あんなこっと良いな、できたらいいな♪
あんな夢こんな夢、いっぱいあるぅけどぉ〜
みんなみんなみんな、叶えてくれる、不思議なポッケで叶えてくぅれぇるぅ♪
空を自由に、飛びたいな?
「無理難題を言うなぁ!(ガス!)」
あんあんあん、何しにいるんだ、どらエ〜ヴァン…(ちゃらららん)
チュイ〜ン
白一色で統一された工場内に、がちゃんがちゃんと何かを組み立てる音が響いている。
その一画で、ベルトコンベアの上をビニールに包まれた全身タイツの少年がロールアウトしてきた。
謎の汎用人型生体刑事「渚カヲル」である。
「また改修されたのか…、あれ程派手に負けてしまったと言うのに」
カヲルはビニール袋の中で一人ごちた。
コンベアが止まる、このラインに乗っているのはカヲルただ一体のみであった。
「さあ、迎えに来ておくれ、僕のひな型、そして設計者」
カヲルは意味ありげな笑みを浮かべた。
「遅いなぁ、ユイ母さん…」
だが結局、パッキングされたままで一昼夜放置されてしまったカヲルであった。
てけてけん♪
信濃ミズホ...の巻
ふぁ〜んふぁ〜んふぁ〜〜ん…
「ちょっとシンジ!」
二時間目と三時間目の間の休み時間、シンジはいきなりびくりと脅えた。
「あ、な、なに?、ジャイアン…」
「誰がジャイアンよ!…って、あんまり良くは無いけどまあいいわ…」
アスカは「くっ」っと我慢して、その続きを飲み下した。
我慢、我慢よ、アスカ…
頬に手を当てて、筋肉の引きつりをほぐそうとしている。
「で、なに?」
その様子を無気味そうに見ているシンジ。
「ふ、ふん!、あんたちょっと、算数の教科書貸しなさいよ」
アスカはそっぽを向いたままで、右手だけを差し出した。
えー?」
その手を見ながらぶぅたれるシンジ。
「やだよ、どうしてさ?」
「決まってるじゃない、あたしが忘れたからよ」
アスカはふんっと髪を掻き上げて、高飛車な態度でシンジを睨んだ。
「忘れたって…」
シンジは呆れた。
「じゃあ僕はどうすればいいのさ?」
冷たい目をするアスカ。
「そんなの知らないわよ、自分で考えれば?」
「そ、そんなの酷いや…、ああ!」
アスカは問答無用でシンジの鞄から教科書を取り出した。
「じゃ、借りてくわね?」
「そ、そんなぁ、やめてよ、返してよぉ…」
「良いから!、あんたは黙って貸せばいいのよ!」
この鈍感!
最後にアスカは心の中でそう付け足した。
まったく乙女心のわかんない奴!
どかっと、アスカは自分の席に座った。
教室真ん中のシンジとは少し離れている、廊下側の席だ。
ふんふんふ〜ん♪
アスカは鼻歌混じりにカッターを取り出した。
「姉さん…」
背後から呼び掛けられて、アスカはビクッと振り返った。
「あ、な、なによ、レイ」
後ろは綾波レイの席だった。
「碇君、可哀想…」
ちらりとシンジを見るレイ。
シンジはとほほほほっと、しょぼくれていた。
それを同じように見るアスカ。
「…いいのよ、シンジのものはあたしのもの、あたしのものはあたしのものなんだから!」
アスカはチキチキチキっと、カッターの刃を出し、表紙の裏の、袋とじのようになっている所に狙いを定めた。
「…おまじない、するの?」
目を細めるレイ。
「そ、あのバカシンジが気付くとは思えないけどねぇ、まあ気付かれたら気付かれたで、からかったってことにしとけばいいんだし?」
るんるんるんっと、相合い傘を描いた紙を用意した。
名前はもちろんアスカとシンジだった、いま女子の間ではやっている告白法なのだ。
浮かれているアスカを、じいっと見ているレイ。
アスカは紙を入れるための切れ目を入れようとした。
その瞬間を狙いすましたかのように声をかけるレイ。
「あ、碇君が信濃さんと話してる」
「え!?」
ザク!
