恨めしいなんて、流行遅れ♪
(流行に関係無いとおもうよ)
どんなことでも、楽しくしちゃう。
(そりゃアスカは楽しいだろうけど…)
ちょっといたずら、たまにきずよね?
(ちょっとじゃすまないよ、ちょっとじゃ…)
すごく美人で、玉の輿、もん!
(誰が?)
大人になんか、ならないわ!
「だだっこだよね、どっちかって言うと」
「あんたいまなに言ったのよぉ!」
「しまった、声に出しちゃった!!」
ボコボコにされるシンジ。
姉に対する綾波レイのコメント。
「姉さん、歌違ってる…」
コオオオオオ…
風が空しく鳴いている。
既に閉鎖されてしまった工場だ。
「封鎖されて15年も経つ」
その中で、一人ごちる渚カヲル。
錆付いたままの、オートメーションのための機械達。
「一体、ここで何があったのか?」
カヲルはその答えを見つけ出せないでいた。
「…ロボット三原則さえも組み込まれていない、タイムワープ機能に僕を越える破壊能力」
通気口からわずかに漏れ来る光を眺める。
「大量生産品、ただの執事型ロボットにはあるまじき性能…」
決して眩しくは無い、月明かりなのだ。
「どらエヴァンとは、一体?」
全ての謎はここ、ゲヒルン開発工場から始まっていた。
てけてけん♪
シンジ(前編)...の巻
ふぁ〜んふぁ〜んふぁ〜〜ん…
「綾波、レイか…」
ぽそりと言うその呟きを、耳聡い彼女らが聞き逃すはずが無かった。
し、シンジ様…
ががーんっと、真っ青になるミズホ。
広げた教科書に視線を落としたままで、その一言に硬直してしまっている。
いま、なんて言ったのよ、あいつ…
かなり席が離れているにも関らず、アスカはしっかり聞いていた。
背中にメラッと、髪と同じ色のオーラが立ち上っている。
そしてもう一人。
碇君…
そんなアスカの背中にも気付かず、両手で教科書を立てるレイ。
頬が桜色に染まってしまっている、それを恥ずかしげに隠したのだ。
目の焦点はあってない、活字を追っているようで、実は何も見ていない。
あれが大人になった綾波なのかな?
自分の言葉がもたらした波紋に、シンジは授業が終わるまで気付かなかった。
きりーつ、れい。
「ばかシンジぃ!」
「うわぁ!」
どかどかと机を押しのけ椅子を蹴散らし、人を踏み付けてまで最短距離で飛びかかる。
いつもなら先生を送り出した所で、ざわざわと雑談が始まるのだが、今日のみんなは目を丸くして驚いていた。
「なんやなんや?」
「なにやったんだ?、シンジの奴…」
授業が始まるまでは、いつも通りにシンジは振り回されていた。
「な、なんだよ、僕が何したって言うんだよ!」
なのに突然の豹変である、シンジには何が何だかわからない。
「胸に手を当てなさいよ!」
「胸?」
「なっ!」
へちょ…
アスカの胸に手を当てるシンジ。
「当てたけど?、…あれ?」
真っ赤になって、ぷるぷると震えている。
「何か、違った?」
ドン!
「シンジ様、はれんちですぅ!」
ミズホは何かを叫ぼうとしたアスカを突き飛ばした。
「は、はれんち?」
「そうですぅ!、む、胸、胸をさわ、触るなんて、そんなの…」
「胸って…」
シンジの脳裏に、あの大人になった綾波の姿が思い浮かんだ。
「あ〜〜〜!、なに赤くなってらっしゃるんですかぁ!?」
「あ、ごめ…」
「このバカシンジィ!」
パン!
照れ隠しの一発が炸裂する。
「な…」
ふらつくシンジ。
「なんだよ、痛いじゃないか!」
「当ったり前よ!、このあたしの胸触ったのよ?、責任取りなさいよ!」
「責任?」
「そうよ!」
高圧的な態度にムッと来る。
なんだよ、何も悪いことしてないのに、急にさ…
「なによ!?」
「なんだよアスカ、責任責任って、そればっかりじゃないか!」
「あ、あたしが…」
怒りで声が震えてしまう。
「あたしが、いつ、そんなこと言ったって?」
今度はシンジの目がすわった。
「言ったじゃないか…」
「いつよ!」
「忘れたの?、酷いや、だからぼく我慢してたのに!」
「が、我慢ですって?」
「そうだよ!、バカにされても、いじめられても我慢してたのに…」
泣き出しそうなかすれた声に、アスカも勢いを失ってしまう。
「…あたしが、なにを言ったってのよ」
「責任取れって…」
「何の責任よ?」
「トイレ…」
「はん?」
あまりにも小さな声に問い返してしまう。
「トイレだよ!、してるとこ覗いたからって、アスカが!」
はっ!
