神殿は山の傾斜に反って何段もの空中庭園を有していた。
その頂上に近い三段目の庭園は、花と草木と、噴水によって彩られた憩いの場となっている。
植えられた花が道を造り、そして噴水の上げるしぶきが、空にある月の明かりを反射していた。
アスカは用意された薄絹の服を身に纏っていた。
それは月の弱々しい光であっても透けて体の線を見せてしまうほどのものであったが、彼女はそれを気にはしなかった。
この神殿にいるのは女性ばかりであるし、男はシンジとカヲルの二人だけである。
現世神を名乗って勝手に振る舞っているフィフスチルドレンが、自分のようなまがい物に対して欲望を覚えることなど無いだろう。
そもそも彼がヒトに対して欲情するなどあり得ない。
だがあの少年はどうだろうか?
アスカは少し笑ってしまった。
彼は思っていたような人間ではなかった。
少しからかってやるだけで、てきめんにうろたえてしまうだろう、ただの男の子だった。
(どうしたものかしらね)
自分の中にあるセカンドチルドレンの血が彼を求めているのだろうか?
そのような、ありもしない話を作り、わき起こっている情動に理屈を付けようとしてしまっている。
(論理的じゃないわね。結局、いがみ合ってはいるけど、憎しみあってるわけじゃない。それが問題なだけか)
だけど……と、切なくなって、月を見上げる。
彼は、自分たちが小さなアスカをさらおうとしている、その程度のことを知るだけである。
機族の行っている非人道的な行為など、とても口にできるものではないのだ。
その内容を知ったとき、彼の自分を見る目がどのように変わってしまうのか?
あるいは、それは機族という名の国がやっていることであって、個人を責めることじゃないとでも言ってくれるだろうか?
(ううん、そんなことは関係ない……)
切なくなって、否定する。
(あたしがやったことを知ったら、それも……)
嫌なことを、思い出す。
想像するだけで、穏やかだった月光が、急に冷たく、刺すようなものに感じられた。
ふと彼女は、気配を感じて立ち止まった。
別段自分だけの庭ではないのだから、誰かが居ることもあり得たりはする。
しかしこの上層階で、庭園に勝手に立ち入ることのできる人間など限られていた。
花壇を埋めている高地に咲く花が、強風に煽られて散らされる。
「北の巫女姫」
まるで最初からそこにたたずんでいたかのようだった。
闇の中に潜んでいた彼女を、月の光が移動して、照らし出す。
月光を一部遮っていた雲が移動しただけだろう。だがその光の動きは、彼女のために移ったとしか思えない形のものであった。
アスカは、人とは思えない彼女の美しさに、感嘆の吐息を漏らした。
(確かに、記録のファーストチルドレンとは似ても似つかないけど)
この少女も十分に見目麗しいと口にされるだけのものがあった。
こんな幻想的な演出ですらも様になるのだから。
偶然、鉢合わせをした。アスカはそうは思わなかった。
彼女が人前に出ること自体が珍しいのだから。
実は、彼女が陳情を直に受けたことですらも、驚くべき話であったのだ。
カヲルが仲介したのか、それとも……とアスカは巫女姫の内心を探るように目を向ける。
「なんか用?」
彼女はわざとぶっきらぼうに尋ねてみた。
もっとも、それは巫女姫に向けた質問ではなかった。彼女に従っている神官少女に向かってのものであった。
そこには神殿で彼女の言葉を代弁していた女の子が居た。
アスカは蔑んだ目を向ける。
「マヤ」
それは責める口調であった。
そして親しくも、下級に存在しているものに対する声音であった。
「あんた、巫女姫の代弁者を気取るつもり?」
居丈高な態度に、少女は怯えたように萎縮する。
「そういうわけでは……」
じゃあとアスカは目を細めた。
「ならあのやり取りはなんなのよ? あいつがサードであるのかどうか、何者であるのかどうか、それを決めるのはあたしたちであって、あんたじゃないわ」
