「やぁっぱ、反対の道やったんとちゃうかぁ?」
ジャージ姿で手書きの地図を確認しているのは、シンジのクラスメートだった鈴原トウジだ。
「地図には近道だって書いてあるんだけどなぁ?」
隣のメガネが相田ケンスケ。
「もう!、だからどこかで聞こうって言ったのに」
ふくれる「委員長」こと洞木ヒカリ。
「ごめんねヒカリぃ」
その横でしょぼくれる赤毛の女の子。
「あ、ちょっとやだ、もういいかげんに元気出してよ、アスカぁ…」
洞木ヒカリは、同じくクラスメートである惣流・アスカ・ラングレーを気づかった。
「あんな酷い事しちゃったのに…」
湖沿いに歩いている。
「のこのことこんな所まで来てる、あたしってバカだな…」
(未練たらしいったら、ありゃしない)
振り返ってここまでの道のりを見た。
湖沿いに、えんえんと道路が続いている。
反対側は山だ。
「お、なんやあれ?」
「すっげー!」
二人は大破した車の残骸を見つけた。
「ルノーじゃん、こんなところでどうしたんだろ?」
「レース気取りでアホなことしたんとちゃうか?」
「そうだな、こんなところじゃ対向車も来ないだろうし」
田舎だった、余りにもド田舎だった。
「ほんまに碇の奴、こないなとこに住んどるんかぁ?」
「間違いないよ、冬月さんにちゃんと確認したんだから」
「ねえ、テントがあるわよ?」
ヒカリが浜辺を指差した。
「ほんまや、地元の奴やろか?」
「そんな事とはどうでもいいさ」
ガードレールを乗り越える。
「どこいくんや?」
「道聞いてくるよ」
「ちょ、ちょっと待てや!、わしも行くて!」
「あ、こら鈴原!」
もう!っと、勝手に走ってく二人に怒る。
「ヒカリ、あたし達も行こう?」
「うん!」
少女達は、のんびりと散歩するように後を追った。
「あれ?、誰も居ないみたいだぜ?」
「ボンベとかあるし、潜っとるんとちゃうかぁ?」
湖の方を見る。
「どないする?」
「待とうぜ?、どうせ10分かそこらで上がってくるよ」
「そやな、こないな人のおらんとこで、道もわからんとうろついとってもしゃ〜ないし」
トウジはドサッと荷物を下ろした。
ザバ…
水面に何かが浮かび上がる。
「お、なーいすタイミング、おーい!」
手を振るケンスケ。
「なんやあれ?」
それは白いヘルメットだった、口元からのびるホースが、背中のボンベへと繋がっている。
「おほっ、女の子だ!」
下手な水着よりもよほど刺激的なボディースーツに、二人は思わず歓声を上げた。
「これはチャンスだぜ?、トウジ!」
「わかっとるわ!」
浜まで上がってくるのも待てずに、二人は我先にと駆け寄った。
「あの!、すんません!!」
少女に話しかけるトウジ。
答える代わりにヘルメットを脱いだ、少しばかり濡れた髪が、少女に色気を与えている。
(うわ、こらまたごっつう美人やないか!)
「なに?」
その子は赤い瞳を向けて、無愛想に聞き返した。
レイだ。
「あ、あの、僕相田ケンスケって言います!」
「あ、こら、抜けがけすな!」
レイはヘルメットを落とすと、薄青い髪を片手でかき上げた。
「あのぉ、ごめんなさい…」
今度はヒカリが声をかけた。
瞳だけを向けるレイ。
「あたしたち、「碇シンジ」って子の家探してるんだけど、知らないかなぁ?」
馴れ馴れしく尋ねるアスカ。
「知っているわ」
特に気分を害した様子も見せずに、レイはぶっきらぼうに答えた。
良かった!っと、手を打つヒカリ。
「ごめんなさい!、実は家がわからなくて困ってたの」
「悪いんだけどさぁ、道、教えてくんないかなぁ?」
「どうして?」
え?、っと、アスカは答えに窮した。
「聞いて、どうするの?」
「どうするって…」
アスカと視線を合わせる。
「会いに行くのよ、決まってんじゃない」
ヤな女…、アスカはそんな印象を抱いた。
「会ってどうするの?」
無表情に訊ねるレイ。
「…なんであんたにそんなこと言わなくちゃなんないのよ?」
アスカは何となく気圧された。
「あ、アスカ行こう?」
(この子どこかおかしい)
それはヒカリの印象だったのだが、アスカの手を引かずにはいられなかった。
それにあわせるように、メットを拾い上げようとするレイ。
