地平線を背に夜空へと上っていく人影がある。
 強風に対し、緩やかに髪をなびかせ、渚カヲルは、神殿に取り付く岩の巨人を見下ろしていた。
 彼の腕の中には巫女姫が居る。腰と膝の裏に腕を回され、横抱きにされた状態で、彼女は崩壊していく我が城の様子を眺めていた。
 巨人の姿は、まるで山の肌がうごめき、削られた体を覆い直そうとしているかのようであった。
 這うような、鈍重な動き方である。
 神殿は北の国、神国の象徴でもある。
 それが怪物に冒され、破壊されていく。
 それでもなお、少女の瞳が揺らぐことはなかった。
 彼女にとってはさほど意味のある象徴ではないのだろう。
 二つの月を背に地の騒ぎを睥睨し、渚カヲルは口にする。
「君は、何を持って、証明してくれるのかな」
 銀色に見える二人の髪が風に揺れる。
 待っているものは、同じであった。


 花園が踏み抜かれ花が散る。
 つかまれた壁が支柱ごと押しつぶされて、建物内部へと穴を開ける。
 棚に膝を乗せ、塔には指をかけ、巨人は神殿の外壁をよじ上る。
 水路を潰され、噴きだした山水が巨人を直撃し、しぶきをまき散らす滝となる。
 その体は岩でできた鎧によって覆われていた。
 板や、駒のように加工された岩塊が、目に見えない力によって繋がれて、巨人の姿を一つの塔のように見せかけている。
 神殿の最上階へ達し、小山のような巨人は、背筋を伸ばして体を起こした。
 空中庭園が踏み抜かれる。
 足場を失い、巨人は壁面を滑り落ちた。
 轟音を発し、神殿は崩壊する。
 巨人が滑り落ちた跡は、えぐり取られたような傷となっていた。その深みに向かって、構造物全体が歪み、傾いでいく。
 ずり落ちながら、巨人は、咆吼をあげた。
 金色の月に向かって、四肢を張って伸び上がる。
 大気をふるわせる咆吼に、カヲルはより微笑を深めた。
 その声の先には、燐光を羽根より舞い散らす、奇怪な妖精の姿があった。
 虹色の航跡を引いて天に上がり、羽を広げるのはサーバインであった。