ですがと彼女は抗弁する。
「あの者たちは、この北の国の力を頼りに来た者たちです。素性も知れぬ者に対して、軽々しく後ろ盾を与えることなど」
素性って、と、呆れかえる。
「あの個体は、西の国のお姫様でしょう?」
「神の御許において人の段位などに意味はありません。全ては等しく人という存在であるが故に……」
「第十八使徒という名前の人類」
くだらないとアスカは言う。
「北の世界の称号なんか、くれてやればいいじゃない。そんなもの、なんの値打ちもないんだから」
彼女は巫女姫を見る。
まるで人の気配というものがない。そのことについても苦々しく思う。
(薬? ……そうなんでしょうね。ここまで先天的な異常を抱えてる生体を、子が産めるようになるまで生育しようと思ったら、薬漬けにでもしないと持たないわ)
彼女は「寒々しい庭ね」と、世間話のように感想を述べた。
「夜ですから……そう感じるのでは?」
「違うわ。ここには人の気配がないからよ」
見なさいと、顎をしゃくる。
「こういう庭園の存在意義って、癒しの効果にあるんじゃないの? なのにここは、こういうところには、こういったものがあるものだって、それだけの意味合いで整えられてるだけじゃない」
配置され、整備されているだけだと言っているのである。
改めて巫女姫を見る。
この北の国と、巫女姫という存在には、どのような意味があるのだろうかと考える。
機族の側は不干渉を宣言しているが、かといって、敵というほど強力な存在でもないのだ。
使徒を呼び出せること自体は驚異ではあるが、それも一体だけ、しかも不完全な形での話でしかない。
N2爆弾一発でことは終わってしまうだろう。
遺伝子的にもファーストチルドレンとは繋がらない。使徒を呼び出せるという点においては、本当の意味での突然変異体ではあるが、それならばそれはそれで回収目標としても良いはずであった。
この少女−マヤ−自体は機族に……とりわけセカンドチルドレンの遺伝子を持つ自分には従順で、あこがれさえ抱いているようであるのだから。
ふと……アスカは気になった。
あの少年、シンジには自分がどう見えているのだろうかと。
(あたしはセカンドの生き写しらしいけど……)
外見は生き写しであるらしいが、それは『彼女』の歳がいくつのときのことであるのだろうか?
そして内面においてはどうなのだろう? 今の自分は、彼が知っている『本物』とは、どれくらい重なっているのだろうか?
違っているのだろうかとは思わなかった、重なっている部分が気になってしまったのだ。
それは不思議な考え方で、アスカ自身は、そんなおかしな発想の仕方をしてしまったことには気付かなかった。
「あの者たちは……」
マヤの声が思考を遮る。
「あの少年を、サードチルドレンだと信じているようです」
剣呑な目つきで見る。
「それが?」
「信じるのですか? セカンドチルドレン」
セカンドの部分に強くアクセントが置かれていた。
アスカは反発する。
「アスカよ。あるいはセカンダリ。そう蔑視されてる存在」
「いいえ、あなたはセカンド。わたしたちにとっての神の子の一人」
「神の子!? じゃああんたの隣にいる子はなんなのよ!?」
「このかたは巫女なのです。ファースト……レイ様よりお力をいただいた」
「ファーストは使徒よ。人間じゃない」
はっ! っと笑った。
「あんたたちはファーストチルドレン……人間の祖となった使徒を信仰してるだけの集まりに過ぎないわ。そんな連中が生まれ変わりだなんだってアイドルを選び出して、なにをやってるっていうのよ!?」
それが何かと彼女はまったく動じなかった。
周知の事実に過ぎないからである。
「この方はファースト様より名をいただいただけの方に過ぎないかもしれません。ですが、だからこそ、その名を与えてくださった母なる方に報いるべく、こうして世の平和を願っておられるのです」