「うっきゃーーー!」
アスカは思いっきり教科書を切り裂いてしまっていた。
「うわっちゃー、ヤバいわねぇ、どうしよう、これ…」
おろおろと視線を漂わせるアスカ。
その目がシンジの所で焦点を合わせた。
シンジは派手に大きくため息をついていた。
「はぁ…、でも困ったなぁ、どうしよう?」
そんなシンジを心配そうに、隣の席の女の子がじぃっと見ていた。
「あのぉ…」
おずおずとシンジに声を掛けてみる。
「え?、あ、信濃さん…」
隣を見る、そこには可憐としか形容のしようが無いような、ポニーテールの女の子が座っていた。
黄色いリボンがやけに似合っている。
「わたしのを、見せてあげますぅ」
そう言って彼女、信濃ミズホはガタガタと机を寄せようとした。
「え?、でも悪いよ…」
ちらちらとアスカを気にするシンジ。
ああ、やっぱり睨まれてるよ…
背中にぞくぞくと悪寒が走った。
「いえ〜、それにこの間、消しゴムを貸してくださいましたからぁ」
にっこりとミズホは微笑んだ。
その微笑みにドキッとするシンジ。
ガタン!
背後で誰かの椅子を蹴る音が聞こえた。
今度は違う意味でシンジはドキッと心臓を跳ね上げた。
「あ、あの!、その!?」
「はい?、あ、先生が来ましたぁ」
ガタガタとみんなが騒がしく席に着く。
その音の中に、シンジは確かに「ちっ!」っと言う舌打ちの音を聞いていた。
…どうせ後で殴られるんだよな?
早くもシンジは諦めた。
「あの、じゃあ、ちょっとだけ…」
「はいですぅ」
ミズホは笑顔と言う名の華を咲かせた。
そのあまりのアスカとの違いに、つい見とれてしまうシンジ。
「優しいね、信濃さん…」 シンジはつい、口走ってしまっていた。
むぅ、迂闊だったわ。
シンジは微笑みを浮かべてミズホに話しかけていた。
そんなシンジに、ミズホは恥じらうようにうつむいている。
アスカはそれを見て、はらわたを煮えくり返していた。
まさかあの女、シンジにちょっかい出すつもりじゃないでしょうねぇ?
ギンッと眼光鋭く睨みつけるが、反応するのはシンジだけである。
急にそわそわとするシンジに、ミズホが怪訝そうに声を掛けていた。
「姉さん…」
「なによ?」
アスカは遠慮がちな声に振り返った。
「教科書、破いてる…」
「え?、あ、きゃー!」
アスカは怒りのあまり、横から真っ二つに教科書を裂いていた。
「こ、これはもう、修復不可能ね…」
さすがに罪悪感を感じるアスカ。
「こら!」
こつんとその頭を小突かれた。
「いったぁ…」
見上げると、そこには担任の伊吹マヤ先生が立っていた。
「なに教科書で遊んでるの!」
「す、すみません」
アスカは慌てて頭を下げた。
くすくすと失笑に教室がわいている。
アスカは真っ赤になってうつむいた。
シンジを見る、シンジもやっぱり笑っていた。
バカシンジがぁ、全部あんたのせいじゃないのよ!
アスカはマヤが教壇に戻るのを待ってから、こうなったら…と、鞄を漁って携帯電話を取り出した。
「困った時のどらエフォン!」
それは赤い眼鏡を掛けた、奇妙な形の携帯電話だった。
「ピッとね、あ、どらエヴァン?」
”自分の”教科書を立てて壁にし、アスカはこそこそと電話を掛けた。
「なんだ、シンジがまた何かやったのか?」
さすがに飲み込みが早いわね。
アスカはニヤッと、不敵に笑んだ。
「そうなのよ、ま、そう言うわけだから、後頼んだわね?」
「了解した」
パシ!