 神殿の中は、止まない微震に襲われていた。
 石材のきしむ音がやまず、耳がおかしくなってきている。
 ドンッと、ひびの入っている壁に、アスカは彼女を押し当てた。
 胸ぐらを掴み上げ、顔を近くし、詰問する。
「あんたは一体、なにを呼んだの!?」
 神殿の通路の一角である。すでに他の少女たちは逃げ出していた。
 神殿内部は酷い有様となっていた。
 巨人が降落する際に起こした激震によって、建物が連鎖的な崩壊を起こしたのだ。
 天井をなす岩の一つでも、直撃すれば死に至るような大きさである。
 ものによっては、原型も残らぬ酷さで、押し潰されることだろう。
 大きな震動は収まったようだが、それでも巨人が動くときに起こしているものであろう微震が続いている。その揺れだけでも倒壊を誘発するには十分なものであった。
 マヤは必死になって訴えた。
「わたしは……わたしは、使命を!」
「そんなことを聞いてんじゃないの! なにを、呼んだのかって、聞いてるのよ!」
 マヤはぶるぶると震え、ぎゅっと目と口を閉じてしまった。
 話にならないと、アスカは彼女を突き放した。
「そうよ……使命を……」
 まだなにかぶつぶつと言っているようだったが、正気ではないと、アスカは彼女のことを意識から切り離した。
 放り出し、首を巡らし、どちらの道が外に続いていそうかと考え、駆け出した。
 できれば自分の機体が格納されている倉庫へと向かいたかったが、通路が見つからない。
「機族が北の国に手を出さずにいた理由って、これなの? でも」
 巫女姫でなくとも呼び出せる使徒がいた? あるいはと思う。
「エヴァ?」
 考える。
 人型で、あの大きさで……と。
 エヴァンゲリオンは、確かに失われた使徒関連技術(ロストテクノロジー)としては最たるものだが、だからと言って、機族が北の国へと手出しを控えている理由としては弱いものであった。
 エヴァンゲリオンは科学的に制御されている兵器である。ゆえに、攻略方法は幾多も存在しているからだ。
 テクノロジーの幾つかは今も残され、管理され、その内の幾つかはスモールへと踏襲されていた。さすがにもう、今の機族には、エヴァンゲリオンほど巨大なものを新規に製造する技術力、科学力は残されていないが、それでも中隊規模のスモール隊が出撃すれば、十分対抗できるだけの分析情報が確保されている。
 目の前に、崩れようとする壁に押しつぶされかけている少女を見つけた。
「危ない!」
 アスカは体当たりで突き飛ばし、一緒になって転がった。
 がらがらと崩れた壁が山を築き、道を戻れなくする。
「あ、あう……」
 恐怖にへたりこみ、怯える少女に対し、アスカはその両肩を掴んで叫んだ。
「山の奥へ逃げなさい 崩れ落ちるとしても、神殿の表側だけよ! 奥に逃げ込んでいれば後でいくらでも掘り出してあげられるから!」
 良いわねと頬を張る。その痛みに正気が戻ったのか、少女はこくこくと頷いた。
 こんな約束、してもいいのかと思いながら、少女の背を押し、駆け出させる。
 アスカも立ち上がった。
(でも、あたしはセカンドチルドレンなのよ!)
 偽者でも、コピーでも……と。
 この神殿の者たちは、自分のことをチルドレンの生まれ変わりだとして崇めてくれている。そのような畏敬と憧憬の混ざり合った視線を向けてくれている。だから。
(裏切れない!)
 偽者でしかない自分のことを、知っていながら慕ってくれている子たちのことをと、アスカは思い、そして……。
 瞬間、なら、あの子はどうなのだろうかと、アスカは姫巫女のことを思ってしまった。
 彼女はチルドレンの血脈ですらない──。


 追い求める巨人の叫びを振り払うように、黒き月へと舞い上がるサーバインの姿があった。
 高いところで、羽根を広げる。バッと広がった燐光が、月を丸く象った。
 眼下に見える巨人の姿は、単純に大きいという印象しか持てなかった。
 サーバインと比べるならば、十倍近い差があった。


