あったし〜はジャイアぁン
 が〜き大将♪
…って誰がよ!
 ガス!
 ピーーーーー、しばらくお待ちください。



「いいか、シンジ?」
 いつになく神妙な顔つきのどらエヴァン。
「わたしの内蔵電源では往復分のタイムジャンプが精一杯なのだ」
 くいっと、メガネの位置を正す。
「再充電にはおおよそ62年の時を要する、失敗は許されん」
「うん」
 こくりと頷く。
「わかったよ、どらエヴァン」
 シンジもまた、これまでになく真剣な表情を浮かべていた。



てけてけん♪
惣流・アスカ・ラングレー...の巻

ふぁ〜んふぁ〜んふぁ〜〜ん…




「タイムジャーンプ!」
 ふわっと腰から釣り上げられるような感覚。
 次の瞬間、シンジは何処かに落ちていた。
 ドサ!
「あいてててて、あれ?、ここどこなんだろう?」
 見慣れたタイプのドア。
「あ、ここトイレじゃないか」
 どこかの公衆トイレ、人の気配を感じ、シンジははっとして振り返った。
「……(赤面)」
 便器に座る女の子、シンジは一気に青ざめた。
「あ、ごめ…」
「いやあああああああ!、エッチ痴漢変態、もう、信じらんないよぉ!」
 赤毛の女の子は顔を隠して泣き出した。


「なんだ、何をしている?」
「あ、うん…」
 周囲を気にしながら、シンジは女子トイレから空港ロビーへと出た。
 そのシンジの裾を女の子が握っている、離さない。
「この子が離してくれなくて…」
 ん?っと、顔を覗きこむどらエヴァン。
「…まさかアスカ君か?」
「ははは、やっぱりそう思う?」
 冷や汗が流れ出る。
 女の子は首を傾げて二人を見上げた。
「あんたたち、どうしてあたしのことを知ってんのよ?」
 惣流・アスカ・ラングレー、この時五才。
「うん、ちょっとね…、ねえどうしよう、どらエヴァン…」
「今はかまっている時ではない、我々に残された時間は余りにも少ないのだからな」
「ねえ、お願いだから離してよ…」
「いやよ、あんたあたしの大事なとこ見たんだから、責任とんなさいよね」
「せせせせせ、責任って!?」
 ぽっと頬を赤らめるチビアスカ。
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
「シッ!、静かにしろ」
 どらエヴァンは何かに気がついたのか、壁の方を向き顔を隠した。
「まずいぞシンジ、タイムパトロールだ」
「え!?」
「奴等につかまると厄介なことになる」
「た、例えば?」
「時空間の狭間に永久追放される…、ならまだ良いだろう」
「そ、そんなぁ、どうしようどらエヴァ〜ン…」
「奴らめ、この作戦に気がついたのか?」
 丸いメガネの少年と、青い全身タイツ姿の男の子だった。
「ちえ、せっかくのんびりやってたってのになぁ」
「ふふふ、それだけが君の楽しみだからね…」
 青いタイツの真ん中に真っ白な顔。
 シンジはそれがロボットだと直感する。
「と、とにかく時間が無いよ、アスカは僕がなんとかするからさ、どらエヴァンは綾波のお父さん達を」
「すまんな、後を頼むぞ」
 どらエヴァンは気づかれないように歩き出した。
「あーーー!、ねえあたしとけっこん、むぐ!」
 アスカの口を塞ぐシンジ。
「だからぁ、ぬいぐるみ買ってあげるから怒らないでよ、ね?」
 両手で塞いで、仲の良い兄妹のふりをする。
 うまく騙されてくれたのか、追いかけてきた一人と一体のコンビはシンジの背を通り過ぎて、どらエヴァンを追っていった。
「よかった、うまく騙されてくれて…、うっ!」
 アスカが思いっきりシンジの股間を蹴り上げていた。
「ぷはぁ!、あんたバカぁ!?、いつまで人の口ふさいでんのよ、息できないじゃない!」
 シンジは余りの痛さにしゃがみこんだ。
 この頃にはもう、この性格を作り上げていたようだ。
「まったく!、唇荒れちゃったらどうしてくれるのよ」
 そう言って自分の唇に指を当ててる。
「なに笑ってんのよ?」
「え?」
「笑ってたじゃない、いま!」
「ああ、うん、ごめん…、やっぱりその方がアスカらしいやって、そう思ってさ…」
「何よ気安いわねぇ、あたしあんたのこと何にも知らないのに…」
「え?、あ、そっか、ごめん」
 立ち上がる。
「それじゃ僕、急ぐから…」
「ちょっと待ちなさいよ!、逃げる気!?」
「しつっこいなぁ…」
「え?、なんですって!」
「ちえ、聞こえたか…、なんでもないよ」
「うそ!、…ふん、でもまあいいわ」
 そっぽを向いて、手を差し出す。
 シンジはその手をじっと見た。
「…なに?」
「医者料と口止め料と迷惑料」
「えええええ!」
「さっきぬいぐるみ買ってくれるって言ったじゃない」
「そ、そんな…」
「嫌ならいいのよ?、ここで変質者だって叫んでやるから」
 にやっとシンジの記憶にもある嫌な笑いを浮かべた。
「酷いや、そんなの…」
 がっくりと肩を落とすシンジだった。


