理力甲冑騎の剣は斬るものではない。刃物の形をしたただの鈍器だ。
ベルフィールド卿はさすがにそのことをよくわかっていて、甲冑の腕力を生かし、右腕一本で振り上げ、打ち下ろし、サーバインの盾にたたきつけ、地に切っ先が触れる前に、今度は逆袈裟にと振り回す。
重い一撃に、肩の盾で身を守り、サーバインは縮こまるようになってしまっていた。
追い込まれていく。
マナが、なってないとばかりに批判した。
「なによあいつ、危ないじゃない!」
理力甲冑騎のような巨体同士の戦闘では、どの辺りまで離れれば安全という話はない。
だからマナは、とにかく自分の神像にと、向かって逃げていた。
肩越しの光景に対し毒づく。
「負けるんじゃないの!?」
「それはないな」
シグナムが飛んできた岩のような石を、魔力障壁によって弾き飛ばした。
「シンジは機族ともやりあった男だ。その気になればどうとでもできるだけの実力がある」
マナは思わず立ち止まってしまった。
「機族と!?」
「ああ。それでも生きてる。生き残っている」
だがと苦々しく口にする。
「あいつには致命的な弱点があるからな……」
「不安になる言い方なんだけど」
「人を殺せないんだ」
マナは唖然とした。
「そんな甘いことを言ってられる相手じゃ!」
「ないと思うのなら、言いに行ってみろ。あの戦いの中にな」
くいっと、親指で背後を指し示す。
そこでは人が放つ早さをそのままスケールアップしたかのような勢いで振るわれる剣戟があった。
生身同士の戦いの時ですら割り込めなかったのである。甲冑同士の戦闘となればなおさらのことであった。
シグナムは言う。
「あいつは、勝つためでも勝ち取るためでもなくて、守るためにしか戦えない。そういう類の人間なんだよ」
シグナムの指摘を、ベルフィールド卿は戦いの中で感じ取っていた。
攻撃をやめ、距離を取る。自身の剣戟が通じていないことはわかった。だがそれならばなぜ反撃が来ないのか?
「なめとんのか? いや」
ベルフィールド卿は、そういうことかと思い至った。
そしてそれは正解であった。
「戦い方がわからんっちゅうわけか」
どうすればこの場を治めることができるのか?
それを考えているから、戦い方に積極性が見られないのだ。
卿はくふっと吹き出し、次いでげたげたと笑い始めた。
正面ハッチを開けて、大声でシンジをあざけった。
「お前、人を殺したことは!」
同じくシンジもハッチを開く。
「あるよ!」
「そやけど、俺は殺せん、殺しはしたない、っちゅうわけか!」
あざけりの言葉に、シンジはつい応じてしまった。
「いけないのかよ! 人を殺すなんて、嫌なんだよ!」
だからと。
「殺し合いをする必要が無いのなら、無いかもしれないって、思っちゃいけないのかよ!」
卿は後ろ手に、開いているハッチを叩いた。
「お前が乗っとるそれは、人を殺すためのもんやないんか!」
違うとシンジは叫ぶ。
「人を殺すのは人だ! 道具でも乗り物でもない! それにっ」
「わかっとるやないか!」
シンジの言葉を遮って、にやりとして卿は言う。
「人殺しもなんもかんも手段に過ぎん! 俺にはこうする、こうせなならん理由がある! お前には、それがないっちゅうことやな! そやから格好を気にするんや!」
「そんな理屈!」
「そやったら、なりふり構わずに来んかい!」
両者は同時にシートに戻ってハッチを閉じた。
機体に剣を構えさせてにらみ合う。
今度はシンジも引かずに前に出た。
鈍器をぶつけ合い、さらに押し合い、コンバーターと羽を展開し、ブースターを全開にする。
「うわぁあああああ!」
「うぉおおおおおお!」
巨大な爆発と見まがう衝撃波が地上を舐め、席巻した。
これに煽られ、マナの神像がぐらりと傾き出した。鎮座している状態では、巨大な建造物でしかない。ゆっくりと倒れていく。
緊急起動した一騎が、マニュピレーターを展開した。真横から手が生えるように解放されて、将棋倒しになるのを恐れて僚機を支える。
しかしマナには倒れそうになっている愛機を思う暇がなかった。
仲間に救われている機体のことなど片隅にも思い浮かべずに、背を向けたまま空を仰いで悲鳴を上げた。
「なによ、あれは!」
サーバインとズワウス、空に上った両騎のコンバーターから吹き出すオーラ光が、絡み合って天へ昇り、あるいは地に降って来ていた。まるで二重螺旋の竜巻だった。