「あいつ……」
 キャノピーがないために、風圧にさらわれてしまわないようにするのが大変だった。
 シンジは必死になって踏ん張っていた。
 股ぐらには小さなアスカがすっぽりと収まっている。そのアスカを挟み込んで、テッサが腹にしがみつき、アスカのためのベルト代わりになってくれていた。
 アスカの足は、テッサの腰に巻き付いている。
 最後にシグナムが外を向いて、テッサの背を尻で押す形で、扉となって四肢を踏ん張ってくれていた。
 一応、最後の防壁として、腹の前でサーバインの手を組み合わせている。
「こっちを見ているな」
 その指の隙間からのぞける姿に、シグナムが指摘を入れる。
 シンジはそうだねと頷いた。
「人型の使徒? ……でも」
 なんだろうと思う。
 とてつもなく嫌な予感がした。
 それは怪物の目を見てしまったからかもしれなかった。
(使徒は、あんな風に、生き物みたいな目なんてしてなくて……)
 むしろそのような目を持っている、生物的な巨人と言えば……。
 目の端に、何かが引っかかって見えた。夜空に浮かぶ灰色の雲の流れに従わないものがいる。
 人影だと気付く。その途端、なぜだか口元の笑みまで見えた。
(状況を楽しんで!)
 カヲルに向かって呪詛を吐く。
 巫女姫を腕に抱いて静観を決め込んでいるカヲルの姿は、他人事だと余裕を見せているように感じられて、苛つかされる。
(でも、カヲル君はあんなものだ……)
 ドグマでのことが思い出される。あの時もそうだったと。
 あのときも、彼はああして見ているだけだった。こちらのことを思いながら、観察していた。
 戦い合う自分のことを、何かに利用して、放置して。
 今もカヲルの態度からは、なにを考えているのか読むことができない。
 逃げましょうという、テッサの提案が耳に入る。
 アスカの後頭部の向こうに、見上げてきているテッサの顔があった。
「もう、騎士としての資格だとか、そういうことをお願いできる状況じゃありません」
 シグナムが同意する。
「そうだな。向こうは飛べるわけじゃなさそうだし……」
 シグナムも賛成ならと、シンジは退却を決めた。しかし、テッサの両脇の下辺りを掴んで、ぐいっと二人の狭間から首を出したアスカの言葉に、シンジは戦慄した。
「でも、翼みたいなのが……」
「なんだって!?」
 背中の平らな岩がつなげられている鎧の下から、禍々しい黒い肉が這い出していた。
 羽根と呼ぶにはあまりにもぶよぶよとしていた。外側は白く、内側が黒い。
「あれは……」
 見たことがあると記憶を探る。
 そして大きく開かれたとき、最悪の解答へとたどり着いた。
「量産機の羽根!?」
 まさかと思う。
 ばさりと、それは羽ばたいた。
「使徒じゃない! エヴァなのか!?」
 カヲルを見る。
 彼は先ほどよりも遠ざかっていた。
 明らかに戦闘に巻き込まれないようにするための退避行動であった。
(知っていたって言うわけか!)
 巨人を呼んだのは巫女姫ではなく、機族から送り込まれている少女であった。
 使徒は巫女姫でなければ呼び出せない。ならば、だからエヴァなのかと、シンジは裏のことを勘ぐった。


 ばさりと翼を羽ばたかせる。
 しかし一度の羽ばたきでは、発生させた浮力が足りないのか、岩の鎧が重すぎるのか、巨人はぐらりと傾いた。
 その無様な姿に、シグナムは唸る。
「あんなものが、エヴァンゲリオンなのか? 伝説の騎士? あんなものが」
 ばさばさと、慌てたように翼を動かし、バランスを取る。
 付着していた土砂をばらばらと落としつつ、塔の巨人は徐々に安定して浮かび上がった。
 最初はゆっくりと、だが徐々に速度を上げて……。
「来る!」
 ばさりと。
 大きく翼を打った直後、上昇スピードが跳ね上がった。
 勢いに乗って、サーバインの真下から迫る。
 遠く、小さかった姿が、あっという間に岩の鎧を成している岩塊のおうとつが見えるほどにまで近寄った。
「くそ!」
 機体を捻り、接触をかわす。
 すれ違う。巨人の肩から腕を添うように流れ、腰、足、ふくらはぎのあたりでようやく距離を取るように後退して離れることができた。
 ゴウッと音がして、突風が過ぎる。
 巨人の過ぎ去った後を追うような風に吸い上げられる。
 ついでに、理力甲冑騎の中身もさらわれそうになった。
 シグナムが悲鳴を上げる。
「くぁあああああ!」
「シグナムっ、耐えて!」
 乱された気圧に、一緒くたに吸い出されそうになってしまう。
 慌ててサーバインの手で腹にふたをするが、隙間が多すぎた。
 シグナムが全身を突っ張って、全員分の体重を負った。
 姿勢制御を行いつつ、どうするべきかとシンジは迷った。
 ハッチがないために、下手な真似ができないのだ。
 今の交差も、本来の速度であれば、傍観できる距離を保つことが可能だった。だが急な挙動や、制動は、遠心力や反動によって、同乗者たちを放り出してしまうことになりかねなかった。
 このままでは速度が出せない。自分やシグナムはともかくと、空を飛べない同乗者たちのことを考え、硬直してしまっていた。
(どうすれば!)
 八方ふさがりという言葉を知る。


