藍色の空に白と黒の月が昇り、灰色の雲が薄く流れる。
 星の瞬きをかき消すように、燐光が夜空に模様を描いた。
 直線を、曲線を引き、時にはばっと弾けて輪を作り、かすれて消える。
「碇シンジぃいいいー!」
 虹色の光がかき乱される。
 突き破られて穴が開く。
 光を生み出すものを追って、直線的な煙が尾をたなびかせていく。
 時に絡まり合って螺旋を描くそれは、理力甲冑騎の航跡と、スモールの出す噴射炎が生む雲だった。


 サーバインの上に赤いスモールは覆い被さるように追って飛び、バルカン砲を掃射した。
 コクピットの中で、少女が牙を剥いて絶叫する。
 それは砲撃という形を取った。スモールの手にあるロングレンジライフルが至近距離から火を吹いた。
 スモールは、前回とは違う形の増加装甲を身に纏っていた。
 それはまるで、全身鎧(フルアーマー)の上半身部分だけ着込んでいるような形をしていた。
 特に異形なのは背中のブースターとおぼしき部品であった。
 まるで理力甲冑騎のコンバーターのように、奇抜な形に機械を追加していた。
 肩胛骨が体から剥がれたように跳ね上がって、長く伸びて育っているように見えた。その下には左右とも二本の筒状の部品が差し込まれ、その先端が覗き見える。
 補助のためだろうか、下側にも受け皿のようにカバーが付け足され、結果、筒を差し込まれた口が大きく開いているような形となっていた。
 まるで、蟹のはさみである。
 機体正面からでは、無骨な甲羅の翼を広げているように錯覚させられるものだった。
 足下には加速用のブースターを装着し、両腕には小手と盾が一体化したような防具を装備している。
「しつこいんだよ!」
 シンジは叫び、サーバインに身を捻らせた。その勢いを追加して、敵機の盾に剣を叩きつけ、反動を生み出し、減速して高度を下げた。
「甘い!」
 二射、ライフルから弾が放たれる。
 頭を押さえられたサーバインは、木々の海の表面を滑るように、ゆらゆらと蛇行して砲撃をかわした。
 流れ弾が森に突き刺さり土砂を巻き上げ土柱を作る。
 だがそれも一瞬で後方に流れて見えなくなる。
「なんとぉおおお!」
 耐えられる荷重の限界にまで逆加速をかけて、シンジはスモールの背後を取った。
 一瞬だが追い越す形となったスモールの後尾に着くよう、再上昇する。
「落ちろぉおおお!」
 急加速をかける。サーバインの動きに幻惑されて、つい減速してしまったスモールの背中に切りつけようとする。
 ぐにりと。
 シンジは異様な感触を切っ先に覚えた。
「なんだ!?」
 粘液質な手応えがあった。見えない膜のようなものを斬りつけた感触。スモールの背中にある筒の中心軸が回転して、紫色の粒子を撒いているのが目に入った。
 戸惑いの隙をついて、スモールはブースターを噴射した。粒子が炎に散らされ、消える。
 スモールは噴煙でサーバインを煽って、押し返した。
 テッサが叫ぶ。
「今の!?」
 相変わらずシンジの頭の上である。彼女はコクピットの右側に陣取っているシグナムを見た。
 シグナムの顔も信じられないとばかりに歪められていた。
「間違いない、魔力障壁だ」
 だがと彼女は口にする。
「機械が使えるなんて話は、聞いたことがないぞ」
「わたしもです。機族が魔法、魔術に手を出すなんて」
 キレたのはシンジである。
「ATフィールドでも、理力障壁でもない。なんなんだよ!?」
 戦闘で高揚しているところに理不尽な現象である。
 それでつい当たり散らしてしまっていた。
 落ち着けとシグナムが諭す。
「魔力障壁は魔法を使う際に発生するものだ」
 ブースターの点火は、スモールにとってもコントロールの難しいものであったらしい。
 勢いよく飛ぶためのものであって、緊急避難のために使うような代物ではない。
 スモールは一瞬で遠くに飛んでしまっていた。
 その速度を落とし、戻ってくるため、月を背に旋回している。