「薬で頭をやられて、思考力をなくして……いいえ、余計なことを考えないように奪っておいて、なにを」
「セカンド……アスカ様こそ、思考を止められておられるように見えますが?」
「なにが」
「シンジと名乗る少年についての話ですよ」
冷たい風が吹いた。
身を切るような風だった。
裾がはためき、アスカの足にまとわりつく。
「サードチルドレンを騙るなど、おこがましい」
「その考え方はおかしいわ」
自分こそおかしいなと思う。
何故彼をかばうような発言をしようとしているのかと。
「あいつは自分のことについては名乗っても、サードチルドレンだとは明言してないのよ?」
「名を口にするだけでも……」
「だけどね、この世界には、サードチルドレンの伝説や伝承はあっても、『碇シンジ』の名を冠したものは一つもないのよ?」
これは本当のことだった。
サードチルドレンという存在についてはおとぎ話においても語り継がれているが、その名前についてはまちまちで、本当の名前はどこにも出てこないのだ。
「知っているのはわたしたちのような特殊な立場にいる者たちだけよ。わかる? ネームバリューがない以上、名乗ったところで意味なんかないじゃない。サードではなくシンジって名乗る利点ってなんなの? 碇シンジ、その名前はあたしたちにとっては十分意味があるものだけど、野生種どもの間では意味をなさないものなのよ?」
「野生種ですか」
彼女は冷たい目を向ける。
「あなたもその中からの生まれでしょう?」
「はっ! 笑わせないでくれる? あたしはね、オリジナルの遺伝子から再生されたクローンなのよ! もっとも、劣化が限界に近くなってきているし、育成プログラムだって、オリジナルの何分の一を再現してくれているのか怪しいけどね」
「その大本が野生種と呼ばれる、『わたしたちと同じ』生まれではないのですか? と言っているんです」
「…………」
そんなことはどうでもいいと、彼女は話をそらした。
「碇シンジは、間違いなくサードチルドレンよ。そこで惚けてる子とは違ってね」
「根拠もなく断定されるのですか」
「なら、なんだっていうのよ? 機族の反システム派がクローンを作ったとでもいうわけ? いまさら遺伝子情報を見つけ出してさ!」
「わたしの知る話ではありません」
「ウソね」
「なにを……」
「マヤ……アカギ型のサポートタイプであるあんたがなんの情報も与えられていないはずがないじゃない」
人に聞かれてもいい。
そのつもりで、アスカは隠し事無しの会話を望んだ。
「北の巫女姫の生体調整のためだけに送り込まれてる個体が、神官なんて地位に上り詰めておいて、何もかもしらばっくれて、なにを考えてるの?」
神官の正体がそういうものでなければ、アスカの語る内容に付いてこられるはずがない。
(それはあいつも同じなのよね)
シンジのことである。
もし仮にサードチルドレンのクローンが作れたとしても、今度は記憶の焼き付けに関して問題が発生するのだ。
クローニング自体がありえることであったとしても、碇シンジ個人の記憶のバックアップなど存在していない。
(存在しないと、思いたいけど)
機族の土台となった旧世界の科学力を思えばありえるかもしれない。
その点で、彼女にも言い切れないという迷いはあったが、それでもクローンなどと言う単純なものではないことだけはわかっていた。
(あいつは、知識だけ植え付けられているような個体じゃない。ちゃんと自分の考えを持って行動してる。それも、ちゃんと十何年間、自分で体験して、経験して、学んできたような考えを持って)
確固たる自己というものを感じていた。
それは心の壁とも呼ばれるATフィールドを操ることを日常的に行っているアスカだからこそわかる感覚であった。
促成栽培の個体には、あれほどの自我など確立できるものではないのだと。
(フィフスも、だからこそ、魂の形とか、そういう言葉を使うんだろうけど)
マヤは迷うようにかぶりを振っていた。
「わたしにはわかりません」