 そんな様子を、アスカが苦々しい顔をして見上げていた。
 結局ふさがっていない通路が見つからなかったために、崩れた壁の隙間から、なんとか外が見える場所へと抜け出していた。
 抜ける際に胸がつかえたのか、やけにそこだけ汚れていた。
 その場所は、元は天井と壁があった通路なのだろうが、巨人が外壁を崩してくれたおかげで、今はテラスのように変貌してしまっていた。
 ふと人の気配に気付く。近い場所に同じような張り出しができていて、そこに似たような格好でいる女の子がいた。マヤであった。
 彼女は、彼女が懸想してきた幻想のサードチルドレンを汚されたことに憤慨し、顔を憤怒にゆがめていた。
「これで、良いのよ……これで」
 ぶつぶつと何事かを呟いているようであったが、距離があるためにアスカにはわからなかった。
 ただ、その様子が、人として壊れかけているように思えて、アスカは見ていられないと顔を背けた。
 再び空を見上げる。そしてこぼした。
「あんたが本物なら、その力、見せてやってよ」
 そうすれば、と。
 アスカはかぶりを振って、なんで……と口にした。
「見せて欲しいのは……あたし?」
 サーバインの姿を追う。
「信じたいの? あたしは」


 ただ上昇してきただけのものとすれ違う。
 しかしそれによって発生する気流は凶器そのものだった。
 乱流にもまれて振り回される。下手に下を向けば誰かを落としてしまいそうになる。
 安定させるためには、なるべく正面を向く形での加速しか無く、それでは追いかけてくる巨人の手をかわすことも難しかった。
「くそ!」
 皆の負担にならないように左へ進路をずらす。右側の視界を巨人の石柱のような太い指が上から下へとかすめて消えた。
 シンジはシグナムへ頼んだ。
「なにか……なにかないの? 魔法は!」
「しかし……こんな状況を」
「みんなが外に飛びさないようにしてくれれば良いんだ!」
「防御魔法……いや、防御魔法を反転して、正面にかけるか。それで落ちそうになっても、中に跳ね返される……」
「それでいい、やって!」
「いや、やっぱりだめだ」
「なんでさ!?」
「受ける反動が強すぎて、この中を跳ね回ることになりかねない……」
 それはここに来るまでの間、さんざん苦労してきた問題でもあった。


 無様な追いかけっこが繰り広げられている。
 しかし徐々に巨人の手が理力甲冑騎へと伸ばされる間隔が短くなってきていた。それだけ背後に張り付いている時間が長くなり、引き離される距離が短くなってきていると言うことであった。
 カヲルが天を見上げる。
 黒い月がそこにある。
「この状況にあってなお、それでも呼ばずにいるつもりなのかい」
 そして。
「君は、彼が死ぬのを、ただ見ているだけのつもりなのかい?」
 腕の中の少女が身じろぎをする。
「助けないのかい? それとも……信じてる?」


「なんだか昨日も、似たようなことをしてた気がするな!」
「奇遇だな! だがそうなると、学習能力がないという話になるぞ!」
「どうしてそうのんきなんですか!」
「来るよ!」
 追われ、追いつかれ、サーバインは振り返り、両腕を前に交差する。
 そして跳ねとばされたが、きりもみすることもなく、ただ空中をフィールドの繭にくるまったまま、まぬがれて舞っただけとなった。
 この辺り、ダナンとの経験が生きていた。
 しかしがたがたと不安な音が聞こえ始める。
「なんだよ、この音……」
 アスカが不安げに口にする。
「後ろから聞こえる」
 テッサが悲鳴を発した。
「コンバーターがもげかけてるの!?」
 巨人が神殿の格納庫から手を引き抜く際、その動きに合わせてかなり無茶な挙動で外へと飛び出していた。
 崩れ落ちた瓦礫を山のように機体の背部で受け止めていた。その時に、連結部にでも破片を食らっていたのかもしれない。
 シグナムが青ざめる。
「コンバーターがなくなれば、理力甲冑騎は……」
「動けません!」
 シンジはぎゅっと唇を噛んだ。
 あまりにつよく噛んだために、口の端が上がって、まるで笑っているかのような形になる。
「し、シンジさん?」
 そんなシンジを真正面から見ることになって、テッサはうろたえた。
 ふ、っふふと、シンジは本当に笑い出した。
「本当に……なんでこう、さ」
「やれるのか?」
 シグナムの問いかけに、やるだけだよと答える。
 サーバインを後ろ向きに上昇させる。
 渚カヲルとすれ違う。
 おや? という顔をカヲルがする。サーバインのコクピットから、人影が三つ、落とされた。
「おやおや……」
 内の一人、シグナムがまず宙に制止して、それから二人を抱き留めた。
 三人は、偶然にもカヲルの側を通過する。
 彼女たちは巨人を挑発するかのようにゆらゆらと舞うサーバインへ向かって、怒鳴り声を発した。
「シンジー!」
 サーバインは、遠ざかる。


