まあ、マナ達はあれでうまくやってるわけだし、僕はそれを壊したくない。
逃げているとかそう言うんじゃなくて、ムサシが感情的になり過ぎるからだ。
ちょっとした事で波風が強くなりそうで、だから僕は一線を引いている。
ケンカしてまでマナと仲良くしたくないから。
違うな、そこまで仲良くなろうって気が沸かないのか…
心配な事と言えば、マナの体のことぐらいだ。
まあもっとも僕達が初めて出会った時にはとっくに壊れていたらしいから、いまさらって感じはするんだけども…
ムサシって所構わず激しいから…
「空気もいいし、向こうに居た時よりは調子いいよ?」
国連の人達が住んでいる監視小屋は小屋というには立派な建物で、居住区とは島の反対側に建てられていた。
その中には一応医務局があった。
こういう場所だから出産もそこで面倒を見てくれるそうだ。
「受胎は出来るらしいんだけどねぇ〜」
残念なのは、例え受胎しても生理が止まらないこと。
マナに宿った命はそのまま外に流れ出るらしい。
「もしお腹が大きくなっても、自分で出産は出来ないんだけどね…」
内臓が中で暴れる赤ん坊の動きに耐え切れないらしい。
これはちょっと寂しそうだった。
「ごめんね?、こんな話しちゃって、迷惑?」
「ううん…」
「…ムサシとケイタって、あれでしょう?」
だから泣き言を言ってすがれないそうだ、だから愚痴は僕にこぼす。
こういう関係が誤解を生んでるのかもしれないけれど…
「だから代理母とか…、誰かに頼むしか無いの」
それでも受胎は普通に愛し合って出来るのだから、まだいいとマナは語ってくれた。
そんなある日、ネットで新曲を漁っていた僕は動揺するような記事を見付けた。
『ドイツ支部、エヴァ再建造計画』
それはあっという間に話題になって…
『パイロット、セカンドチルドレンを召喚』
『セカンドチルドレン、熱愛発覚』
『お相手はドイツ支部長?』
『婚約発表を撤回!』
などと、わずかな間に色々な噂が飛び交った。
どうでもいいけど、胡散臭いのが混じってて困る…
僕には真実を見分ける術が無いから、ただ悶々とその記事の進展を追うだけだった。
…病気、治ったのかな?
僕が居ても居なくても関係無かったのかもしれない。
それだけがちょっと悔しかった。
話題は集会所でも昇っていた。
たまに遊びに来ればこれだもんな…
僕がなにかこぼさないかと、みんな聞き耳を立てている。
「そういや、さ…」
唐突にムサシが口を開いた。
「コアってどうなってんだろ?」
空気が凍てつく。
「セカンドチルドレンって、でももう前のエヴァは全部無くなってんだろ?」
うんざりだ…
マナがそんなそんな僕の表情を察してくれたけど、僕はもう我慢できなかった。
「セカンドチルドレンでも取り込ませたんじゃないの?、卵子を保存しとけば子供なんて作れるんだし」
爆弾のような物を投下した。
「…冗談、だろ?」
「ネルフはそれぐらいするよ?」
洒落にならない事実、でもこれは真実じゃない。
本当はネルフではなく、父さんなら、と言うべきだった。
だから今のネルフには当てはまらないだろう…、と思う、きっと。
桟橋、今日は月に一度の配達日だ。
僕とケイタはぼうっと桟橋に腰かけて水上機の到着を待っていた。
この間二人で流行の映画のディスクを注文していたからだ、こういう所はやはりマナにこだわってるムサシと違って、なんとなく気が合う。
ムサシはケチ付けるのが好きだから…
「それで泳げるようになったの?」
「ちょっとだけ…」
「早く覚えたほうがいいよ?、やっぱり船に乗った方が釣れるもん」
僕が泳ぎを覚えたいのは、もう少し沖に出た所で釣りをしたいからだ。
ひっくり返っても船にしがみつける程度には泳げるようになりたい。
「あ、来たよ」
ケイタに合わせて立ち上がる。
着水した機が、惰性で桟橋に寄せられた。
島ののんびりとした空気には似合わない新鋭機。
「え?」
そこから降りて来た女性に僕は驚いた。
「サードチルドレン!」
赤い髪が金色に変わっていたけど…
「ちょっと付き合って」
その横暴さは元に戻っていた。
確認もせずに歩き出す彼女。
「ケイタ…、ごめん、先に帰ってて」
僕は彼女の後に着いていく。
何処に行くのかは、不安だったけど。
しばらくして、人気の無い浜辺に出た。
時々マナやムサシ、ケイタと遊んでいる場所だ。
人目が無いので水着を着る必要が無くて楽だった。
彼女は背中を向けたままで切り出した。
「…幸せそうじゃない」
「そう見える?」
別に皮肉っているわけでもなく、僕は淡々とした調子で答える。
「何か言いなさいよ!」
なにを怒ってるんだろう?
