マコトの乗るオーラ・シップは、旗艦として空を飛ぶ機族から集中的に狙われていた。
 機銃座が撃ち抜かれて爆発する。
「左舷弾幕薄いぞ! なにやってんの!」
 炎上する艦を庇うように、理力甲冑騎が躍り出た。
 高速とはとても言えない速度だが、甲虫型の機械体は、虫のように羽を広げ、震動させて浮遊している。
 こちらもまた、速くは無いのだ。
 接近し、剣を叩きつけることはできた。
 だがいかんせん、威力が足りなさ過ぎた。叩いただけに終わってしまう。機族はガンッと叩かれて、失速し、高度を落としたが、それだけだった。
 すぐに状態を取り戻して飛び去ってしまう。
 甲冑は機械虫を追いかけようとしたが、目を奪われすぎていた。
 その背後を、別の機械虫が狙い、迫る。
 が、彼は救われる。
 巨大なエネルギーの固まりが、超長距離を貫き、大気を穿って通過した。
 余波だけで理力甲冑騎の外郭が酷く震えた。
 まともに巻き込まれた機械虫は、原始に分解されて、爆発すら起こせなかった。
 マコトは、この激震に、シートにしがみつき、耐えたのだった。
「なんだ!? なんなんだ!?」
 彼は眼前を横断していったエネルギーの出所を探らせた。
「左方より接近してくる艦ありっ、大きい!?」
 マコトとシゲルは、単眼鏡を覗き、ありえない機影を見つけた。
 彼らの艦の数倍もある巨躯を、森林の海原を蹴って進む艦があった。
「まさか、ダナンなのか!?」
 白鯨が咆吼する。


「初弾、直撃」
 トゥアハー・デ・ダナンの前方部。
 以前、北への旅路にて、サーバインを捉えるべく開かれた開口部より放たれた高出力ビームは、森を一直線に穿ち、地平を埋める地虫を焼き、そのまま角度を上向きとし、空に広がる羽虫を飲み込んで、彼方へと消えていったのであった。
 火球が天地に連鎖して広がっていく。
 だがそれも、全体を数えれば、ほんの一部を焼き払ったに過ぎない。
「少しでも良い。注意をこちらに引きつけて」
 口にしているのはテッサだ。
「ダナンのATフィールドなら、耐えられます。第二射用意!」
 勢いに乗って、艦長席から立ち上がる。
「N2リアクター、全開」
「神経接続良好」
「操作波打ち込み」
「S2機関、圧力上昇」
「臨界点、来ます」
 そんなの席の前には、はやてが両腕を胸の前に組んで立っていた。
「あれは、戦争やないなぁ……」
 抗うためには、戦いの体裁が整わなければならない。
 だが眼前の光景は、どう見ても天災であった。
 森林が、大量に発生した害虫に浸食されている。
 それを駆除しようとして、あまりの多さに困窮している。
 そして、逆襲を食らっている。
 そうとしか思えない光景であった。
「圧力弁解放」
「バスター咆。発射」