 シグナムはこの間にと理解させようとした。
「魔術、魔法を行使すると、世界に歪みのようなものが生まれるんだ。魔法使いが剣士と戦える理由は、強力な魔術はそんな空間異常──魔力障壁をともなうからだ。巨大な魔法なら、一流の剣士の一撃をもはじき返せるものになる」
 テッサが付け加える。
「魔術によって引き起こされる現象自体は、物理的にはあり得るものばかりです」
 たとえば光線、炎、冷気である。
「でもそれを成す物理法則自体は、自然に反して起用しています」
 火種がないのに発火し、燃え続けるなどといった現象は、自然に起こるものではない。
「そんな、空間に対する不自然な方程式の書き換えが、自然な物理方程式との境目に歪みとなって現れて、魔法が発生する基点……術者を中心に……」
 シンジはわめいた。
「よくわかんないよ!」
「……魔法は不可思議で不自然です。その不自然なことが起こってる場所に、自然な物理運動方程式を持ち込もうとしても、まともに働かないで歪んでしまうって話です!」
 魔法を使用するために物理法則を書き換える必要がある。
 だが剣は運動エネルギーを与えられて振るわれているだけのものだ。故に、まともな物理法則が働いていないのでは、切っ先が直線を描いて落ちるわけがない。
「そんなものを機械が使ったって言うのかよ!?」
「だからこそ、あり得ないんです。あれはほんとうに機械なんですか!?」
 テッサがそう言ってしまったのは、シンジの持つ知識の引き出しが、自分以上であると思ってのことであった。
 技術的なことで言えば自分が上でも、それが知識量と比例するわけではない。
 シンジは難しい顔をして言った。
「あれはエヴァと同じシステムを……人造人間を中枢に使ってるはずだ。だったらそれが魔術を使える理由になってるかも知れないけど」
 だけどと口にする。
「その理屈なら、あれは魔法を使ってるはずだ、そうだろう?」
 その通りなんだとシグナムも眉間にしわを寄せた。
「魔術を使ってるようには見えない」
「どういうんだよ!」
 キレる理由は他にもあった。
 魔法、魔術。その違いがわからないのだ。
(たぶん、魔術で魔法を生み出すとか、そういうことなんだろうけど!)
 魔力障壁が生まれているのなら、魔法が働いているはずで、ならば魔術を使っていると言うことになる。
(魔術師とか魔法使いが乗ってるのならそれもわかるけどさ!)
 乗っているのは機族のアスカだとわかる。ならば、それはあり得ない。
 シンジは正面地表に隠れられそうな場所を見つけ、サーバインを降下させた。
 森林の切れた先に見えたのは、灰色の霧が漂うくすんだ大地で、その中には切り立った岩山の影が見えていた。
 その霧の雲の中に突入する。
「逃がすか!」
 機族のアスカも、サーバインが突入して生んだ雲のしぶきを吹き散らす勢いで突っ込んだ。
 シンジは霧の中で、岩山だと思ったものに驚き、衝突しそうになってしまった。
「なんだこれ!?」
 だんっと、壁面にサーバインの足を付き、壁を蹴って離れる。
 その足跡に機銃が突き刺さった。
 シンジは弾痕が穿たれた『建物』を迂回する形で逃げ出した。
「これ、ビル、高層ビル!?」
 機銃掃射に壁を削られ、自重を支えられなくなった高層ビルが、折れながら倒壊していく。
 コンクリートがもろくなるほど風化した都市が、霧の中に眠っていた。
「この霧、コンクリートが舞い上がってるの!?」
 サーバインを追う砲撃が、三桁はあるかもしれない階数の高層ビルを打ち抜き、次々と崩落を生んだ。
 建物が建物へとのしかかるように倒れ、巻き添えを生んでいく。
 巨大すぎる建造物が壊れいく様は、ゆっくりに見えて、幻想的ですらあったが、飲み込まれるかも知れないのでは、それを感じている余裕はなかった。
 頭の上に落ちてくる巨石を避けて、廃墟の中へと追い込まれていく。