その直後、窓ガラスの一枚が蜘蛛の巣状にひび割れた。
どらエヴァンが”狙撃”したのだ、その特殊な弾は首筋に命中していた。
…そう、目標の隣の女の子の首筋に。
「…ミスったか」
「ちょ、ちょっと、ミスったって何よ、ミスったって!?」
焦るアスカ。
「問題無い、全ては計画どうりだ…」
「いま確かにミスったって言ったじゃないのよ!」
シンジは急に硬直したミズホに、怪訝そうな顔を向けていた。
「信濃さん?」
ミズホはうつむいたままプルプルと震えている。
「し、信濃さんってば!?」
「うけ…」
焦点の合わない目がシンジを見た。
「う、うけ?」
「うけけ…」
「うけけ?」
「うけけけけけけけけけー!」
ミズホは奇声を発して立ちあがっていた。
「し、信濃さん、信濃さんってば、はぐぅ!」
ミズホが振り回した机にHITされるシンジ。
「ちょ、ちょっとどらエヴァン!」
「ピー、現在この電話は冥界と繋がっております…、こぉらぁ、俺だよぉ、この間お前に踏み潰されたゴキブリ…」
ガシャン!、ゲシャ!
アスカはその時と同じように、床に叩きつけてどらエフォンを踏み潰した。
「ちょ、ちょっとあんた!、ひぃ!?」
慌ててしゃがみこむアスカ、その頭上を机が一個飛んでいった。
「うけけけけけけけけーーーー!」
机と言わず椅子と言わず、手当たりしだいに振り回し放り投げるミズホ。
「猫ですぅ!、あそこにもこっちにも猫がいるですぅ!」
その目は完全にとんでる状態のそれだった。
「信濃さんっ、お願いだから落ち着いてよぉ!」
「やー!、こっち来ないでくださいぃ!」
ぶぅんと振り回して机を投げ付けた。
「ちょっと、いいかげんに、はうっ!」
ゲシンとそれは委員長に当たって彼女を沈黙させた。
「こ、こりゃ逃げ出した方がよさそうだ…」
「逃がしませぇん!」
ビュン!っと椅子が眼鏡くんに飛んだ。
「ぐええ…」
潰れる少年。
「こりゃもう手がつけられへんで…」
黒いジャージ姿の男の子が机でバリケードを作り、先程の委員長を庇って守っていた。
「あ、ありがと…」
「男は女を守るもんやさかいなぁ?」
「鈴原…」
などと一方でラブロマンスが進行する中。
「逃げちゃダメよ、逃げちゃダメよ、逃げちゃダメよ…」
っと、マヤは必死に黒板にチョークを突き立てていた。
キキッと、入れ過ぎた力に嫌な音が鳴っている。
震えるマヤの背中、だがその背後の狂乱に、振り返る勇気はどうしても沸き起こらなかった。
「こ、これはまずいわね…、あたしのせいじゃないわよ?」
自己弁護しているアスカ。
「猫ですぅ!、猫がわたしの…、わたしの、ふえええええん!」
うわー!、きゃー!っと悲鳴が上がる。
阿鼻叫喚の地獄絵図が展開されていた、宙を舞う机に潰される少年少女達。
シンジは耳を塞いで机の下に隠れていた。
「僕は…、僕はずるくて、臆病で…」
ミズホはその机の上に立っている、つまりそこは安全地帯、死角になっているのだ。
「ずっこいわよ、シンジ!」
突っ込むアスカ。
「そこにも可愛い小猫が一匹ぃ!」
「だったら机を投げるんじゃないわよ!」
アスカは「ひぃ!」っと悲鳴を上げた。
「綾波!?」
アスカの前に、何故だかレイが立っていた。
「危ない!」
机が一直線に飛んでいく。
シンジは慌ててしまった、ガンッと後頭部が机に当たる。
「きゃ、ですぅ!!」
急に揺れた足元に、ミズホはバランスを崩して慌てた。
レイはぼーっとしたままで、飛んで来る机を見ている。
そして軽く右手をあげた。
「綾波ぃ!、って、へ?」
呆然とするシンジ。
レイはボールでも受け止めるかのように、簡単に机を受け止めていた。
「うわ!」
ドテ!
そのシンジの上に、ミズホが倒れて落ちて来た。
「あ…」
レイの手から、ぽろっと机が落っこちた。
ガン!
「あう!」
その角がミズホの後頭部に直撃した。
「いったぁ…、って、ああ!、信濃さん!!」
「きゅう、ですぅ」
しっかり目を回しているミズホ。
「信濃さん、信濃さん!、しっかりしてよ」
「猫が…、猫がぁ〜〜〜、うーん、はっ!」
ミズホは大きく目を見開いた。
「猫が、猫の大群が!?」
「そんなのどこにもいないってば!」
シンジはミズホの目を見つめて言った。
「だから安心してよ、ね?」
そして優しく、はにかむように笑って安心させる。
「え?、で、でも確かに大軍に襲われて…」
ミズホは不安げに周りを見た。
「ほら、みなさんも酷いありさまで…」
誰のせいだ、誰の!