 バスター咆は、ダナンに存在しているS2機関を起動することによって生まれる余剰エネルギーを、前方へと咆吼として解放している、ただそれだけの攻撃である。
 疑似生命化現象を起こしていたとは言え、ダナンにS2機関は生まれていなかった。
 これを与えたのは巫女姫である。
 使徒を召喚し、糧としてダナンへと与えたのである。
 だがこれにより、ダナンは完全に人の手に余る存在となってしまった。
 より強固なものとなった自我の存在が、ダナンへの接触を不可能なものとしたのである。
 これを解決するために、彼女たちは巫女姫の御座船を利用した。
 御座船のメイン動力源は、N2リアクターとなっている。
 N2リアクターは、莫大とも言える電力を生み出すことが可能であった。
 これを転用し、彼女たちはダナンの神経網にコントロール波として打ち込めるほどの、強い信号波を作り出したのである。
 餌として呼び出した使徒へと、ダナンが食いついている間に、御座船でだまし討ちをかけ、支配下へと置いたのだ。
 そのダナンが、ここまでのものになるとは、テッサも思ってはいなかった。
 そもそもダナンは、空を飛ぶ船ではない。それが飛んでいるだけでも異常なことである。
 バスター咆の威力に酔う一方で、テッサはこの船の運用について、想像力を働かせていた。
 既存にない戦力である。当たり前に使うつもりはなかった。
 艦橋代わりとなっている御座船は、ダナンの上甲板後方寄りに位置していた。
 そして左右側面の後尾側に、バランサーのようにマナたちのものである神像が接舷されている。
 マナ自身の三機目は、上甲板後方、御座船のさらに後ろにあった。
 こちらは接続されず、身を伏せるように乗っているだけである。
「凄い威力ね……」
 先を見る。
 ダナンの舳先は放電現象が未だ残っていた。光ったかと思えば、エネルギーが世界を貫いていった。
 大地には傷跡が穿たれている。
 直径数メートル、長さはキロ単位だ。
 地をくしけずり、森を焼いた痕が残されていた。
 その後をなぞるように、踏み分けてダナンが行く。
 樹木の波に揺られながら。
 炎を飛沫に見立てながら。
 その波の先で、一斉に黒い霧が舞い上がった。
 意思ある塊として。
 それは機族の機械虫の群れであった。
 まるで幾筋もの気流であった。
 マナが右拳を左手に打ち付ける。
「よっし! ムサシ、ケイタ! 弾幕用意! 機族が来るよ!」
 了解と、通信器越しに応答が来る。


「来たわね」
 アスカである。
 彼女はプラグスーツを身にし、どこかで見たことのあるシートに着いていた。
 全周囲のモニター、彼女が見る景色には、深緑の海を行く白鯨の姿があった。
 真上からの視点である。
 彼女はインダクションレバーのスイッチを操作して、表示されている画像の倍率を変更する。
 白鯨はさらに一射、巨砲を放つと、接続している戦闘艦艇からの砲撃戦に切り替えた。
 対空砲火によって蝿を落とし、悠然と進んで行く。
 断続的な火線は対空機関砲的な装備だろう。
 時折、白煙を引くものが飛ぶ。ミサイルだろう。
 システムが火力分析を行い、表示する。
 機械虫は白鯨のATフィールドへと突撃し、バリヤを力尽くで押し破ろうとして、逆に衝突の衝撃に爆発していた。
 機械虫には、アンチATフィールドのような、ATフィールドをどうにかできる機構がない。
 ATフィールドは命あるものがもつ力であるからだ。
「自動機械の限界よね」
 彼女、機族のアスカは、舌なめずりをした。
 彼女は気がついたのだ。
 甲板に人影があった。舳先に近い場所だ。そこに少年の姿があった。
 さらに倍率を上げるが、さすがに解像度が悪くなり、ぼけてしまってはっきりとしない。
 だがそれでも、誰などと考える必要もなく、彼女にはわかったのだった。
(正直、評議会の走狗に使われるのは面白くないけど、委員会を押さえ込んでくれたことには感謝してあげるわ)
 その上、この『機体』を与えてくれたのだからと、にたりと笑った。
 今、機族の社会は、サードチルドレンの出現によって、二つに割れていた。
 サードチルドレン保護を優先する委員会と、サードチルドレン不要論を唱える評議会とにである。
 サードチルドレンを保護し、計画を初期の物へと修正しようとする委員会と、現状に即し、サードチルドレンこそが不確定要素であると、現行計画の破棄に異議を唱える評議会とに別れたのである。
 サードチルドレンを軸に計画を見直す行為は、世界のバランスを一旦白紙に戻す行為である。
 世界に生命が溢れるまで、四百年の時間をかけたのだ。
 サードチルドレンを主軸とする計画は、この四百年分の積み重ねを、一旦放棄せねばならない。
 でなければ、不純物が混じるからだ。
 だが、それが失敗した場合、また元に、とは行かないのである。
 単純に、もう一度同じようにしたからと言って、この生命に溢れた世界に戻せるということはない。
 それでもと、こだわる委員会と、それではと、破綻を恐れる評議会とで、機族内部は大きく二つに荒れていた。
(でも、そんなこと、あたしの知ったことじゃないもんね)
 高高度、青空の中に、それは浮かんでいた。
「さあ、行きましょ? エヴァンゲリオン……、弐号機」
 空に浮かぶ黒き月を背にし、紛れて姿を隠していた、黒色のグライダーから、真っ赤な巨人が投下された。