 地表まで近づくと道路があった。交差点に信号機がある。歩道橋もだ。
 かつてはメインストリートであったろう六車線の道路を腹の下に過ぎ去る。
 シンジはそこへサーバインを下ろした。
 足の後ろのかぎ爪で道路の真ん中を引っ掻き、減速して着地する。
 進入禁止の看板を無視して、五階建てほどの建物の影へと、サーバインを潜り込ませる。
 スモールの位置を確認しようとして首を出させると、隣のビルに砲撃が着弾し、喫茶店のものであったらしい看板が、建物ごと砕けて散った。
 シンジは上空を過ぎるスモールへと盾の先を向け、フレイボンムを二発放った。
 空に火炎の花が咲く。霧が一瞬押しのけられて、空白を作ったが、すぐに風に飲み込まれて元の灰色へと塗りつぶされた。
 シンジは行きすぎたスモールが、反転しようとしている間にと、皆を急かした。
「三人は下りて。シグナム、頼む」
「やれるのか?」
「やるしかないだろ。口に布を当てて、空気を直接吸わないようにして。ここの空気は体に悪いよ」
「了解した」
 魔力障壁の原理はわからない。だがATフィールドほど強固でないのなら、戦いようはあると感じられた。
(もっとも、それも、ATフィールドを補強するものじゃないって前提があったらの話だけどさ)
 これまでの戦闘で、スモールが恒常的にATフィールドを展開できないことはわかっている。
 だがその合間を魔力障壁が埋めているのなら、話は変わってくる。
(光の剣は、今の僕じゃ扱えないんだよな)
 国境からこちら、ずっと追い回されていた。
 あれで機族のアスカが死んだとは思わないけど……そう思っていたら、案の定、彼女は追って現れたのである。
「それも、やっかいな力を新しく持って、さ!」
 三人が出て行ったところでハッチを閉じ、シンジはそう、不満を口にした。
 三人を降ろすと同時に、シンジはサーバインの盾を頭上にかざした。
 右のビルから盾の上、左のビルの屋上へと機銃弾が突き刺さり、噴煙が上がる。
 盾をどけ、サーバインはうなりを上げながら空を見上げた。
 空中ではスモールが手足を広げるところであった。
 足へと装着されていたブースターが放棄され、オフィス街であったのであろう一角にある、ビルの頭頂部、給水塔を直撃した。
 その破片ごと隣にあるビルへと飛び込み、ブースターは真ん中の階を貫いた。
 空洞を作り出されたビルが垂直に崩壊を始める。
 スモールは身をひねりながら着地し、倒壊するビルが生んだ粉塵のすきま風に路地より押し出されてきたサーバインと相対した。
 隣のビルを巻き込んで、ドミノ倒しに崩落を始める廃墟を背景に、両腕に装着されている盾状の武器を向け、ビームを発射した。
 サーバインは背なの剣を抜き放ち、このビームを切って捨てた。散った粒子が辺りに降って、焼き焦げた跡をあちこちに付ける。
 今更、ビームを剣で切り裂く程度の非常識さには、互いに頓着する様子は見せなかった。
 逃げていく三人の内、テッサが振り返り、スモールの背中を観察した。
 スモールの背中の機械は、ブースターなどと言った推進器ではなかった。
 機体の二の腕ほどもある筒が左右に二本ずつ組み込まれていのだが、その筒の先はタービン状になってはいても、紫色の粒子を撒いているだけである。
 その筒が、静かに、唸るように、軸の回転数を上げていく。
 粒子の放出が派手になる。
 二体は同時に足を踏み出し距離を詰めた。大木が動くような物だ。蹴散らされる瓦礫。そんな迫力ある光景を背に、足下の三人は逃げまどい、とにかく離れようと、交差点からひた走った。
 スモールが両手にナイフを抜く。逆手に持つ白熱する刃は高周波ブレードだ。
 一方、理力甲冑騎の剣は、ただ磨き上げられただけの鉱物である。そのままではなすすべもなく切り落とされてしまう。だからシンジは対抗策として、剣にフィールドをまとわりつかせた。
