「シンジめ、レイを悲しませるとは…」
 木の上から見下ろしていたのはどらエヴァンだった。
「許せん」
 眼鏡をくいっと持ち上げる。
 もちろん、喜ばせたとしても許せないのだが…
「それにしても…、そうか、シンジにレイを意識させたのはあの男か」
 赤い眼鏡でどんな目をしているのかわからない。
「敵だな、あの男」
 コウゾウは謎の悪寒に襲われた。
「お養父さん?」
「いや、なんでもない…」
 コウゾウは気がつかなかった。
 どらエヴァンが『マル秘邪魔者リスト』にコウゾウの名を追加したことを。


終わり



あんなこと良いな、できたらいいな♪
(略)
そ〜らを自由に、飛びたいな…
「うむ、そこの窓を覗いて見ろ」
「きゃー、エッチバカ痴漢変態、もうしんじらんなーい!」
 ばか!
ああああああああ…
あんあんあん、おっ星様には、なぁりたーくないちゃらららん

[BACK][TOP][NEXT]