 両腕にフレイムランチャーを装備した理力甲冑騎が、炎で地上の勢力をなぶっていた。
 機族の虫は丸く縮こまって身を守る。背中の甲殻が赤くなったものの、すぐにもとの色へと戻ってしまった。
 その虫が、自身を攻撃した甲冑では無く、甲冑の向こうを見た。
 理力甲冑騎は気付かなかった。
 直上に、赤いエヴァンゲリオンが降下する。足の裏が甲冑を直撃して破壊した。
 空中分解した理力甲冑騎のことなど気にもとめずにエヴァは地上へと落下した。
 巨大な土柱が上がり、埃がもうもうと立って、風に流れていく。
 残骸を踏みにじり、膝を伸ばす。
 薄れいく土柱の中から立ち上がる四ツ目の巨人。
 瞬間、戦場が制止した。
 人族はおびえた。
 誰かが伝承、伝説を想起した。
 そして、あれはと口にした。
 エヴァンゲリオン──と。
 ドンッと、巨人の間隣に、柄が中央に取り付けられた両頭の大剣が突き立った。
 赤いエヴァンゲリオンは、それを両手で掴み、大地より引き抜いた。
 そして横にし、振り回し、人族の浮遊船へと放り投げた。
 あまりの質量の差に、直撃を受けた浮遊船はあっさりと分解し、爆発した。
 火の玉となって、落下する。
 その足下には、機族の攻撃によって落とされた艦から脱出した、人の軍勢の姿があった。
 胴に二本の足を付けただけの移動駆体(オーラモービル)を軸に、戦場より離脱しようとしていた部隊であった。
 彼らは頭上から降り落ちる火の滝より、逃れることができず、押し潰された。
 森林の合間をなぶるように炎が流れて広がる。
 飲み込まれ、人が押し流され、消し炭になる。
 大剣は勢いを殺すこともなく、弧を描いて再び弐号機の元へと舞い戻った。
 それを空中で握りつかみ取り、勢いをぐるりと回転して殺し、弐号機は大剣を眼前に構えた。


 ただ、ゆっくりと歩き、前進する。
 それだけだというのに、あまりの巨大さと威圧感に、人は恐れおののいた。
 城よりも大きいものを、人はそうそう見たことが無い。
 一部の者が、強獣を見たことがあるくらいだ。
 巨人の手は、簡単に空に浮く船に届いてしまう。
 伸ばされた手を避けようと、船が下がる。
 その船に、右手に持つ剣が振り抜かれる。
 叩きつけられた鉄塊に、船は跳ねられ、ひしゃげて壊れた。
 遅れて爆発する。
 その破壊を背に、無数の軍勢を負い、悪魔のような姿を見せつけ、四つの複眼を光らせる。
 いつしか森には火の手が広がり、炎が高く、より赤を映えさせていた。


 どんなに背の高い大樹であっても、巨人の膝丈ほども無い。
 木々を蹴散らし、肩を揺するように、巨人は歩む。
 その様子に、シンジは吐き捨てるように口にした。
「アスカか……、それにロンギヌスの槍のレプリカまで持ち出すなんて」
 なぜだろう、一連の動きがただの肩慣らしだとわかる。
 弐号機の進路はこちらを向いていない。
 待ち受けるつもりなのか、それとも眼中に無いだけなのか?
 ダナンは減速し、弐号機を軸に距離を保つよう左舷をさらす。
 シンジは空を見上げた。陰りのある空に、それでもなお、黒い月が姿を見せている。
 内なる声がいいのかと尋ねた。
《Master?》
 シンジは苦笑した。
「いいさ、今は迷わない。僕のプライドなんて、みんなの命に比べれば、安いもんだしね」
《Really?》
「あれだけ避けておいて、いまさらなんだよって思われるかもしれないけどさ」
 天を見上げる。
「僕のせいでこの世界が壊れ始めたって言うのなら、けりは僕がつける。つけさせてもらうさ」
《Ready?》
「母さん、綾波……力を、貸して」
 そして……と。
 天に向かって手を伸ばす。
《Call my name.》
 その台詞に、シンジは、そういうことなのか、と理解した。
 指の隙間越しに見える黒い月をつかむように、手を閉じる。
「初号機」
 シンジの背後、艦橋となっている御座船の中程にあるタラップで、巫女姫が大きく手を広げ、金色の力を放った。
 その衝撃は、高く天へと広がっていって。
 力は世界へと、そして高き場所にある、黒き月にまで達し、リィンと音を響かせた。