天と地を繋ぐオーラの渦の中心から、理力甲冑騎が飛び出した。
螺旋の回転力のままに放り出されたが、互いにその勢いを殺さぬよう加速に乗って衝突する。
互いに剣を振り抜いた。衝突の爆発が竜巻を破壊する。
空の雲と地の森とが、円を、球を描いてえぐり取られ、消え去った。
刃と刃がつばぜり合う。その間からもオーラの衝突光が夜空に弾け、漏れ広がる。
空に、げたげたという、気が狂ったような笑い声が響き渡った。
それはベルフィールド卿の嬌声だった。
彼の本音が、誰も彼もの耳を穢した。
「俺は勝つ! 勝って、なにもかも手に入れるんや!」
それこそが生き甲斐だという叫びだった。
シンジはなにが彼をそこまで駆り立てているのか理解できず、気迫に押され気味になっていった。
「なんでっ、そこまで!」
シンジだけではなく、ベルフィールド卿の乗る機体のハッチ裏にも、相手の様子が映し出されていた。言葉もだ。
その文字は、目を通し、直接に脳で、音のある言語として、再生されていた。
つまり、テレパシーであった。
故に、ごまかしなく、生の感情が、互いの間で通じ合っていた。
「俺らは戦でしか身を立てられん! そういう生き物や!」
「だからって、常に身を置くことはないでしょう!?」
ベルフィールドは怒る。
「自分の命や! どこに持って行こうが勝手や!」
「奪うのは他人の命だろ!」
「命を賭けられん奴が、戦場に出て来るなぁっ!」
それは直接的な場のことだけを言っているのではなかった。
貴族、王族、命を駒として扱う者たち、全ての者たちのことを指していた。
「そやのにお貴族様の連中は、金にならんとなると、自分らの都合だけで手を引きおった!」
なんのこと……そう言いかけて、シンジはもしかしてと感づいた。
そしてそれは正解であった。
「あなたは……知ってるんだ、アスカ様が狙われてるってことを……アスカが誰に狙われてるのかって事を!」
そして……。
「アスカがっ、狙われるって事を知ってて、見過ごしたのかぁっ!」
怒りが剣に力を生む。
サーバインはズワウスを押し返し、両騎は一旦距離を置いた。
ズワウスが血糊を払うように剣を振る。
そして口から息を吐いた……口元は嫌らしく笑っているようだった。
──理力甲冑騎の頭は飾り物であるはずなのに、まるでサーバインのようであった。
「なんでっ」
怒りに震える。言葉が出ない。
アスカが「シンジ……」と、不安げに彼の腕に手を添える。
背後のシンジを振り仰ぐ。
その行為をシンジは誤解した。
嘆き悲しんでいるのだと、間違って解釈をしたのだ。
喚き散らした。
「アスカは、泣いてたんだぞ!」
シンジの憤りを吐き出すように、サーバインが吼えた。
「こんな小さい子が、自分がいなくなればってっ、諦めてたんだぞ!」
存分に吼えたサーバインが顔をズワウスへと向け、睨み付ける。
剣の柄を両手で握り、右脇に持ち上げて引き、その切っ先をズワウスへと向けた。
「それが大人のやる事か!」
両肩のバインダーからオーラ光を爆出させて、サーバインが突進する。
ズワウスはこの剣を、自らの持つ大刀で滑らせるように反らし、流した。
ズワウスの脇をサーバインが通り抜け、勢いのままに大きく距離を開いた。
「戦場に大人も子供もあるかぁ!」
勢いのままに流れていくサーバインの姿を追って、ズワウスは背後へ振り向く。
「人を憎む前にっ、生まれを呪えや!」
「なにを!」
加速のままに、円を描いて、サーバインはズワウスの周囲を回る。
徐々にその軌道半径を縮めながら。
「王族……貴族は、生まれたときから生きるか死ぬかや!」
「極端なんだよ!」
再びの接近。
今度はぶつかる直前に、サーバインは剣を振り上げた。
「アスカはっ!」
「姫さんをっ!」
断ち降ろされる剣、水平に払われる大刀。
ぶつかり合った剣が弾き合う。
だが位置を入れ替えながらも、一合、二合と、両者は剣を振るうことをやめない。
「渡さない!」
「渡してもらうでぇっ!」
ズワウスの膂力が勝り、サーバインは剣を持つ手首を妙な具合に曲げられ、力を込み切れなかった。
力任せに、ズワウスはさらに強く剣で叩いた。
これをサーバインは左肩の盾で受けたが、その衝撃は盾ごしでもすさまじく、低空へと追いやられてしまった。
「死ねや!」