 長剣を横薙ぎに振るう。これをスモールは左のナイフで受けた。
 剣とナイフの接触点で火花が散った。
 スモールは残る右のナイフを高く上げて、サーバインの首元を狙った。
 これをサーバインの盾が防ぐ。
 スモールは両腕の盾もパージした。
 一気に身軽となって、サーバインの懐で背中を見せるように回転、後ろ回し蹴りを放つ。
 直撃。サーバインのコクピットハッチが割れ爆ぜた。
「シンジ!」
「シンジさん!」
 悲鳴が耳に入る。
 キャノピーがなくなったことで、外の音がそのまま耳に入ったのだ。
 シンジは飛びかけた意識を引き戻した。
 ハッチ一枚でも、なくなってしまうと怖いものだった。
 直接外が見えるという状態が、震えを誘発する。
 スモールがシンジのおびえを見抜いたようにあざけり笑う。
 ナイフを順手に持ち替えて、スモールは一気に踏み出した。
 一直線にサーバインのコクピットを狙って突きを放つ。
「くそ!」
 盾でかばおうとするシンジ。が、驚いた。
 スモールが頭部に横合いからの爆発を受けてよろめいたからだ。
「シグナムか!」
 すぐに誰の手助けか察する。
 スモールの手首を盾の先で跳ね上げながら、横目に見やる。
 彼女が魔剣を振りきっていた。
 もちろんスモールにダメージは見られなかった。それでも助かったことに代わりはない。
(でも、じり貧じゃないか!)
 地力でシンジとサーバインのコンビは負けていた。
 なによりエヴァのように、人そのものの挙動が可能なスモールとでは、相性が悪すぎた。
(理力甲冑騎は人ほどに便利には動けない!)
 回し蹴りなど論外だ。
 スモールの腕は筋肉で動くものではない、機械によるマニピュレーターだ。ならば膂力で勝ると考えたのだが、それも間違いであったと悟らされる。
(神像よりも、機械的な上限が高いんだ。ATフィールドの補助があるのかも知れない)
 自分が剣をそうしているようにである。
 エヴァンゲリオンのような巨大な物体も、自重を考えればとても立ち上がれるものではなかった。
 自身の重みで潰れてしまわなければおかしいものだった。
 それがそうなっていなかったのは、ATフィールドが『形』を固定化していたからである。
(スモールはエヴァの後継機だ。なら、そのシステムも踏襲されてるよな……)
 盾を捨て、剣を正眼に構える。
 速度で負ける以上、盾を放棄して身軽になるほかなかった。
「だけど死ねない、死ぬもんか!」
 シートから身を投げ出すように、体を倒し、前のめりになる。
「僕にはまだ、やらなきゃならないことが、たくさんあるんだ!」
 咆吼をあげる。
 サーバインが応じて動く。見えないほどの早さで剣を振り上げ、一足で間合いに飛び込み、振り下ろす。
 一方、スモールのナイフは、左はサーバインの刃を切っ先で突き、返す動きで右のナイフを突き立てようとした。
 その二体の交錯の中心で、爆発が起こった。
「なっ!?」
 これはシグナムが起こしたものではなかった。
 シグナムが割り込めるような隙などはなかった。
「どこから!」
 スモールのスピーカーから、アスカの声が発せられる。
『邪魔をしないで! 機族にけんかを売るっての!?』
 シンジが叫ぶ。
「誰だよ!?」
 霧が晴れ、空に月が見え始める。
 そこに、シンジがいつも見ているものとは違う、二つ目の黒い月が現れていた。
「なんだ、あれ……」
 それはいつも浮かんでいる金と黒の月よりも、もっと低い位置にあった。
(月じゃ……ない?)
 むしろ穴のようだった。
 どろどろとした粘液のようなものが黒い穴から漏れ出して、垂れ下がっていた。
 それは真っ黒な障気であった。
 溢れ出した障気が街の狭間に闇を生んでいた。
 その闇は、よく見れば不細工な粘土のような起伏を持っていて、なにかの形を取ろうとしているかのようだった。
 シンジの背中を、ゾッと悪寒が駆け上った。
 ──使徒!?