 ドンと震動が船を襲った。
 皆が驚く。艦橋の視界を埋め尽くし、そこに紫色の背中があったからだ。
 だらりと腕を垂らした、猫背の巨人が現れていた。股が開き気味になっているのは着地の衝撃を和らげたためだろう。
 その足を真っ直ぐにと立ち上がっていく。
 理力甲冑騎など比べものにならない大きさだった。
 肩が、背中が、ゆっくりと呼吸に合わせて上下している。
 全身から湯気のようなものが立ち上っていた。
 誰かが言った。
「伝説の……」
 エヴァンゲリオン、初号機である。


 ──フォオオオオ!
 顎部ジョイントを破壊し、初号機が吼えた。大気が震え、飛翔していた機械虫が連鎖的に爆発して、無数の火球となって空を埋めてしまう。
 人族の抵抗など微々たるものであったというのに、この巨人は、咆えるだけでそれらを一掃してしまったのである。
 そこにある生命のすべての視線を一身に受けつつ、初号機は弐号機へと目を向けていた。
 弐号機と目が合う。相手の注意が間違いなく自身へと注がれたのを確認して、初号機は挑戦状を叩きつけた。
 初号機の眼光が、物理的な形となってほとばしった。不可視のエネルギーが大気を貫き弐号機へとたどり着く。
 弐号機は両腕を組み合わせて踏ん張った。ビームはATフィールドの表面で爆発する。
 赤い巨人が駆け出した。機族を、人を踏みつぶし、蹴散らして。
 高く舞うに当たっては、反重力を発生させるための力を衝撃波として地に叩きつけていた。
 衝撃波が散って竜巻となり、地表の大樹を根こそぎ散らす。
 土砂と共に人も機族もなにもかもが宙に巻き上げられ、そして方々にかき消えた。
 飛び上がった赤いエヴァに、初号機が左腕を向ける。右手を補助とし、握り込めば、ATフィールドが折りたたまれるように箱状へと圧縮され、打ち出された。
 空中から、大剣を振り下ろそうとしていた弐号機であったのだが、ATフィールドの塊に顎を撃ち抜かれ、失速し、大地に落ちて地をくしけずり、土砂を舞い上げながら、ダナンの脇を滑って、背後に沈んだ。
 誰かが泣き叫んだ。
「むちゃくちゃだ!」
 今の一連の動きだけで、いったいどれだけの人が巻き込まれて死んだのだろうか?
 ──フォオオオ!
 咆えた初号機は、ダンと甲板を蹴って弐号機の上に降り落ちた。
 足を曲げ、両膝を弐号機の腹に叩き込む。
 しかし弐号機は、直前で横に転がり避けて見せた。
 初号機という大質量の自爆によって、激震が大地に走る。
 地が吹き上がり、木々の根が抜け、連鎖的に倒れていく。
 人も機械も、立っていられず転がっていた。
 何十本もの木々が吹き飛び、その中から紫色の腕が伸びた。
 先に起き上がろうと四つん這いになっていた弐号機の腕を掴み、初号機は自分の元へと、寝転んだままで引き寄せた。
 ガンッと、弐号機の顔を、空いている拳で殴りつける。
 首が抜けそうになるほどの剛腕を受けた弐号機であったが、肩部のパーツを開いて黒い針を打ち出した。
 初号機が避けようとバランスを崩したのを好機に、右膝を曲げ、初号機との間に足を割り込ませ、腹を蹴り、押しのけた。
 ごろりと後転して起き上がる途中で、弐号機は肩のナイフを抜いていた。刺そうと前傾姿勢から突進する。
 突き出された弐号機のナイフに頬を裂かれながら、初号機は目から光線を発射した。
 同時に、弐号機の複眼からもビームが放たれる。
 二者からのビームは、二機のにらみ合いを象徴するように拮抗し、そして周囲へと無差別に四散した。
 偶然、その先に居た人族の船や、機族の機械をなぎ払った。
 これを受けた者たちは、火ぶくれを起こし、融解から爆発し、炎となった。