ズワウスの左腕でもある、一体化している盾の先から炎が発せられた。
火の固まりはサーバインを襲うが、シンジによる姿勢制御が上回った。
直撃する前に体を仰向けからうつぶせに回し、そのまま加速して難を逃れる。
この挙動は、コンバーターがバインダーとして両肩に装備されたことから可能となった挙動であった。
姿勢制御のための噴射方向について、フレキシブルさが格段に向上したのである。
バインダーの先端部が激しく発光し、燐光をレーザーのように発振している。
そして、たまったものではないのは、地上で逃げまどっている進駐軍であった。
ズワウスの放った炎はナパームそのものだった。地を舐めるようにして火の波が広がっていった。
「味方まで……」
ハッチの下、足下の世界に、逃げまどう人たちの姿があった。
炎に飲まれ、身もだえしながら倒れ、消えていく。
シンジは顎を上げて空に向かって叫んだ。
「お構いなしなのかよ!」
「それがわしらの生業や!」
ズワウスが追いすがる。
上空、背後を取って、炎の固まりを連続で撃つ。
「生き残ったもんだけがついて来たらええ! マヌケはいらんのや!」
「勝手なことを!」
「それが戦人っちゅうもんや! この程度のことで生き残れんような勘の鈍い奴は、最初から戦に出てくることが間違っとるんや!」
シンジはキレた。
「だったら!」
瞬間、サーバインの姿がぶれた。
虹色に、七色の輪郭だけが残されて、消える。
「なっ!?」
オーラの残影が消える。そこにサーバインの姿は無い。
次の瞬間、ベルフィールドは、真下から、真っ正面に、黒い影に襲われた。
下から襲い来て、視界を埋めた黒い影。そこには禍々しい目があった。
のぞき込まれ、睨まれた。と、本能的な恐れに見舞われた次には、ズワウスはその闇に囚われていた。
飲み込まれていた。
「なんや、これは!?」
ベルフィールドは焦った。全周囲が闇に閉ざされてしまったからだ。だがその闇には粘りけがあって、ズワウスが腕を振るい、身を捻ると、その動きを阻害するかのようにまとわりついて、動きを封じた。
「ぬっ、うあ!」
さらにガガンと衝撃が走る。振り回されるような荷重にコクピットの中をはね回り、額を割った。
地上で見ていた者たちは、ベルフィールド卿を襲う異変に恐怖した。
「理力甲冑騎のコンバーターが……暴走しているのか?」
一瞬だった。
低空へと瞬間移動したサーバインが、直角以上に軌道を変更し、上空にいたズワウスとすれ違って直上を取った。
サーバインのオーラコンバーターからは真っ赤な光が吹き出していた。それは密度が濃く、まるでどす黒い血の色にも見えた。
ベルフィールド卿が視界を失った原因はこれであった。
サーバインがすれ違い様に残したオーラの噴煙に包まれてしまったためである。
あげく、その霧は、意志を持つように、まるで手のようにズワウスをつかみ、霧の中から出ることを許さなかった。
指のような濃淡を作って、ズワウスの肩を、腰を、ひっつかんでいる。
「この!」
ズワウスが吼える。オーラの霧が振り払われる。
ズワウスの視界に、夜空が戻る。
だがそこにはサーバインが待っていて、竜は腕を振り上げていた。
サーバインがその爪を振り下ろす。
不可視の衝撃がズワウスを襲った。
左肩から胸元へと、かぎ爪の跡を刻まれて、ズワウスは地上へとたたきつけられた。
「ぐぁ!」
そしてそこは、ズワウスが、ベルフィールド卿自身が生み出した炎の地獄の中だった。
ズンッと、クレーターを生んで、ズワウスが痛みに身もだえをし、首を伸ばす。
──ウォオオオオオ!
月を背に、サーバインが咆吼を上げた。
魔力炉が展開され、黒い排気が左右に広がる。
黒い翼が空を覆う、その翼は霧散に合わせて筋となり、別れて……。
まるで十二枚の、羽根のような広がりを生んだ。
シグナムは、マナを彼女の機体のコクピットへと放り込んだ。
ハッチが閉じるのを待って、空を見上げる。
「爆走しているのか……吹き出す燐光が赤く染まって空を覆っていく」
ごくりと生唾を飲み下す。
「機体が影になって、目と口だけが爛々と輝いて見えて、あれではまるで……」
コクピットの中、シグナムが口にしなかった言葉を、マナはつぶやいてしまった。
モニタに映るその姿は……。
「悪魔じゃない……」
──ォオオオオオオオオ!