わからない…
「なんであたしを捨てたのよ!」
「…さあ?、どうしてだろ」
僕の口座のお金はそのままになっている。
だからここから出ようと思えば、金を積む事で何とかなるのだ。
後は世間の反応をどう耐えるかだけのこと。
その気があれば彼女の元に戻ることは可能だった。
「なんでよ!」
だけど僕はそうしなかった。
振り返った彼女の顔は憤怒に歪んでいた。
「多分、考えるのが面倒になってたからだと思うよ?」
「そう…」
彼女は一端顔を伏せる。
再び顔を上げた彼女は、表情を完全に消していた。
場所を僕の小屋に移す。
「それで、なにしに来たの?」
わざわざ湯を沸かすのも面倒なので、僕は冷蔵庫の缶コーヒーを机に並べた。
「あんたの子供を貰うためよ」
「は?」
「あんたのタネを貰うわ?」
「…なんで?」
「はん!、あんたには関係無いわよ…」
そう言うが腑に落ちない。
僕の子供?
なんだか外国の言葉みたいだ、いや、英語の方が親しみがあるか…
「そう言えば、婚約したとか別れたとかって記事が流れてたけど?」
かまを掛けて見た。
「…てないわよ」
「へ?」
「別れてない、あたし、多分結婚するわ」
「そう」
ますます首を傾げるしかない。
「何か言うことは無いの?」
何を言って欲しいんだろう?
僕は面倒くさくなって来ていた。
「ねぇ…、どうして僕なの?」
「あんた以外にいないからよ!」
何を焦っているんだか…
彼女の考えが分からない。
「あんな奴の子供を生むなんて絶対に嫌…」
そんなに嫌なのかな?
自由が無いのは僕も同じだから、まあ察する。
「でもどうせそう言うことしてたら、できるんじゃないの?」
「うるさい!」
涙声。
「別にあたしとしろってんじゃないわよ!、黙って提供すればいいの!」
これ以上苛めてもしようが無いか…
どこかでそんな感じがしたから、僕は分かったと頷いた。
彼女が持ち込んだのは、その手の道具だった。
僕はあそこをそれに差し込む、多少きつかったけど我慢した。
ベッドの端に下半身裸で腰掛け、見られながらこういう事をしている。
その緊張感からか、出すのに十五分ほどかかった。
「…はい」
僕はその道具をそのまま手渡した。
彼女は道具の入り口付近をぺりぺりとめくり、そのまま一気に引き抜いた。
「それ、あげるわ…」
道具の方はベッドに投げ棄てられた。
ゴム状の中に白い液体が粘ついている、あんなのを取りに来たのか…
なんだかおかしい気がした。
「…ここで受胎してから帰るから」
それだけ言って、彼女は出て行く。
医務局で卵子と結合させてから体内に戻し、妊娠したと確認できるまでくり返すつもりなんだろう。
まあそれぐらいはいいけど…
彼女と入れ違いにマナが入って来た。
僕の様子…
しおれたナニを放り出したままで、ぼうっとしている僕に顔をしかめる。
いや、正しくはその横に転がっている道具にだろう。
「…そんなやり方しなくても」
「そう?」
僕にはマナが憤慨する理由は分からなかった。
「惣流さん」
それから数日して、島を散策するアスカにマナは決闘を挑んでいた。
「なによ?」
とは言ってもただ憤りをぶつけたいだけの事なのだが。
「なぜ、今更…」
「あの男が嫌になったからよ」
アスカはなにも隠さない。
「あの男?」
「ドイツ支部長、アルフレッド・フォン・シュヴァイン」
唯一アスカの体を知っている男である。
「どうして?、その人と一緒になるんでしょ?」
「ええそう、あいつはセカンドチルドレンがお気に入りらしいわね?」
アスカ関連の記事についてはマナも知っていた。
そしてもう一つ、セカンドチルドレンとは書かれてもアスカの名前が出ない事にも気がついていた。
「あいつはあたしなんて見てないのよ!」
セカンドチルドレンを蹂躪する。
ベッドに腰掛けるアスカにキスをする。
アスカは抵抗しない、必要性を感じないからだ、だから目も冷めた光を放ったままで開いている。
アスカを押し倒し、胸を貪る。
お気に入りは背後から従えさせる体位らしい。
アスカも女の子だし、自分でも慰めることはしていた。
だからアルフレッド、アレフの行為にも反応は返してしまう。
「あ、はぁ…」
頬は上気して、体も熱を帯びていく。
だが心は冷めたままだ、股間を突き上げられても、自分から締めようとしない、腰も動かさない。
拒否しようと思わないのと同じように、よがりたいとも思わない。
こいつ、なにやってんのかしら?
同時に自分もと自嘲する。
アスカが拒否しないから、結婚まで話は進んでいた。
逆を言えば、同意をしたことは一度も無いのだが、誰もそれに気がつかない。
「もう嫌なのよ!、あんなやつに触られるのは、なにかされるのは!」
「だからシンジなの?」
「そうよ!、あいつよ、あいつだけなのよ!」
アスカは叫んでからハッとした。
「シン、ジ…」
困った表情で近付いて来る。
あ、ごめん…
きっとそう言うだろうと思った、だから逃げ出せるよう後ろ足を引いた、しかし…
「マナ?」
アスカは、シンジが彼女を選んだ事に落胆する、しかしそれも早とちりだ。
「あまり彼女を苛めないで…」
アスカは信じられないと言った顔をシンジに向ける。
それはマナも同じで…
「でも!」
「いいんだよ…」
シンジははにかんだ笑みを見せた。
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