 信じられないとマコトがこぼす。
「俺の目がおかしのか!? まるで人間以上じゃないか!」
 シゲルもまた呆然としていた。
「あの大きさで」
 人の何倍もあるものが、人以上に素早く動いていると言うことは、その末端部の速度は人が動くときの何倍の速度で動いていることになるのだろうか?
 ただ体を振る、足を動かす。その震動だけで地は鳴動し、大気は衝撃波となって世界をなぶるのだ。
 地震が、竜巻が、あらゆるものを転ばし、巻き上げる。
 目の端に、ちがちかと光る物が引っかかった。
 信号弾の光であった。
 ベルフィールド卿のものだ。撤退の進言である。マコトは賛同した。
「それが賢明だろうな……」
「神々の戦い……というわけだ。俺たちの手に負える話じゃ無い」
「ぼうっとしてる場合じゃ無いぞ」
「シゲル?」
「機族だ。あいつら、あれだけ踏みにじられても、まるで気にしてないらしい」
「なんだって!?」
 押し寄せる黒い波。
 そこには意思という物は無く、使命でも無く、ただ、うごめいていた。
 炎の中にあっても、彼らはその体を黒くすすけさせながら、義眼に光を点す。
 彼らの活動限界温度は一千度を超える。ビームの直撃を受けない限り、熱に壊れることは無い。
 彼らにとって現在の環境は、有機生命体を根絶させるという目的を考えた場合、より作戦を遂行させやすい状態へと変化した、という程度のものでしかなかった。
 だがその姿は、滅ぼされる側から見た場合、ただおどろおどろしいものでしかない。
「あんなもの、もう、ただの機械じゃないか……生き物なんかじゃない」
 なにが機族だ。機械でできた人間だ、と、吐き捨てる。

 ──そう、だから、遠慮することはないのさ。

 長距離の攻撃。
 それは彼らの後方からのものであった。
 マコトたちの顔を発光が白く染め上げる。
 まぶしさに彼らは目を閉じ、顔を背けた。
 閃光は逃げようと後退を始めた艦隊を後方から追い抜き、虫の群れを直撃した。
 ダナンのように焼くものではなかったが、爆発で多くの虫が巻き上がり、衝撃によって分解していった。
「なんだ!?」
「西方王だ!」


 空間が歪み、カヲルの駆る船が姿を見せる。
 ステルス迷彩を解除したのだろう。
 その船体が色を変える。
 青く。
「このエクセリオンと……」
 その艦の上には、黒い、翼の無い理力甲冑騎が、両腕を組んで仁王立ちしていた。
 尻尾をブンと一振りする。
 両腕を胸の下辺りで組み合わせていた。
「ラゼンガンを甘く見ないで欲しいね」
 エクセリオンの上甲板のみならず、下部ハッチからも、神像とおぼしき機械軍が一斉に放出される。
 カヲルだけは艦の上に留まり、指示を出す。
「エヴァンゲリオンは無視して良いよ。絶対防衛戦をエクセリオンを基点に設置。中の国の船団を保護。さあ、迎え撃つよ!」
 ラゼンガンが、右手を伸ばし、指揮を下した。


「好きだねぇ、カヲル君も!」
 吼えた初号機の背中で部品がはじけ飛び、赤黒い障気が吹き出した。
 それは一対の翼となって大きく羽ばたき、初号機を空へと舞い上げた。
 障気の軌跡を追って、弐号機が地を蹴った。こちらは両腕を体に貼り合わせただけで、翼もなく、自由に軌道を取る。
 弾丸のように突っ込んでくる弐号機を、初号機は翼を二度三度と羽ばたかせて避けた。
 通り過ぎては、すぐに軌道を変更し、弐号機は舞い戻る。
 五度目の交差で、初号機はその首を蹴り飛ばしたのであった。

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