全身をコーティングしているエヴァの赤黒い血、それにスモールから奪った兵装によって形作られた外観。竜に似た姿が、禍々しい印象を強めていた。
サーバインが翼を大きく打って、降下していく。
早くは無く。間を作るように、恐怖を煽るように、ゆっくりと。
ねぇっと、マナは、モニタ越しにシグナムに尋ねた。
「あれを……シンジがやっているの?」
機体が自動で外部音声でシグナムに伝え、シグナムの言葉を集音器が拾う。
シグナムは目を離さないまま、どう言ったものかと、口にする。
「そうだろうが……これは」
「な……んや、これは」
コクピットの中、ベルフィールドは身を起こした。
体中が痛みに悲鳴を上げている。左腕が折れていた。
操縦管のような筒に腕を入れた状態で身を振り回されれば、応力が働き、腕など簡単に折れてしまう。
そのような事故を防ぐために、シートにはベルトがある。ベルフィールドが安全具の使用を怠っていたのは、油断と慢心からとしか言いようがなかった。
負けるとは毛ほども思っていなかったのだ。
「そやけど……」
残された右腕を操作管に入れて、ズワウスの身を起こさせようとする。
ズンッと、その体が地に押さえつけられた。サーバインに踏みつけられたのだ。
ハッチ越しに見上げる。冷たく見下ろすサーバインと目が合った。
サーバインの足は、ズワウスの左腕と、のど元を踏みつけていた。
動けないように、立てないように。
「怖いだろう?」
サーバインとズワウス。二機分のハッチ越しだというのに、はっきりと声が伝わる。
シンジの声は震えていた。
怒りから、言葉が詰まっていた。
「でもっ、みんなはもっと怖かったんだ!」
再びサーバインが右腕を高く掲げる。
そこにオーラでも魔力でもない、彼らの知らない力が集約し、渦を巻いて球を作る。
──陽電子である。
光は火の色でも太陽の輝きでもなく、白一色で闇を塗り替えていく。
それほどに眩しいものだった。
シンジはキャノピー越しに、震えている卿の姿を見る。
なにを、と思う。
それだけのことをしておいて、なにを怯えているのかと。
死の恐怖に震える権利があるのかと。
その思いが、シンジに暴虐を実行させた。
「もっと怖がれ!」
シンジがそれを叩きつけようとしたときだった。
「おどれぇえええええええ!」
卿が唸るように声を漏らした。
「『どこ』を踏んどるんじゃー!」
ズワウスの目が、まるでサーバインのように光り、あげく口を開いて咆吼した。
オーラが高まり、全身の装甲の切れ間から漏れ出した。それは漆黒のオーラがであった。
サーバインの体を持ち上げるほどの密度であった。押し離されたサーバインが、倒れないよう踏ん張り、地を尻尾で叩いた。
陽電子が拡散して消失する。
ズワウスが立ち上がる。大地が共鳴し、震えていた。
膨大なエネルギーの放出が、世界を鳴動させている。
土くれが巻き上げられて、浮き上がっていく。
ズワウスの、特に強くオーラの噴きだしている、胸ぐら、のど元のあたりの装甲が弾け飛んだ。
コクピットの上である。
シンジはぎょっとした。それがサーバインにも伝わって、後ずさるという挙動に現れた。
左の盾を前に、剣を引き気味に構えてしまう。
ズワウスののど元、そこには少女の像があった。
いや、それは像ではなく、本物の少女であった。
髪が揺れている。涙を流していた。
──血の涙を。
女の子は……生きていた。
「な……」
シンジは絶句するほかなかった。
十歳……それよりは下ではなかろうが、上とも思えない、そんな少女が埋め込まれていたのである。
腹部から上、乳房の半分から下、二の腕から先が、ズワウスに取り込まれ、神経や血管が繋がり、一体化していた。
「なんて……ことを」
エヴァに似た作り。神経接続に似たシステム。シンジの中に嫌な想像が広がっていく。
普通ではあり得ない動き。普通の理力甲冑騎とは違う強さ。
自立性。
うぐっと、吐きそうになって、シンジは口を手で押さえて堪えた。
「シンジ、あれ……」
アスカが蒼白になって、彼の腕を何度も引く。
「なんてことをするんだよ」
シンジは呻いた。
「取り込ませたのか、理力甲冑騎に、身内を」
だから勝手に動く。
だからあれほどに動く。
人を取り込んだ甲冑は……。
人を取り込んだ使徒は……。
『ヒト』であるから。
卿が吼える。
「これがわしの覚悟じゃー!」
生き残った者たちも、この叫びには逆らえなかった。
先ほどまで、身内を焼き殺した卿に殺意を抱いていたものたちも、さんざんな姿をさらしながら、ズワウスのことを見上げていた。
ズワウスからあふれ出している黒いオーラが、情報を拡散する。
神像が埋もれている鉱山の利権を狙い、卿の一家を失脚させようという陰謀があった。
その犠牲となった妹。一命は取り留めたが、気の病から肺を患い、帰らぬ者となるところであった。
だが、一つだけ方法が残されていた。
それがズワウス──理力甲冑騎の持つ可能性であったのだ。
理力甲冑騎は、決して搭乗者の生気を吸うような作り物ではない。そもそも莫大なエネルギー機関であるコアを抱えているのだから、人一人の持つ微々たる生命素子など必要とはしていないのだ。
S2機関。それは宇宙すら創造することのできるエネルギー機関である。なら、その力を死に瀕している妹に与えることができるなら?