ひゅう〜…
それはそれは、とても寒い風が吹いてしまった…
「かぁ〜〜〜、羨ましいやっちゃのぉ」
「なにが?」
キョトンとシンジ。
「それで、見たのか?」
「ちょっとだけ…」
答えるシンジに、どっとわく。
「さ〜いてぇ」
「信じらんなぁい」
机の一点を睨み付け、うつむいているアスカ。
そのアスカの周囲には、同情する女子が集まっている。
「気にすること無いわよ」
「そうよ」
「碇君なんて、アスカにいじめられて当然よねぇ?」
いくつもの言葉が飛び交う。
だがアスカはどれも聞いていなかった。
うかつだったわ…
アスカは本気で忘れていたのだ。
「大体、碇君が悪いんじゃない!」
「なんやとぉ!、事故やないか、そんなもん!!」
いつの間にやら、対立し合う男子と女子。
「アスカ!、アスカも何か言ってやりなさいよ!」
「え?、あ、うん…」
シンジを見る。
シンジは自分が原因で起こっているケンカに、どうしていいか分からない模様だった。
なっさけないわねぇ…
ちょっとだけ腹が立ってしまう。
「だって、見たって言ったって昔のことじゃないか、小さい時の話しだし…」
「そんなの関係無いわよ!、見た事には変わりないんだから!」
「ちょ、ちょっと待てよ!」
割り込む眼鏡の少年、ケンスケ。
「昔っていつのことだよ?、惣流って確か、去年引っ越して来たんじゃなかったっけ?」
ああ、余計なこというんじゃないわよ!
焦ったのは、シンジよりもアスカであった。
「とーにかく!、だからシンジはあたしにつくす義務があるのよ!」
立ち上がり叫ぶ、ごまかすために。
「なんや!、そんなん横暴やないか!」
「何言ってんのよ?、あたしの清純なイメージはどうしてくれんのよ」
「そんなん、初めからあらへん…」
「なんですってぇ!」
ズガァン!
投げ付けられた机が、ジャージを着た少年を押し潰した。
「大体!、このあたしにつくせるっていうのに、一体何の不満があるってぇのよ!?」
アスカはシンジではなく、気を失っているジャージに向かって叫んでいた。
「容姿端麗、成績優秀、その上スポーツ万能で大会社のお嬢様!、これだけ揃ってて何が不満なわけ!?」
「性格が…」
ギロ!
それはもの凄い、殺気を伴った視線に押し黙る。
アスカはシンジを睨み付けたままで続けた。
「あんた、あたしの何処に不満があるってぇのよ?」
「だ、だから…」
「だから?」
にっこりと。
とてつもなく恐い。
「いいから!、あんたはあたしの下僕で居ればいいのよ!」
「そ、そんな…」
「この完璧なあたしと口がきけるだけでも感謝しなさいよ、あたしと対等に話せるなんて、そりゃあ名誉な事なんだから」
下僕は対等じゃないと思うんだけど…
だがそれを口にしてしまうような愚は犯さない。
「う、うん、そうだね…」
「そうよ!」
シンジの返事に気を良くしたのか、アスカは口を滑らせる。
「幼くしてこの美貌にこのプロポーション!、将来性の豊かさは報奨されてるようなものよね?」
「そ、そうなの、かな?」
「そうよ!、その上このあたしと結婚する奴は、うちの会社の社長になるのよ?」
「そうなんだ」
「もちろん!、玉の輿間違い無しよ!」
「でも、それは僕とは関係無い話しだし…」
あちゃ〜
どこからか、そんな声が流れて来た。
誰がそう漏らしたのかはわからなかった。
「僕は、バカなのかもしれない」
シンジは屋上で黄昏ていた。
頬には大きな紅葉の跡が…
「なんで怒ったんだろ?」
シンジには本当に分かっていなかった。
パン!