 それはアスカの家でコウゾウからレイの話を聞かされた夜のこと。
 シンジは机に座り、ぼうっと月を眺め、物思いにふけっていた。
「ねえ、どらエヴァン…、未来って本当に変えられるものなのかなぁ?」
「もちろんだ、そのためのわたしだからな」
 人差し指をフレームに当て、どらエヴァンはくいっとメガネを持ち上げた。
「じゃあ…」
 振り返るシンジ。
「僕以外の人の過去って変えらるの?」
 真剣な面持ちで尋ねる。
「なんだ、何が言いたい?」
 どらエヴァンはいつもとは違う雰囲気を感じとった。
「う、うん…」
 説明しづらくて、つい言いよどんでしまう。
「話題をふったのはお前だろう、早くしろ、わたしは忙しいのだ」
「あ、ごめん…、綾波のことなんだけどさぁ…」
 ピクっと反応する。
「レイが…、どうかしたのか?」
「うん…、レイが人を避けるのって、お父さんとお母さんが死んじゃったからでしょ?、だから…」
 ピンと来る。
「そうか、だがな、シンジ…」
「なに?」
「過去を変えるとはどういうことか、本当にわかっているのか?」
「え?、どういうこと…」
 どらエヴァンの神妙な顔に、シンジは不安になった。
「もしもだ、レイの両親が死ななかったとしたら?、両親が生きていればレイは当然惣流家に引きとられはしないだろう、それは本来の明るさを損なわないことに繋がり、そして元気にお前とは出会うことなくすくすくと育ち…、で、いつ取り掛かるのだ?」
「え?」
「過去を変えるのだろう、どうした?」
「えっ、えっ?、今から行くの?」
「反対する理由は無い、やるぞ、シンジ」
「…なんだか妙な引っ掛かりを覚えるんだけど、いいや」
 …というわけで、二人は四年前へ飛んできたのだ。


「うう、えらい散財だぁ…」
 トホホとサイフを逆さにして振るシンジ。
「ありがとね、お兄ちゃん!」
 アスカはニコニコ顔で、おサルのぬいぐるみを抱きしめた。
 ロビーの椅子に並んで座っている二人。
「うう…、でも良いの?、そんなぬいぐるみで」
 空港の売店で買ったものだ。
「うん!、これで良い!」
 かなりのご機嫌。
「そう、よかったね」
 シンジはお人好しにも微笑んだ。
(こういう風だと、アスカも可愛いのにな)
 ちょっとはまりかけたが、シンジは慌てて首を振った。
「どうしたの?」
「ごめん、なんでもないよ」
「名前、シンジって言ってたっけ?」
 アスカはその名前をおサルにつけることにした。
「うん、そうだけど…」
 名前を教えるのってマズいんだっけ?っと、少し考える。
「あ、ちょっと待っててね?」
 ぴょんと椅子から跳ね、アスカは窓際へ駆け出した。
 シンジは新聞を広げ、開けた穴からその姿を追いかけた。
 惣流家と綾波家の面々が覗ける。
 そこには元気はつらつって感じの、六才のレイがいた。
「うきゅう、お母さんお土産、おみやげね?」
「はいはい、はしゃがないの、アスカちゃんが笑ってるでしょ?」
「アスカちゃんは笑ったりしないもん、ねぇ?」
「うん!」
 レイと手を繋いで元気に答える。
「みんな、あんなに楽しそうなのに…」
「我々の望む未来はすぐそこにある、もう少しだぞ、シンジ?」
 タイムジャンプ寸前の、どらエヴァンの言葉を思い出した。
「シンジ、我々の仕事が何か、わかっているな?」
「え?、えっと、事故を防ぐ事…」
「違う、レイの両親を死なせないことだ」
 いつになく真剣な口調。
「いいか、レイの両親の乗る旅客機、その事故は原因不明とされている」
「何が起こるかわからない…、ってことか」
「そうだ、だからこそ気を抜いている暇は無い、肝に銘じておけ」
 珍しく、どらエヴァンは念を押していた。
「うん、わかってるよどらエヴァン」
 シンジは何一つ不審なものを見逃さぬよう、再び見張りをはじめた。