太古の遺物。その中には様々な研究に関する記録を収めているものもあった。
そしてそれに触れられる男が居た。その男は黒ずくめの服を着ていて、黒い外套で全身を隠し、頭まで覆っていた。
そのフードの中では、赤い眼鏡が光を反射していた……濃いひげ面の、四、五十代の男であった。
その男を手に入れることと、狂気に迷い込むこととは同義であった。
卿は光明と錯覚し、そこに妹を救う術があると踏み込んでいった。
そして狂い、狂っていく。
ズワウスという神に妹を捧げるのでは無く……。
ズワウスという悪魔を妹に取り憑かせることに成功する。
だが、そのままとはいかなかった。
戦がなければ、理力甲冑騎の所持は難しくなる。財のことなど二の次であった。戦いこそが必要であった。だから神像の部品など二束三文でばらまいた。
より苛烈に戦場が過熱するよう、粗悪な神像を送り出し、破壊された神像が敵の手に渡り、敵の物となって牙を剥いてくることさえ歓迎した。
その全てを打ち破り……、やがて卿は、名を広めていったのであった。妹の力によって。妹の助けによって。
妹を犠牲として、妹の犠牲によって。
犠牲となった、妹のために。
妹のために、全てを贄として……彼は捧げ尽くす道を選んだ。
「そやから!」
卿は叫ぶ。
「わしは負けるわけにはいかんのじゃあっ!」
圧倒的な慟哭であった。
故に、誰も逆らえなかった。
唯一、シンジを除いては。
シンジは口にする。
「だから?」
ゾッとするほど平坦な声であった。
思わずアスカが彼の腕から手を引いてしまうほどに、抑揚のない声であった。
許せなかったのである。
なによりも……。
大人となった、彼の親友だった少年と似た男が、自分の知っている少女と同じ顔をした女の子を、最も許せない姿形としていたことが。
「だから、妹に人殺しをさせるのかよ」
アスカは不安げにシンジをのぞき込んだ。
そして後悔した……シンジはアスカのことを目に入れていなかった。
冷淡なのでは無い。シンジは怒り狂っていた。
怒りがあらゆる感情と思考を焼き尽くしていた。
それ故に生まれている静けさであったのだ。
シンジはただただ、ズワウスの、胸元の少女のことを目にしていた。
その冷め切った表情は……全ての感情を消し去った顔は、彼の父親に酷似していた。
その姿は、アスカ自身が口にしていたシンジの姿だった。
誰のためにも怒り、誰も彼もを思う。
自分だけを見ない彼だった。
「だからって……妹を戦わせるのかよ!」
怒りが爆発する。
オーラが爆発する。
「こいつを生かすためや!」
卿は叫ぶ。
サーバインのオーラを、ズワウスから噴きだしたオーラが押し返す。
「だからって!」
サーバインが駆け出す。ズワウスもだ。両者はぶつかり合い、両手を組み合わせ、力押しをした。
「生かすために、人殺しをして、殺させて!」
「死んで欲しくないんや! それのどこが悪い!」
「勝手だろ! 無くしたくないだけだろ、あなたが!」
「お前はどうなんや! 姫様のために人殺しをやるんやろが!」
キャノピーに顔が、キャノピー越しに影が見える。
シンジだけではなくアスカの顔まで。
卿の口元に、皮肉が浮かんだ。
「お互い、生きていて欲しいもんのために、命を賭けとるんやろ! 刈り取るんやろ! どこが違う!」
シンジの目に、キャノピー越しだが、少女の姿がよく映った。
──あの街で見舞った親友の妹と同じ顔だった。
やはり幼く、そして青白く、やせ細っていた。
だがこちらの少女は、生きているとは見えないほどだった。
目はうつろで、生気など無く……かさかさに乾いた唇はひび割れていて……。
「お前かて、守りたいもんがあるから、人殺しの道具に乗っとるんやろが! 人に説教できる立場かっ、ボケがっ!」
力任せに、卿はズワウスにサーバインを突き飛ばさせた。
卿と乗騎は存在が一体化しているのかもしれない。本人は片腕だというのに、機体は彼の想像通りの動きを見せていた。
これもまたサーバインとシンジに匹敵する状態であった。
「守りたいもん、貫きたいもん、そのためにやれることを尽くすんが騎士や! なんだってやったるわ! お前にはその覚悟があるんか!」
俺以上にと卿は突きつける。
同じである者だからこそ。
どちらがより引けぬのかと問い詰める。
シンジは意気がくじかれそうになってしまった。
いわば、他人事なのだ。シンジにとってアスカは大事だが、結局のところは他人である。
しかし、卿は違う。違っている。身内である。妹だ。
確かにアスカのことは大事だが、ここまでの気迫を見せられて、抗うことは難しかった。
シンジのそれは、自身の過去に根付く激情でしかなく、確固たる意思ではなかったからだ。アスカとは言っても、シンジのこだわるアスカとこの少女は別人であり、シンジが勝手に重ね合わせているところがあるだけだった。
(僕は……)
小さなアスカのためにと、躊躇なく人を殺すことができない自分は、彼に負けているのだろうかと、疑ってしまう。
言うことはわかるのだ。彼は止まらない。止められない。
あのような真似が許せないと思っているのは、自分の勝手、わがままだ。だが兄が妹のことをそうまで思ってやっているのなら、他人がなにを口にできようか?
