あいつっの前では、委員長☆
つんっとおすまっし、それはなぁぜ?
だぁって、とってぇも、とってぇも、とってぇも…
「だめぇ、そんなこと言えなぁい!」
「って、あんた本編に関係無いじゃないのよぉ!」
ちなみにこの世界でも、一応二人は親友である。
「やだぁ…、ねえシンジ、起きて、起きてよぉ、バカシンジぃ…」
それは本来そこにあるべきだった世界だった。
「碇君、いかりくん、いかりくぅん…」
そしてそれもまた同じく、そしてレイは心を閉ざす。
「碇君が死、死んで、死んだのはわたし、わたしの、せい…」
あの屋上で…
シンジが寂しげに微笑んだ時…
一言でも伝えていれば。
そして今また別の時間が生まれ流れる。
てけてけん♪
どらエヴァンと初号機と碇ゲンドウ...の巻
ふぁ〜んふぁ〜んふぁ〜〜ん…
「苦しかったら、逃げてもいいのよ?」
優しく母のように振る舞う人。
「でも逃げちゃダメなんだ…」
「どうして?」
「だって…、余計に辛くなるから」
母と同じ顔を持つ人が、シンジのベッドの隣に座っている。
枕の側に頬杖を突いて。
「みんな怒るんだ…、でも泣いてると嫌われるんだ…」
わーん、わーん、わーん…
父の冷たい視線が痛い。
わーん、わーん、わーん、わーん…
人がうるさげにシンジを見ている。
「だから泣くのをやめたんだ…」
ミサトさんには関係無いでしょ?
だけどそれでも怒られた。
「結局、僕は何をしても嫌われる…、僕が生きてる事が、僕が…、みんな僕が居る事を嫌ってる…」
ねえ?
シンジはその人を見た。
「どうして助けてくれたの?」
どうして死なせてくれなかったの?
シンジの問いかけは、裏にその真意を含んでいる。
「あなたの笑顔が見たかったから…、じゃ、いけない?」
「でも…」
いいじゃない…
ユイは優しく撫で付けた。
「あなたはレイの…、あの子の笑顔を見たいとは思わないの?」
シンジははっとユイを見た。
大事だと思うよ?
レイの、レイなりに必死な質問が蘇って来る。
シンジは自分の返事を思い出した。
「そうだ、僕は…」
「そうね?、あなたが望んだように、レイも思ってくれたんじゃない?」
「それを…」
「信じなさい?、同じ人同士、あなたが抱いた想いを、人も同じように感じてくれたのだと言う事を、だって同じ人間同士なんですもの、少しぐらいの違いはあっても、きっと分かり合えるはずだから…」
悲しいことは悲しいのだし、辛いことは辛いから。
「楽しいことは楽しいし?」
「嬉しいことは嬉しいのよ…」
そしてユイはにっこりと微笑む。
「自分の思った事と同じことを、あの子も考えてくれただけ…、あなたがあの子の幸せを望んだように、あの子もあなたの幸せを思い描いてくれたのよ?」
シンジはその笑顔を辛く見る。
「でも、僕は…」
「それともレイのことが信じられない?」
「え?」
思わず、体を起こすシンジ。
かけられていたシーツがズレ落ちる。
「いいえ、人が信じられない?、同じ人同士なのに、みな同じように生きて、同じように感じて、同じように思うことを信じられないの?」
「…わからない」
「そう…」
「わからないんだ、だけど…」
「けど?」
シンジの目は部屋の入り口を見ていた。
その視線を追うように、ユイもゆっくりと振り返る。
「ねえ…、どうして泣いていたの?」
そこには真っ赤に泣きはらしたレイが居た。
レイは顔を上げると、真っ直ぐにシンジの元に駆け寄る。
「碇君!」
「え?」
どさ…
レイは迷わずシンジの布団にダイブしていた。
「あ、綾波?」
「恐かったの!、恐かったの、恐いの、恐い…」
綾波…
首に噛り付いて来る、震える姿に思わず抱きしめてしまう。
「ごめん、ごめんよ?、もう恐くない、恐くないから…」
そして背中を撫でてやる。
う、うっく、ひっく、ひっく…
レイのくぐもった泣き声が漏れる。
心の解放?