 一方その頃、どらエヴァンは従業員用の出入り口へと向かっていた。
 滑走路へ出て、直接旅客機に乗りこむつもりなのだ。
「ふんふんふんふんふんふんふんふん♪(第9)」
 出入り口を抜けてすぐの所、滑走路方向に青い全身タイツの少年が立っていた。
 舌打ちするどらエヴァン。
「タイムパトロール、まさかこのような所まで追ってくるとはな…」
「…時の流れは常に一つでなければならない、だからこそ人はその運命を尊いものだと感じる…、やり直しはズルいよ、そう思わないかい?、どらエヴァン…」
「貴様は…」
「君からさらに1世紀程後に作られた汎用人型生体刑事、人呼んで渚カヲルとは僕のことだよ」
 ふっ、っといやみったらしい笑みを浮かべる。
「すまんが今の私には君に関っている時間的余裕が無い」
「おや、それは残念だね、じゃあ僕も僕の仕事を片付けるとしようか」
 お腹のポケットに手を突っ込む。
「空気ピストルぅ!」
 お腹のポケットから筒のようなものを取り出し、それを指にはめた。
 パン!
 ビシッ!
 どらエヴァンの足元で何かが弾ける。
「人はやり直しの効かない人生を歩んでいかなければならない、結果どのような悲惨な目にあったとしてもね?」
 シン…、っと空気が張り詰めた。


「おそいなぁ、どらエヴァン…」
 とうとう搭乗手続きが始まってしまった。
「じゃあレイ、行ってくるわね?」
「うん、おみやげ、おかしねぇ!」
 涎を垂らし、両手を大きく振って送り出す。
「お父さんと、お母さんかぁ…」
 シンジは羨ましげな目を向けた。
 その視線に気づくことなく、飛行機へと乗り込んでいくレイの両親。
 アスカとレイは窓に張り付いて、動き出した飛行機にはしゃいでいた。
「嘘みたいだ…、このあとに…」
 シンジは慌てて首を振った。
「いけない、そのために僕達はここに来たんだ」
 シンジは気合いを入れ直した。


「時間がない、そこをどきたまえ」
「冗談言ってる場合じゃないよ?、僕が来たという事がどういうことか、わかっているんだろう?」
「ああ…」
「おっと、抵抗は無意味だよ、僕は君よりも性能が上なんだからね」
「…ほんとうにそうかな?」
 ニヤリと笑みを浮かべる。
「もちろんさ、君は硬化ベークライトで固められて、処理場行きになるんだよ」
 空気ピストルが空気の圧縮をはじめた、その時間僅かに0.5秒。
 だがどらエヴァンの動きはそれよりも早かった!
「食らえ必殺、手先が球!
 ズガン!
「そんなばかなぁ〜〜〜…」
 くるくると回転しながらカヲルはふっ飛んでいった。
「ふ、勝ったな…、む?」
 カヲルの飛んでいく先に、ちょうど離陸をはじめている飛行機がいた。
「うわああああ!」
 悲鳴を上げるパイロット。
 そのコックピットにカヲルが突っ込んだ!
 グラ、ズガガガガガドカン!
 爆発、炎上。
 機体は大爆発を起こしてしまった。


「きゃーーー!」
「危ない!」
 シンジは飛び出していた。
 どのようになったのか、爆発と同時に機体の破片がステーションまで飛んできたのだ。
「二人とも避けて!」
 シンジはアスカとレイを抱くように飛びついた。
 二人を強引に押し倒し、自分の身で庇う。
 その上にガラスが降り注いだ。


「……」
 それをじっと見て、どらエヴァンは後ろに手を組んだ。
「なるほど、これもシナリオ通りと言うわけか?、渚カヲル」
 事故の真相はタイムパトロールによって証拠ごと隠滅されるだろう。
「原因不明の事故か、過去は変えさせぬと言いたいわけだな、カヲル」
 どうあっても責任を押しつけようとするどらエヴァンだった。