言葉など通じない。力でねじ伏せるしかない。それも、命を止めるほどの力でだ。
小さなアスカが大事であるなら。
幼いアスカを巻き込もうとするのなら……巻き込ませないようにするのなら。
自分のことなど、人殺しうんぬんなど、わがままでしかないのならと。
シンジが意を決しようとしたとき、「違う!」っと、シンジが出そうとした結論に対し、アスカが叫んだ。
より地獄を見たのはどちらなのだろうかと思う。
不可解な意思の伝達。それらは卿の持つ暗い過去を、この場の者たちに知らしめていた。
だが同時に──。
(シンジ……)
アスカは……そして多くの者たちが知ることとなった。
幾つものきらびやかな塔。
それらを押し潰す怪物と、向かい合う少年──巨人。
巻き添えとなる人々、犠牲にしてしまった人たち。
泣きじゃくりながら戦う少年の物語。
──決して誇れぬと言う、伝説、伝承の、真実の姿。
彼ら、彼女らは、シンジという少年の記憶の一部を垣間見た。
だからこそ、アスカは叫んでいた。
シンジが、自分という人間を、嫌っているとわかったから。
シンジが、自分という人間を、好きではないのだとわかったから。
シンジが、自分という人間を、英雄、勇者などではないと知りすぎていたから。
シンジが、自分という人間など、消えても良いと思っていたから。
シンジが、自分という人間など、愛されることはないのだと諦めていたから。
そこには、逃げ出したいと願っている、ひ弱な少年の姿があった。
真実を知られたならば、蔑まれるとわかっている。
他人など怖いだけの存在だとわかっている。
一人きり、孤独であることこそが、唯一平穏で、幸せでいられる形だと思い込んでいる。
それなのに、なお、シンジはここにいてくれている。
誰かのために。
人のために。
誰のために?
──だから。
「違う!」
その声は、二人の記憶が引き起こした、人の意識の侵食さえも振り払った。
誰もが彼女の声に引きつけられた。
この場にいる全てのものの耳朶を打っていた。
シンジが彼女の存在を思い出す。
「アスカ?」
アスカは頭を何度も振ってから、ズワウスを、卿を睨み付けた。
「シンジは違う、あなたなんかとは違ってる!」
卿が吼える。
「どこが違うんや!」
ぜんぜん違ってる! とアスカは断言した。
「あなたは自分のことしか言ってない! その子を死なせたくないって、だからって、自分勝手なことをやってるだけじゃない! 全部自分の身勝手じゃない!」
死なせろと言うのかと卿は怒鳴りつけた。
「兄妹や! 助けようとしてなにが悪い!」
「聞こえないの!?」
アスカは泣くように叫んだ。
「その子は人を殺したくないって泣いてるじゃない!」
卿は虚を突かれたように止まった。
「なんやて?」
「あなたはその願いが聞こえてない!」
だけどとアスカはたたみかける。
「シンジは違う! シンジはあたしを大事にしてくれてる! 一番にあたしのことを思ってくれてる! 本当は戦うのも、傷つくのも傷つけられるのも嫌なのに、あたしが本当は、どうしたいかって、それを一番に気にしてくれてる! 気にかけてくれてるの!」
アスカは見てきたのだ。
視界の端には、シグナムの姿があった。
一生の心の傷となることさえも、その人の救いになるのならと、我慢しようとしたシンジの姿を。
何度も、何度もだ。
アスカは髪を振り乱して叫んだ。
「そのために、嫌なのに、怖いのにっ、戦ってくれてるの! あなたとは違ってる! 全然違うよ!」
それがどうしたと、卿は聞くことを怖がった。
「やってることは同じやろが!」
「違う! だから!」
アスカは叫んで、体を起こし、正面ハッチを両手で叩いて、額をぶつけるように身を折った。
「サーバイン!」
彼に願う。
「あなたがあたしの騎士だって言うのなら! 本当の騎士ってものを見せてあげて!」
あの子にと。
そしてあの人にと絶叫する。
自分と年の近い少女に涙目を向ける。
その下に道を誤った男がいる。
騎士が守る者だというのなら、なにを守る者なのかを……。
視界が潤んで、ぼやけてしまう。
アスカの頬を涙が流れて、床に落ちた。
そのしずくが弾けたとき、──サーバインの目が、強く熱い輝きを放った。
装甲殻の内側、素体が光を放ち出す。だがそれはズワウスのような黒い噴出ではなくて、真っ白な放出であった。
圧倒されたズワウスが後ずさる。
全身を汚していたエヴァの血が剥がれ飛んだ。まるで光にそぎ落とされるように、清められていった。
光は新たな形をもたらしていく。
全身を覆い、包み込む。するとサーバインを成していた輪郭が変化を始めた。
竜のように凶悪なものとなっていたフォルムが、細身のスマートなものへと整えられていく。
強獣のように前屈みなものから、人のように背筋の伸びたものへと。
手は細く、足は長く。