 考えがあるからと言って、三人に姿勢を直すよう促し、シンジは彼女たちが腰を浮かせ不安定な体勢を取ったところを狙い澄ました。
 機体を振り回して遠心力により彼女たちを外へと捨てる。それから加速によってかかる荷重をベルト代わりに体を固定し、シンジは強くレバーを握りしめた。
 風は強くなるが、これはサーバインの両手を重ね合わせ、コクピットの前に置くことで避けた。
 徐々に軌道を水平から垂直へと変更していく。
 みんなの声は聞こえていた。
 目をつむり、彼は誓う。
「大丈夫、守るって言った。だから守るし、生きて帰るよ」
 けれど、無事に済むかはわからない。
「今は、狙われてるのは、僕なんだ……だから」
 内なる声が、後押しをする。
《Without becoming uneasy. I defend you.》
 苦笑する。
「そうだね……頼むよ」
《Yes, it has understood. My dear person.》
「照れるね!」
 そういや、名前、未だに決めかねていたなと思い当たったが、シンジは後回しにすることにした。
 今決めるのは、死にに行くための整理を行うようで嫌だったからだ。
「行こう!」
 サーバインの首を上げ、体を真っ直ぐに手足を揃える。
 羽根も広げず、閉じ気味にして後ろに流す。そしてオーラエンジンを全開に、コンバーターからオーラ光を盛大に吹き出す。
 ……どこか壊れたのか、光の漏れ方がいびつだった。
 まるで最後であるかのように、ただの爆発であるかのように、放出された燐光が空に広がる。
 巨人がその光に一瞬サーバインを見失った。
 シンジは自らがまき散らした光の粒子の中へと入り込んでいた。
 その光る霧を突き破り、サーバインが飛び出した。
 サーバインは胸の前に剣の柄を持ち、刃を胸に沿うようにして、顎から頭のてっぺんへと支持し、固めていた。
「狙いは一点!」
 ダミープラグ!
 上昇した以上の速度で降下する。
 巨人が気付き、バリアを展開する。
 空に金色の天幕が広がった。
 八角形の波が、襲いかかっている衝撃の流れを現すように、中心から外側へと、幾重にも発生して広がっていく。
 二機はまるで力比べをするように空中で制止し、拮抗する。
 切っ先が通らない。
 突っ込んだ姿勢のまま、徐々にコンバーターの出力だけを上げていく。
「う、あ……」
 がたつく音が酷くなる。しかし気にしてもいられない。
 シンジがぐぐっと身を小さく丸めて力を溜めた。
「あああ、あああああ、ああああああ!」
 そして少しずつ、操縦桿を折る強さで、押していく。
「あああああ!」
 理力甲冑騎がシンジに答え、その口から声を漏らす。
 ──フォオオオ!
 巨人──エヴァンゲリオンの発生させているATフィールにくぼみが生じる。
 サーバインの剣が押し込み始める。
 ──あああああ!
 ──フォオオオォォォン!
 シンジとサーバインの咆吼が重なったとき、ATフィールドの放つ干渉光が、夜空に獣の影を描き出す。
 それはサーバインとは違う形を……。
 一本角の鬼の姿を……エヴァンゲリオン初号機の形を象っていた。

[BACK] [TOP] [NEXT]