「わからないって、なにがよ?」
「なぜ平然としていられるんですか? 当たり前に、前からの知り合いみたいに」
「別に親しいってつもりはないんだけど」
「でもサードチルドレンかも知れないんですよ? 機族が長年探し求めてきたものが、本物がそこに現れたかも知れなくて、でも、ただの偽者かも知れなくて」
「…………」
「だから、あなたは捕らえようとしていたんでしょう? あんな、殺し合いまがいのことまでやって、なのに、今はなにもしないで、はしゃいでるみたいに、笑い合って……」
「ああ、そんなこと……」
確かに、そういう意味では、自分たちは親しいのだろうなとアスカは思った。
「わからないのは、あんたが戦人じゃないからよ」
「戦闘型ではないから?」
「違う、イクサビトよ。あたしたちは憎しみあってるんじゃない。だから殺し合いをしてるんでもない。理由があって戦ってたの。戦人はね、利得のために争うのよ」
「損得で命の駆け引きをしていただけだっていうんですか?」
「そうよ。今だってそう。あいつは時間が欲しいから剣を納めてる。目的は騎士としての称号でしょう? あたしを倒すことじゃないの。あんたたちを口説き落とすことが目標なのよ。そのための余裕やゆとりが手に入るのなら、戦う必要なんて無いじゃない」
あたしだってと口にする。
「あたしだってそうよ。あいつの正体が知りたいの。あいつの目的や、これからの方針。なんだって良い。情報を引き出せるならなにも戦闘をする必要なんて無いわ。後でやっぱり……ってことになるかもしれないけど、今はそういう時間なのよ」
少しだけ間が空いたのは、少女神官──マヤがなにかを思考したからであり、アスカが彼女の判断を待ったからでもあった。
そしてマヤは口にする。
「なら……、わたしがあの者を知ろうとすることは、アスカ様の考えに沿うことになりますよね」
「……何をするつもりなのよ」
「試練を……」
月を見上げる。
「彼が本当にサードチルドレンなら、乗り越えられるはずです。人の科す試練なんて……」
(サードチルドレンだって、人間なのよ?)
全く論理的でない発想に顔をしかめる。
(まあ、あたしが相手をしていても、今以上の成果は上げられないだろうし、だったらここは傍観させて貰うのも手だけど)
やり過ぎないだろうか、それが心配なのだ。
どうもこの個体は、過剰な潔癖症であると感じられた。偽者であるかもしれないと言うだけで、存在を忌避するに十分値すると思い込んでいる。そう見られた。
とはいえ、この無反応な巫女姫が、サードチルドレンの力を目の当たりにしたとしても、それでもこのままであるのかどうか?
アスカとしても、それは興味のある問題であった。
彼女がフィフス、機族から一目置かれているその理由。
特に機族である。セカンドのトップセカンダリである自分にも伏されている北の国の機密。
サードが本気の姿をさらしてくれれば、そのあたりのことを目にできるかもしれなかった。
見ておきたい。そんな誘惑が働きもして、アスカは「やってみなさい」と許可を与えた。
「眠れない……」
緊張しているわけではない。
「ベッドが……堅すぎるんだ」
ベッドというのもおこがましい。
土塊を固めた上に布一枚敷いているだけなんじゃないか? そう思えるほどの酷さだった。
「これならまだサーバインのコクピットの方が……」
控えめなノックが聞こえ、シンジは首だけを扉に向けた。
起きているかどうかを確認する。その程度の音だった。
シンジは起き上がると、「誰?」と口にして、そのままベッドから降りようとした。
「っと、靴」
上半身をかがめ、スニーカーを拾い集めようとする。丸めた背中の上を滑るように何かがかすめて、背後の壁に突き刺さった。
「え?」
扉が勢いよく打ち破られた。
「ええ!?」
トゲ付きの鉄球が振り下ろされる。
モーニングスター。鉄の柄に鎖で鉄球を取り付けた武器で、それはシンジが遊んでいたゲームでもおなじみの兵器であった。