ベルフィールド卿のみならず、地上の者たちですら声を失っていた。
装甲自体は作り物だが、素体の手足が伸びただけで、その印象は全く違ったものとなってしまっていた。
なによりも、色の違いが大きかった。
白でありながら、光だった。
光を放つ色だった。
──やがて、誰かが口にする。
「純白の……戦騎士」
サーバインが身を捻り、剣を振るう。
光が燐光となって飛散した。
オーラエンジンが放出する光までも、赤いものから青白いものへと変化して、魔力炉が生んでいた翼もまた、白い光を羽として広げていた。
ベルフィールド卿が激昂する。
「聖戦士やとでも言うつもりかぁ!」
サーバインの姿は完全に変わっていた。
元のスラリとした肢体に近く、だが肩に付いたバインダー、背中には魔力炉と、合計四つの器官とそれを保護している覆いが、まるで衣装のように背を隠している。
そして尻尾も細くなり、洗練された物となっていた。
甲冑騎などと言うものでは無い。
まさに、騎士の姿であった。
対して、ズワウスは獣であった。
それも、少女を虜とした、けだものであった。
「シンジ!」
アスカの叫びに、つい呼応して、シンジはびくりと震えてしまった。
アスカの声は叱りつける者のそれであり、シンジの反応は叱りつけられる者としてのものであった。
守る者と守られる者ではなく、主と従の形があった。
アスカはシンジを見ず、前だけを見て命じた。
「騎士のつとめを!」
そのイメージが、シンジを打つ。
「オーラバスターって、そういうことなの!?」
何事かに開眼する。
あるいはそれは、巫女姫に教えられた意思伝達がもたらすフィードバックであった。
「行って!」
突っ込んでくる巨獣──ズワウスをかわし、その脇をすり抜ける。
反射的に出していた剣が、ズワウスの腕を切り飛ばしていた。
こんの! と、卿が機体を振り向かせる。
シンジは、自分の知覚が拡大し、また加速していることを認識した。
(こんなにも遅く見える、感じるなんて)
いいや、違うかと納得した。
(やらなきゃならないことがあって、やらなきゃならないってわかっているから、覚悟が決まっているだけなんだ)
迷いが無いから、必要の無い情報をそぎ落とせる。
処理能力を必要なことだけに割り当てられるから、手早く効率的に反応を決められる。
だがそれ以上に大事なことは、こんなにも自然に、落ち着いた気持ちで迎えられることであった。
恐れすらも無く、やるべき事を成すだけだ。結末までの道筋は見えている。後はそれを、ただただなぞるように流れるだけのことである。
消化するために相手の次を待つ。待たねばならない。
だからこそ、退屈で、待ちきれないから、相手を遅く感じるのだと理解した。
剣を振り上げ、振り下ろす。
剣は光を纏い、シンジがオーラバスターと呼んだものになっていた。
「あなたを悪夢から救い出します!」
卿が抵抗する。
「できるもんならやってみぃ!」
「はい!」
──交錯。
ズワウスの真っ正面を、縦にオーラバスターが斬り落ちた。
「…………!」
卿が妹の名を叫ぶ。
オーラ力などまるで意に介さず、オーラバスターはズワウスの上半身を解体した。
鈍器で殴られたように砕け散る。ズワウスという名前の物体を頭頂部から、オーラバスターのエネルギーが触媒となって、機体を構成していた物質を粒子へと変換し、消滅させていく。
「────!」
妹が消える。
恐れた卿が手を伸ばす。そこに妹の姿があった。
オーラバスターはズワウスの上部をえぐり取っていた。コクピットの天井は無くなり、大穴が開いていた。
背中に倒れ込んでいく。仰向きになって落下する。だからこそ、そこに見えた。
卿の妹は四肢を失っていた。
それどころか、下腹部から下もなくなっていた。
その彼女が、宙にとどめ置かれていた。彼女にだけは、破壊の力は振るわれていなかった。
むしろ、守られているようだった。
そんな彼女に、不可思議な現象が起こっていた。
彼女を包み込む光の粒子が、その肉体へと収束を行い始めたのである。
強く輝く金色の光が集まって、欠損部位を埋めていく。
元々彼女が持っていたのであろう形へと、修復、再現、再構築を、行っているようであった。
失われる前の姿へと、少女が癒されていくのがわかる。
癒しが進むと光が薄れ、少女を浮かせている力も弱まっていくようであった。
落下を始める前に、サーバインが両手で受けとめた。
そのために卿からは見えなくなってしまったのだった。
(お前は……)
卿は、恐怖した。
大地に激突し、意識が途絶える。
その間際に、彼は思っていた。
(何者や……)
かつてズワウスであったものが、焼けた大地に横たわった。
荒く息を吐き、シンジは収まらない動悸にめまいを感じていた。
(これが……)
アスカのつむじに目を落とす。
(オーラバスター)
存在の中和。
不自然を破壊するための異常。