 闇の中央に、見慣れた白い仮面があった。
 ビルの合間から、のぞき見ているかのようだった。
 しかしそのビルもまた高層ビルと呼ばれる大きさのものである。
 比較しても異様な大きさに思えて、シンジは震えを押さえられなかった。
 後ずさる。
 記憶の中にある使徒の姿は、エヴァンゲリオンに搭乗した状態で目の当たりにしたものでしかない。
 理力甲冑騎に乗っているとはいえ……そして『彼女』に守られているとは言っても、ハッチを失い、ほぼ生身で直視する状態であっては、同じスケールだと思えるその化け物が発散する存在感に対して、圧倒されるばかりであった。
 恐怖に、がちがちと歯が鳴り出す。
 使徒については、殲滅後の巨体を見たこともあるが、この怪物が使徒ではなかったとしても、生きているものの迫力は凄まじいものがあった。
 やがて、形が具体的になる。
 仮面の位置がずり上がっていく。だが首であろう部位より高く上がることはなく、肩と同じ程度の高さに位置する。
 首のない使徒。第三使徒、サキエル。
 闇に体半分が溶けるように埋まりこんでいるそれは、記憶の中にある使徒の姿に酷似していた。
「まさか、そんな……」
 シンジは真っ青になった。
 あるいは闇がその形へと練り上がろうとしているようにも見えた。
 単純に言っても、十倍近いスケール差である。
 もしそれが本当に本物の使徒であるというなら、エネルギーの総量では計算すら成り立たないだろう相手である。
 どうにかできる存在ではないのだ。
 だが愕然とするシンジとは対照的に、スモールのアスカは恐れることなくわめき散らしたのである。
 胸のハッチを開いて、身を乗り出し、彼女は辺り一帯に対して抗議の声を荒げた。
「これは機族が行っている作戦よ! その戦闘に介入する気!? 出てきなさい!」
 アスカの声が反響すること数秒後……。
 ビルの中から、あるいは地下鉄構内への出入り口から。
 ストリートの霧の向こうから……フードを目深にかぶった、白い礼拝服の人々が、気配を消したまま現れた。
 静かな波のように、ゆっくりと迫り寄ってくる。
「な……なんだよ」
 シンジはその多さにおびえた。
 十人百人ではなかった。
 テッサはアスカを抱き上げた。シグナムはそんなふたりをかばい、剣を構えながら後ずさり、サーバインの足下に寄った。
 二体の巨人が取り囲まれる。シンジはまさかと使徒を見上げる。
 使徒は動かずそこにいた。
「使徒を……操っている?」
 くつくつという、笑い声がこだました。
 ──やあ。
 シンジは反射的に事の真相を悟った。
「カヲル君!?」
 姿を探す。
「君か! 君の……」
 だがそれは早合点というものであった。
 彼は背後にあった、歩道橋の上、手すりのへりに腰掛けていた。
「僕じゃないよ」
 シンジは機体から飛び降り、カヲルを見上げ、睨み付けた。
「ウソだ!」
「本当さ」
 肩をすくめる。
「だから、彼女たちには逆らわない方が良い。君は会いに来たんだろう? 彼女たちに……彼女たちの長に、ね」
「長?」
 カヲルの背後にも、フード姿の人影があった。
 比較してみると、小柄であることがわかる。
「巫女姫。人がそう呼ぶ、この子たちの教祖のことさ」
 カヲルの登場によって冷静さを取り戻したシンジは、その人影の胸元が、控えめであるが、双丘によって押し上げられていることに気がついた。
(女の人? 女の子?)
 ざっと周囲に目を配る。
 みな同じような背格好で、やはり全員が女性で……。
(どういうんだ?)
 その全てが同じくらいの年齢だと思えた。
 ちっという舌打ちが聞こえた。
 それはスピーカー越しのもので、放ったのはもちろんアスカであるが、向けられた先はカヲルであった。
(この二人?)
 カヲルの方も、そんなアスカに苦笑を向けている。
(知り合いなの?)
 カヲルはシンジの戸惑いに気付いたのか、気付かなかったのか……わからないようなタイミングで笑みを向けた。

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