「なにを!?」
脱ぎ散らかしていたジャケットを掴み、振るい、鉄球をくるむように払い落とす。
そのまま立ち上がって、襲撃者の腹部に拳を打ち込んだ。
「うわ!?」
だが漫画のようには、一撃で相手を昏倒させることなどできなかった。
急所を狙うような技術がないからである。
「この!」
《All right.》
小部屋が閃光で満たされる。
きゃあっと、襲撃者が悲鳴を上げた。それはフード付きのローブで身を隠した少女だった。
神殿に使える巫女の一人だ。
「なんなんだよ!?」
慌てて靴を履き、ジャケットを羽織る。
扉には穴が開き、壁には矢が突き刺さっていた。
「二段仕込みで襲ってくれて……あ、くそ、銃が」
サーバインの中だと思い出すが、間に合わない。
まぶたを押さえて悶絶している少女を見下ろす。
通常は収束して放つビームを、人体に影響が出ない程度に拡散して放射することで、視力を奪うためのフラッシュに変えたのだが、どうやらきつすぎたようであった。
さらには光は眩しすぎて、部屋の外、廊下を端まで照らし出し、彼女の仲間に襲撃の失敗を知らせることになったらしい。
部屋を飛び出すと、剣と盾を構えた集団が通路を埋めていた。
「……逃げ場無しか」
「どういうことだ!」
人一人がやっと通れる細さの階段の上、シグナムは襲撃者を蹴り落とした。
登ってきている他の神官戦士が巻き込まれ、一緒になって転がり落ちていった。
テッサが上階の踊り場から叫ぶ。
「シグナム!」
シグナムは叫び返した。
「テスタロッサは姫を!」
「はい!」
姫様と手を取って、階段を上り、通路へと消える。
そんなシグナムの背後で、カヲルが段に腰掛けていた。
のんきに膝の上に頬杖を突いている。
「どうやら本気で君たちをどうこうというつもりはないようだねぇ」
「あなたがいるからではないのか!?」
「いいや。どうやら君たちをシンジ君から分断しておくことが目的のようだね」
「あからさまに離れたところに部屋が用意されていると思っていたら、こういうことだったのか!」
「それはどうかな……単にシンジ君のことを気にくわない誰かがいただけかも知れないよ」
それで一人だけ粗末な部屋に押し込まれたのではないかというのだ。
「サードチルドレンなんだろう!?」
「それは僕がそう伝えただけだからねぇ……傍目には、ただの人間、凡庸な少年としか見えないわけだから」
最後の一人を蹴り落とし、シグナムはようやく一息吐いた。
「非才であるとは、言っていたがな、自分でも」
「実際、そうだろうね……彼は慣れながら、乗り越えただけの人間で、それ以上でも以下でもない」
君や僕とは違うと語る。
「特別の要素や素質、資質すらない。でも」
「あいつは、ここにいる」
そうだとカヲルはにやけた顔をして頷いた。
「不思議な話だよ。ただの平凡な子供であったはずなのに、なにをどうすればこんなところに行き着くことになってしまうのか」
あるいはと彼は思う。
「惚れられたのが運の尽き、なのかな?」
シグナムは叫んでしまっていた。
「誰にだ!」
「運命かな?」
シグナムは、わずかにだが絶句した。
「勝手な言いぐさだな!」
「僕が彼をチルドレンにしたわけじゃないからねぇ」
まあ、僕も興味があるんだと、彼は腰を上げない。
「質問があるんだよ」
「なんだ! 今忙しいんだが!?」
「君とやり合ったとき、シンジ君は僕の知らない力を振るっていた。さっき言ったとおり、彼はただの人間であるはずなのに……」
ぎょっとする。
「見ていたのか!?」
「シンジ君には、僕は最後まで見ていないという振りをしておいたけどね……」
知りたいと彼は言う。
「僕の知らないところで、知らない彼に変わってしまったのか、あるいは本当に別人なのか……彼が僕の恋したシンジ君のままであるのかどうか、確かめておきたいんだよ、今のうちにね……」
そう告げて、彼は憂いのある表情をして見せたのであった。