理力甲冑騎のようなつぎはぎを許さなければ、一方であるべき姿を失っている者を正しもする。
(そういうものか……)
虚脱感が凄まじい。
ズンッと、震動が腰に来る。
サーバインが着地した事による震動であった。
光の翼が一度だけ羽ばたいて、地を打ち弾けた。
粒子となって散って消える。
ズワウスを見下ろす。生きているのだろうかと思ったが、どうでも良いかと思い直した。
だが、目の端に何かかが止まる。
「ちょっと……」
それは、ベルフィールド卿によって死ぬような目に遭わされた人たちであった。
「待てよ、なにをする気なんだよ!」
シンジはサーバインを動かそうとしたが、サーバインで阻止するには、すでに人が群がりすぎていた。
ズワウスに、である。
彼らはコクピットからベルフィールド卿を引きずり出していた。なにをしようとしているかなど、明白であった。
「やめろって言ってるだろ!」
シンジは強硬な手段に出ようとした、が……それをするまでもなく、事は治められた。
ドンッと、爆発が起こった。
砲撃であった。
ズワウスであったものの周囲に、二本、三本と、人の倍はあるような鉄の槍が突き立っていく。
人々は衝撃で転がり、ベルフィールド卿を引きずっていた者たちは逃げ出した。
「なんだ!?」
どこからの……と慌てて探していると、シンジの、サーバインの正面に、一体の騎士が降り落ちた。
ドシンと、かなりの高度から着地したのだろう。その機体は足を曲げて踏ん張り、衝撃を殺した。
真っ正面に降り立って、サーバインの両腕を手で押さえ、ずいと顔をつきあわせてきた。
それは奇妙な甲冑であった。
理力甲冑騎特有の、獣のような猫背な甲冑ではなかった。ピンと背筋を伸ばしている。
だがトカゲのような尻尾を持っており、揺らしている。
背にはコンバーターがなく、翼も羽も持っていなかった。
シンジは警戒し、後ずさろうとした。だができない。腕をつかまれているためだ。
「神像じゃない。理力甲冑騎でもない。でも……なんだ?」
直感が知らせる。
「この気配……知ってる。僕はこれを知っている」
サーバインの両腕をがっちりと押さえる甲冑に恐怖する。
「こいつ、エヴァンゲリオンじゃないのか?」
ハッチが開く。
シンジの表情が、驚きに彩られていく。
目が大きく見開かれていく。
あえぎに声が出なくなる。
のっそりと、長身を窮屈な穴蔵から出した男は、真っ黒な衣装を身にしていた。
──それは黒のスーツであった。
この世界の物らしき黒い外套を纏っていたが、そのスーツは明らかに太古の遺物である合成繊維で作られているものであった。
そして男の顔には、赤黒いサングラスがかけられていた。
男は少しだけ首を巡らせ、足下のズワウスと、引きずり出され、転がされたままとなっている、ぐったりとしたベルフィールド卿に目をやった。
「生きていれさえいれば、幸せになるチャンスがある……このような結末を想像していたわけでは無かったがな」
自機が押さえてるサーバインの手に乗っている少女を見た。
少しだけ表情を和らげる。
それから男は、シンジへと酷いひげ面を向けた。
口元に、笑っているような、呆れているような歪みが生まれた。
「変わらんな、シンジ」
シンジは、ようやくこぼすことができた。
「父さん……?」
彼、碇ゲンドウは、外套を跳ね上げて宣告した。
それはシンジだけでは無くて、この場にいる者たち、全てへのものであった。
「西方王の御前である!」
ばらばらと。
空中に、突然落下傘が現れた。完全装備の甲冑兵たちがぶら下がっていた。
剣を、槍を手に降りたって、落下傘を切り離し、瀕死の者たちを取り囲んでいく。
驚きの声を聞けた。シグナムのものであった。
「西方の兵士だと!? 国境を越えて来たのか!」
しかしこの土地は国境からは遠い。
「どうやって!? どこから!?」
兵士達が隊列を作る。その中心が左右に割れた。
その中央に、白髪の少年が立っていた。やけに大げさな赤いマントを羽織っていた。
その姿に、シンジとアスカとシグナムは、そういうことかと唖然とした。
「カヲルくん?」
シンジは呻いたが、それは彼の格好を見てのものだった。
「君は一体……」
渚カヲルであろう人物が、にやりと笑う。
ただ呆然としてしまう。
頭上に影が落ちる。
虹色の光を先端から後部へと流し、ステルス機能を解いて姿を見せたのは、全長四百メートルはあろうかという巨大船であった。
兵士たちはこの船から降下したのだろう。そのステルス機能の効果範囲を越えた姿が、急に現れたような形をして見えたのだ。
シンジたちからは、船体の底部を見上げることしかできない。だがそれが船であろう事は想像できるものであった。
事態がシンジの処理能力を超える。
両手から余ったことによって、シンジは傍観者として、彼らに従うことしかできなかったのであった。
続く!