「ごめん、アスカ、守れなかったよ…」
 放心状態のレイ、事故、炎に包まれた旅客機を見て、レイはあらん限りに叫んで気を失った。
 それからレイは惚けたように自分を失っていた、何を言っても反応を返さないのだ。
「シンジのせいじゃないよ…」
「でも…、僕はそのために来たのに」
 歯噛みする。
「そうだったんだ…」
 アスカは素直に信じた。
 それほどまでにシンジが落ち込んでいたからだ。
「僕は…、僕は臆病で…、ドジで、のろまで、なにひとつ、できることなんて無くて…」
 その頬をぴしゃんと叩くように、アスカは両手で挟みこんだ。
「何を怒ってるのさ?」
 アスカはふくれていた、両頬がぷくっとふくらんでいる。
 あんたのせいじゃない!
 あたしのせいでもない!
 誰のせいでもない!
 そう言いたかったが、アスカにはまだ感情を正しく言葉にすることができなかった。
「…アスカ?」
「レイ…、レイ、きっと悲しいよね?」
 アスカは漏らすように呟いた。
「…そうだね」
「あたし、レイのためになんでもしてあげるの」
「…うん」
「でも、何をすれば良いのかわからないの…」
「うん」
「シンジはレイのために来たんだよね?」
「うん、そうだけど…、結局何もできないまま帰らなきゃいけないんだ」
 アスカは少しだけ考えこんだ、そして…
「だったら…、だったらシンジにできることを教えてよ、あたしがレイにしてあげるから」
 幼さに不釣り合いな、真剣な眼差しをシンジへ向けた。
 ロビーの天井を見上げるシンジ。
(知らない、天井だ…)
 コウゾウの話を思い出す。
(レイはこれから、知らない場所を幾つもたらい回しにされることになるんだ、居場所の無さに気づかされながら…)
 そんな考えが浮かんでくる。
(でも、綾波はアスカの元に帰るんだ)
 コウゾウが言っていたように、アスカがレイを救う時が来る。
「…そうだね」
 シンジは微笑みを向けた。
「アスカ…、アスカにしかできない、アスカにならできることがあるよ」
「なに?」
 瞳を輝かせる。
「綾波を大切にしてあげて…、妹のようにね?」
「…レイの方がお姉ちゃんなのに?」
「そうだね」
 シンジは笑って答えた。
「シンジ…」
「どらエヴァン」
 すぐ側に立っていた、話しこんでいて近づいてきたことに気がつかなかったのだ。
「帰るぞシンジ」
「…うん、わかったよ」
 席を立ち、アスカに目を向ける。
「じゃあ…」
「うん、またね?」
 アスカは怖々と聞いた。
「…そうだね、またね」
 シンジの返事に、ぱあっと表情を明るくする。
「約束ね!」
 アスカはシンジの首に噛り付いた。
 どらエヴァンと並んで歩くシンジ。
 その背を見送るアスカ。
 どらエヴァンは肩越しに、そんなアスカの様子をうかがっていた。
「シンジ…」
「なに?」
「源氏物語と言う本を知っているか?」
「え?、ううん、知らないけど…」
「そうか、ならいい…」
 こうして二人の作戦は失敗に終わった。
 現在へと戻るシンジ。
 二人を待っていたのは、以外にもアスカだった。


「アスカ…」
 どらエヴァンのタイムジャンプで帰った先は、シンジの部屋だった。
「遅かったじゃない」
 マンガ本を放り出す。
 どらエヴァンは何も言わずに出ていった。
 襖が閉じられ、二人きりになる。
「どこ行ってたのよ?」
「あ、うん、ちょっと…」
(なんだかやりにくいなぁ…)
 先程までの可愛いチビアスカを思い出してしまう。
「あんたバカぁ?、このあたしにごまかしが効くと思ってんの?」
 シンジの鼻面に、四角いものを突きつけた。
「え?、あーーー!」
 それはシンジのサイフだった。
 後ろポケットをまさぐる、ない!
「こんな事もあろうかと、「あの時」がめておいたのよ」
 ニヤリ。
「酷いや!、盗むなんて!」
「酷いのはそっちじゃない!」
 むすっとした顔で見る。
「あんたのせいで乙女の清純さを失ったのよ!、ちゃんと責任とんなさいよ!」
「なんだよあんなの事故じゃないか!、それに慰謝料だってぬいぐるみ買わせたくせに!」
「うっさいわね!、あんなもんですむと思ったら大間違いよ!、あんたは一生あたしの下僕なんだからね、わかった!?」
「そんなぁ、酷いやアスカ〜…」
 トホホとシンジは涙を流し、アスカは赤くなった頬を髪で隠した。
 襖に張り付いていたどらエヴァンは、ニヤリと笑みを浮かべてコップを離した。
「うむ、全ては予定通りに進行しているな」
 ほんとに予定してたのか?
 そんな突っ込みは何処からも入らなかった。


終わり



あんなこと良いな、できたらいいな♪
「あんなことって、なに?」
「何ってレイ、そんなの決まってんじゃない」
「例えばあんなこと?」
公園でいちゃつくカップル。
「…いやぁ!、エッチバカ痴漢変態!、あんた一体何考えてんのよぉ!?
「……(ニヤリ)」
あんあんあん、アスカのじゅ〜んじょお、どぉこへ〜、行くぅちゃらららん

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