今日何度目なのか分からない。
だがシンジはまたも頬を張られていた。
「痛…」
「そうよ、あんたには関係無いわよ!、あんたのせいで好きな人ができても口もきけなくなっちゃったんだからね!、知られたらどうしようって、嫌われたらどうしようって、あんたが悪いんだから!」
アスカの叫び。
泣いてるの?、アスカ…
当たり前か…、と思う。
女の子って、そう言うことでも気にしちゃうんだな…
裸に興味を持つほど大人にはなってない。
シンジには、その「女の子の気持ち」は分からなかった。
「あんたなんて、あんたなんて…」
だがアスカの悲しみはもっと深く、もっと別の場所にある。
「あんたなんて!、そんなこともなければ、あたしと口をきくこともできなかったんだから!、あたしが遊んであげてるのも、あのことがあったからよ!、でなかったら…」
アスカは空港で、シンジに慰められた時のことを思い出していた。
「あたしが、あんたなんかにかまうはず、ないじゃない…」
シンジはもう、アスカに話しかけることができなかった。
「そうだよな…」
空を見上げて、ため息をつく。
「でなかったら、アスカが僕なんかにかまってくれるわけなかったんだ」
アスカに引きずり回されていた日々を思い返す。
「理由が分かると、ちょっとショックだなぁ…」
だが、「まあいいか」、とも考えていた。
「みんなにも知られちゃったんだし、これでアスカにいじめられることも…」
「碇君…」
「綾波」
振り返る、レイが所在無げに立っていた。
「どうしたの?、綾波…」
「運動場から、ここに居るのが見えたから…」
レイは体操服に着替えていた。
白い上着に、赤のブルマー。
色は学年によって違うのだ。
「…うん、なんだか居辛くって」
シンジはサボるつもりでここに居た。
「綾波は戻った方がいいよ…」
「でも…」
「僕はいいんだ、これが初めてじゃないから…」
言葉が途切れてしまう。
碇君、なにを思っているの?
何か心の中に、苦しいものを隠していると感じてしまう。
わたしと、同じ目をしているから…
無気力で、人に絶望しているような目を。
だから気になってしまうのかもしれない。
だが、それをうまく言葉にはできなかった。
わたし、碇君のこと…
考えて見れば、知っていることはほとんど無かった。
「どうしたの?」
先にシンジが訊ねてしまう。
「綾波、苦しそうだよ?」
ぼうっとしている間に近づいたのか、シンジの顔が、すぐ側にあった。
「わからない…」
「そう?、保健室に行く?」
レイは首を振った。
「…なぜ」
「ん?」
首を傾げるシンジ。
「なぜ、姉さんを嫌うの?」
シンジは一瞬何を聞かれたのかと、戸惑ってしまった。
苦笑する。
「嫌いじゃないよ…」
「そう?」
シンジは優しい目を向ける。
「綾波が心配しているのは…」
そして残酷な言葉を吐く。
「アスカのことなんだね」
その一言が、レイの胸をえぐった。
「どうして…」
そんなことを言うの?
ますます胸が苦しくなってしまう。
違う、わたしが心配しているのは、碇君のことなのに…
しかしそれを言葉にして伝えられない。
「ごめんね、でもアスカはすぐに元に戻るよ…」
鈍感なシンジは気付かない。
寂しげな表情を見せることもやめようとしない。
「でも、もう友達には戻れないんだろうな…」
暴露してしまったのは自分だから…
だからこそ、シンジはアスカにあれ以上の反論をしなかった。
知ってしまったから。
アスカが僕を離してくれなかった本当の理由が、わかっちゃったから…
シンジはもう、アスカの側には近寄りたくないと思ってしまっていた。
続く
エンディングは無しよん☆
碇家、子供部屋。
「うう、いったいこの後、どうなってしまうんでしょうかぁ?」
はらはらとしているミズホ。
「そんなの決まってるじゃない」
「ほえ?」
「アスカと溝が深くなっちゃったシンちゃんは、あたしの優しさに気付いて、立ち直ってくれちゃうのよ」
両手を合わせて、夢見モードに入るレイ。
「そしてあたしの本当の気持ちに、シンちゃんは…」
はう〜んっと。
「うう〜!、違いますぅ!、辛いシンジ様を支えてさしあげるのはわたしですぅ!」
「どうだか…」
ふふんとレイ。
「レイさんは結局シンジ様の力になれなくって、そこで甲斐甲斐しくシンジ様の、シンジ様の…」
ミズホの目尻が、とろんと下がる。
「…というわけで、わたしが」
「なにが、「というわけ」なのよぉ!、ミズホいまなに考えたの!、白状しなさい!!」
「嫌ですぅ!、ぶー!!」
取っ組み合いになる二人。
そこへやって来る碇シンジ。
「あ〜、いいお風呂だった、あれ?、どうしたのさ二人とも…」
「シンちゃん!」
「シンジ様!」
「な、なに…」
危険を察知して、後ずさってしまう。
「見ててね?、きっとあたしがシンちゃんを守ってあげるから!」
「違いますぅ!、シンジ様が本当の愛にお目覚めになられる時、側に居るのはわたしですぅ!」
「ちょ、ちょっと待ってよ、何の話しだよ、うわ、うわわ」
ああああああああああ…
二人のケンカに巻き込まれるシンジ。
「…あたしと仲直りするに決まってるじゃない」
アスカはじっと、その様子を傍観していた。
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