拳に血管を浮き上がらせる一同。
「どこにもそんなのいないって言ってるだろう?」
でもぉと、ミズホはそれでも安心しなかったが、急にはっとしてシンジを見つめた。
「そう、そうなんですね?、そういうことなんですかぁ?」
シンジの手を取り、瞳を輝かせるミズホ。
「し、信濃さん?」
シンジは嫌な予感を覚えた。
「碇さん…、いえ!、シンジ様が追い払って下さったんですね!?」
ミズホはシンジに抱きついて喜んだ。
「うわ、やめてよ、誤解だよ!」
シンジは慌てて押し返した。
「謙遜なさらなくても良いですぅ!、シンジ様は命の恩人ですぅ!」
だがミズホの腕力に叶わないシンジ。
「ちょっとあんたぁ!」
ずかずかとアスカが詰め寄った。
「ひぃ!、ご、ごめん!」
その形相に、反射的に謝るシンジ。
「シンジ様をいじめることは、このミズホが許さないですぅ!」
そんなシンジをミズホが庇った。
まるで子供を護るように、シンジの頭を胸に抱く。
「あんたバカァ!?、なに言ってんのよ、ちょっとシンジから、は・な・れ・な・さ・い・よ・!」
アスカはシンジの襟首をもって振り回した。
「ぐぇえええええ!」
酸欠に陥るシンジ。
「嫌ですぅ、べーーーっだ!」
ミズホは小っちゃな舌を出して抵抗した。
「むっかぁ、はっらったっつっわっねぇ!」
アスカの顔が、真っ赤に膨らんだ。
ガタガタガタ…
それとは反対に、非常に冷静に落ち着いて机を並べ直すクラスメート一同。
「シンジ様は渡しません!」
「シンジはあたしのもんだって決まってんのよ!」
みんな、彼女達とシンジを避けるように座り直していった。
シンジたちだけが、狂乱を終えずに続行している。
「恥ずかしくないわ、だって他人だもの」
都合のいい時だけ他人のふりをするレイ。
教室のド真ん中で、派手な取り合いがいつまでも続いていた。
「僕は…、不幸だ」
シンジは振り回されながら、そっと涙を流すのであった。
終わり
エンディング省略、特別出演Q’メンバー(おい)
「納得いきませぇん!、どうして、どうして?、どうして!?、アスカさんとレイさんは、あんなにちゃあんとしたお話なのに、わたしだけが…、わたしだけが…、ふえええええーん!」
テレビの前で、泣き出すミズホ。
その後ろでシンジはサァッと青ざめていた。
「どうした、シンジ?」
食後のだんらんには、ほど遠い空気であった。
「ど、どうしてこの話が…」
シンジはぷるぷると震えていた。
その様子に、ニヤリと笑うゲンドウ。
「ああ、消しゴムを借りにお前の部屋に行った時にな?、たまたま偶然開いていた日記帳に書いてあったんで、面白そうだと思ってシナリオに起こさせてもらった」
ゲンドウは新聞を開いて顔を隠した。
「酷いや!、人の夢日記読むなんて!」
シンジは涙目で訴えた。
「そんなもん付けてるからでしょうが…、ってなによ!」
急にがばっと起き上がったミズホに、驚き後ずさるアスカ。
「そうか、そう言うことだったんですね!?」
ミズホの瞳に生気が戻って来ていた。
「だから何がよ?」
それを見て、げっそりとするアスカ。
「つまりこれは、シンジ様が潜在意識下でわたしを求めておられると言う…」
「んなわけないじゃない」
ようやくおかずを飲み下したらしいレイ。
「それにこのお話は、予定調和的にあたしと結ばれるんだから…、ねぇ?、シンちゃんそうよねぇ?」
レイはシンジに擦り寄った。
それはどうかな?
新聞に隠れたままで、ゲンドウは内心ほくそ笑んでいた。
「お母さんの再出演は、いつかしら?」
ユイはそれだけが心配でたまらなかった。
んでわ。
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