どこかで聞いた言葉が浮かぶ。
「碇君が血まみれで、起きてくれなくて、それで、それから…」
そっか、綾波は解き放ってあげられたんだね…
自分の心を。
そのきっかけは、死に掛けたシンジの姿。
後はもう、ただただ泣き崩れるだけであった。
「そんな、シンジ君が生きているなんて、なぜ!?」
カヲルは真向かいの屋根の上から、その様子を眺めていた。
「るーるーるーるーるーるーるーるー(第9)、歌はいいな、歌は心を和ませてくれる」
「どらエヴァン!」
ニヤリ、お得意のフレーズを奪い、どらエヴァンは隣の三階建の屋上に立っていた。
「時計の針は再び進み始めた、わたしはこの時を待っていたのだ」
「どういう事だい?」
「…君は、信濃ミズホと言う少女を知っているかね?」
どらエヴァンははぐらかす。
「ミズホ…」
記憶に引っ掛かる、シンジに言い寄っていた少女だ。
「…そうか、そういうことか、どらエヴァン」
「問題ない、そう言う事だ」
二人は氷の微笑みを向け合った。
本来、信濃ミズホと言う少女は、シンジの人生に絡む事のない、ただの一クラスメートに過ぎなかった。
「シンジさっま♪、今日は学校にいらっしゃるんでしょうかぁ?」
るんるんと陽気な鼻歌が流れている。
朝の清らかな空気に溶け込むかの様なそのハミングは、聞く者に思わず微笑みを浮かばせてしまう。
「シンジさまぁ、起きてくださいぃ〜なんて、きゃ☆」
やや小学生にしては早過ぎるだろう妄想に頬を赤らめる。
「ミズホ、ファイトですぅ!」
ミズホはふん!っと、気合いを入れた。
あの日、あの時、あの弾は、どうして狙いをそれたのだろう?
「タイムワープの出現位置のずれに続く機能不全の数々、それに…」
「ATフィールド…、だね?」
「そうだ、ATフィールド発生機関が、どうして搭載されなかったか…」
カヲルは吹いて来る風に、髪を押さえて頷いた。
「その答えは一つ、そうだね?、どらエヴァン初号機…、いや、今は碇ゲンドウ、かな?、それともアダムか…」
どらエヴァンは、くいっと眼鏡を持ち上げた。
燃え上がる旅客機。
外骨格を成すフレームは、灼熱に赤く歪んでしまっている。
黒焦げになった遺体の数々は、それでもなお緩む事のない火勢にあぶられてしまっている。
気持ちの良いものではないわね、自分の死を見取るなんて…
リリスの視線の先には、元ユイであったものが崩れている。
消し炭よりも酷く脆く。
その隣の席を見やる。
「ダ…レダ?」
生体素子のほとんどは焼失していたが、人間であれば骨に当たる部分がかろうじて残っていた。
特殊素材による鋼鉄にも似た光沢。
それに支えられている、機械体、それは明らかな「人間以外の存在」である証しだ。
「さあ行きましょう?、アダムの分身、そしてわたしのあなた…」
ユイ?
初号機の知覚装置のほとんどは壊れており、かろうじてその声から相手を判別するのが精一杯だった。
そして、彼女と初号機の姿はそこから消える…
アダム、初号機、碇ゲンドウ、同じ姿形の人物。
「そしてそのどれでもなく、また全てでもあるのがわたしでもある」
世界の強制力が、どらエヴァンの存在定義を変更しようとしていたのだ。
「それこそが…」
「そうだ、ATフィールドも持たされなかった、最大の理由とも言えるな…」
あの日、あの時、あの場所で、どらエヴァンは何故か起動状態にあったのだ。
「これで私たち、同じ所で暮らせますわ」
にっこりと微笑むユイ。
どらエヴァンは隣に並ぶ、ミッション系お嬢様型ロボットと恋仲にあったのだ。
そこへやって来る碇シンジ、いや、レイのために作られた、レイのためだけの碇シンジ。
「そう、弐号機によって生み出されたサードチルドレン」
「参号機だったのかい?」
壊れた少女を支えるために、弐号機が生み出した人型のもの。
「だがその定義はまたしても変更されようとしている」
「なんだって!?」
「本物の碇シンジが死ななかったのでな…」
「統合されるのか…、ならアスカちゃんはどうなる!?」
「そのためのカンフル剤だ」
はっとする。
「ミズホちゃんか!」
ニヤリ。
まさにどらエヴァンは、碇ゲンドウそのものになろうとしていた。
スー、パタン…
閉じられる襖、中ではシンジとレイが、抱き合って仲良く眠っている、泣き疲れたのだ。
「でも、このままじゃいけないわ…」
どらエヴァンはまだ完全体ではない、それはユイがこの世界で異分子として存在しているからだった。
「わたしはリリス、碇ユイでも、零号機でもないもの…」
しかし世界は合一化しようとしている。
「それではいけない、シンジとレイは「兄妹」になってしまうもの、それではお互いの関係が障壁となって展開されてしまう」
いくら想い合っても、血が繋がっているのだ。
「踏みとどまろうとする心は未来を閉ざすわ、辛く苦しんだ心の解放こそが、幸せに至る唯一の道なのに…」
二つの心は一つにならず、また距離を置き、スタンスを取り合う事になるだろう。
「恐れて、触れ合う事を拒んで、でもそれではくり返しになってしまうのよ、どらエヴァン…」
ユイはシンジ達を起こさぬように、静かにその家から出ていった。
世間一般的に放課後と呼ばれる時間帯。
「なによなによなによ!、レイったらどこ行っちゃったのよ、まったくもう!」
アスカはぷりぷりと怒りながら歩いていた。
向かう先はシンジの家だ。
「シンジ様ったらもう、ご病気だなんてぇ、だったらミズホに連絡してくだされば…」
ぽっと頬を染めてのの字を書く、いきなり、往来で。
「はっ!、いけませんいけません、こんなことをしている場合では…、おっと涎が、へっへっへですぅ」
粗雑に袖でぐいっと拭う。
「えっとシンジ様のおうちはぁ…」
「まったくもうって、あ!」
「「!」」
二人は偶然鉢合わせした。
「何であんたが、ここに居るのよ!」
「そっちこそ!、わたしはシンジ様を心配して…」
「はん!、あのバカシンジに限って、悩むような事なんてあるもんですか!」
「なに言ってるんですか!、元はと言えば、アスカさんの言葉が原因で…」
「あんたあたしにケンカ売ってんの!?」
「文句があるなら、帰ってください!」
「嫌よ、あたしはシンジに用があるのよ!」
「じゃあお先ですぅ!」
「ああ!、こらちょっと待ちなさいよ!」
二人は勝手に上がり込んだ。
本来であれば、中には冷たくなったシンジが居るはずだった。
「なんだろう?、騒がしいな…」
シンジは寝ぼけ眼をグーでこする。
そして別の世界では、シンジとレイは傷を舐め合い、そして壊れる。
ごめん、僕はもう堪えられない。
しかしここでは違っていた。
初めて、違いが生まれていた。
「ちょっとあんたシンジの部屋が何処だか知ってんの!?」
「もちろんですぅ、シンジ様がわたしを呼んでおられますぅ」
呼んでないって…
ため息をつく。
「こっちこっち、こっちの方から…、はう!」
「残念でしたぁ、そこは物置、こもってれば?、じゃあね!」
どたどたと階段を駆け上る音。
「バカシンジぃ!」
スパァン!っと、襖が勢いよく横へ開いた。
「ん…、なに?、アスカ…」
だがアスカは大きく目を見開いて、わなわなと震えてしまっている。
「な、な、な…」
「え?」
「何やってるんですかぁ、シンジ様ぁ!?」
「あ、僕、今まで寝てたんだけど…」
「そ、そんなぁ…」
ミズホの目が、うるうるうるうると一気に潤む。
「じゃああんた、ずっとその状態だったってぇの!?」
「え?」
シンジはようやく、思い出したように隣を見た。
「あ、綾波!?」
慌てたシンジは、ベッドから落ちる。
「あ、違う、これはそんなんじゃなくて…」
「じゃあどういうことなのよ!」
「そうですぅ、添い寝で看病だなんて、そんなの時代遅れですぅ」
は?、何か違っているような…
チュ☆
虚をつかれている間に、シンジは額にキスされた。
「えええええ!?」
「きゃ☆、早く良くなるようにって、おまじないですぅ」
「ななななな、何てことすんのよ、あんたわ!」
「聞こえませんでしたかぁ?、だ・か・ら、おまじないですぅ」
「呪いなんてかけないでよ!、シンジ、消毒だからね、我慢しなさいよ!」
「わっ、ちょっと待ってよ!」
何をされるのか分からなくて、慌てて目をつむり身構えた。
ちゅ☆
先程と全く同じ位置で音がした。
「え?」
瞼を開けると、真っ赤になったアスカが遠ざかっていく。
「あ、アスカ…」
「うっさい!、さっさとレイを起こしなさいよ!、いつまであんたのベッドに寝かせておくつもりなのよ!」
「あ、うん…」
慌てて向き直ったシンジだが、綾波の肩に手はかけられても、とても揺すり起こす気にはなれなかった。
だって、気持ちよさそうなんだもん…
レイは微笑んでいた、とても柔らかく微笑んでいた。
それはアスカですら初めて見るような寝顔で…
ギュ…
寝ぼけたのか?、肩をつかまれている手を、レイはギュッと握り返した。
「綾波…」
呆然としている間に、レイはその手を胸元に抱き込んだ。
「んん…、碇くぅん…、大好き☆」
と言うおまけ付きで。
あ、綾波!?
我に返る、だがシンジは振り返れなかった。
あ、アスカ、ミズホ…
気配だけで機嫌が分かる、シンジはその危険度の高さに恐怖した。
アスカちゃんとレイちゃんでは救えなかった…
でもミズホちゃんがアスカちゃんを刺激してくれている、レイちゃんとアスカちゃんは、お互いの関係ゆえに壁を乗り越えようとはしなかった…
だが今はミズホがそれをハンマーで叩き、アスカに後先考えない行動をさせていた。
「後は…、あたし達の問題ね」
ユイはそっと呟いた。
そして気持ち良く夕焼けを眺めやる。
それをバックにどらエヴァンと渚カヲルは、いまだに睨み合いを続けていたのであった。
続く
うはは、うはは、うははのは!
あたしは天才!(はっはっ!)
美貌も完璧(はっはっ!)
…………
「あと思いつかなかったんだね…」
「うっさいわねぇ、黙ってなさいよ!」
ガス!ピー…
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