「嫌よ!」
アスカは激しく抵抗した。
鼻息を荒くして、レイに一言突きつけようとする。
だが赤い瞳に見据えられた瞬間、アスカは凍り付いたように何も言えなくなってしまった。
「…碇君に、会いたいのね」
まるでアスカの心の中を見透かしているような目だった。
その視線をそのまま湖へと向けるレイ。
「そ、そうよ、悪い?」
アスカは胸をなで下ろした。
「いえ?」
背中ごしに答えるレイ。
「なら、ここで待てば?、すぐに来るから」
四人はきょとんとして視線を合わせた。
「ほら…」
もう一人浮かび上がってきた。
「綾波ー!」
手を振っている、次いで少し首を傾げてから、紫色のヘルメットの少年は、泳ぐというより歩くと言った感じで上がってきた。
波打ち際まで歩いてきて、いそいそとヘルメットを取る。
「ああああ!」
「なんや!」
目を剥く二人。
「トウジ、ケンスケ?」
「「シンジぃ!!」」
「どうしたのさ、二人とも…」
シンジはきょとんとして二人を見比べた。
「碇くん!」
「あ、洞木さん…」
そして赤い髪が目にとまる。
「…惣流さん」
アスカは口をもごもごと動かした。
「作戦を練りなおす必要があるわね」
艦長室。
ペンマウスの頭をかじりながら、リツコは思考の海を漂っていた。
「まだやるつもりなんですか?」
コーヒーを注ぐマヤ。
「当然よ…、おいしいわね、これ」
「はい、下に降りてる調査員が送ってきたんです」
「原材料について調べさせて、手に入れられるものならサンプルを送らせて、持って帰るから、いいわね?」
「はい」
(エヴァもこんな風に持って返りたいものね)
香りを楽しむ。
「…問題はあの特殊装甲ね」
「エヴァの素体を覆っている、1万2千の次元階層を持つ特殊装甲ですか?」
気を利かせて、先日のデータを呼び出すマヤ。
「やはり問題はレイのエヴァね」
「はい、全ての計測器が振り切られてしまいましたから…」
「シュミュレーションの結果は?」
「全会一致で消去を推奨しています」
コーヒーを口にして、考えをまとめる。
「やはりコアではないのね?」
「はい、コアの起動もなくエヴァンゲリオンモードを起動…、本来あり得ないことです」
(活動時間に限界が無い、やっかいだわ…)
「ここは、まずレイのエヴァを倒すべきかしらね」
その装甲を打ち破れる使徒を検索する。
「第五使徒級浮遊砲台ラミエル、これがいいわ」
リツコは残りのコーヒーを一気に飲み下した。
「おかわりちょうだい」
出かけるのは、それからだった。
「むう、これはマズいわね」
「ああ、予期せぬ来訪者、だがこれはチャンスでもある」
隠しカメラからの映像を、お茶を飲みながらテレビで見ていた。
ゲンドウとミサト。
「チャンス?、どうしてですか?」
計りかねますと視線を向ける。
ゲンドウは軽く頷いた。
「意識しあうだけではエヴァの発動はありえんのだ」
ぽんと手を打つ。
「なるほど、自覚を促すと」
「ああ」
机に肘を突いて、組み合わせた手の甲に顎を乗せた。
「シンジ、逃げてはいかんぞ?」
テレビの向こうの息子に向かって、ゲンドウはニヤニヤと笑みを浮かべていた。
「お前も隅に置けんなぁ」
ボンベの残圧のチェックをしているシンジ、その頭の上に肘を乗せてもたれかかる。
「なんだよ、急に…」
「決まってるだろ?、綾波さんだよ」
二人してレイの一挙手一投足に注目していた。
「惣流に振られて逃げたと思たら」
「ちゃっかり他の子をゲットしてるんだもんなぁ」
「そそそ、そんなんじゃないよ!」
真っ赤になる。
「お、なんや赤こなって」
「ははぁん、そんなんじゃなくても、意識はしてるわけだ」
そんな三人の上に影がおちる。
アスカが頭の上から見下ろしていた。
「あんた達なに遊んでんのよ」
何故だか怒っている様子。
「あん?」
「俺達?」
「そうよ、ぼさぼさっとしてないで、さっさとテントを張りなさいよ!」
指を突きつけて命令する。
「へーへー」
「わかったよぉ…」
二人はごねながらシンジのテントの隣へと向かっていった。
そこにケンスケ持参のテントキット転がっているのだ。
アスカはそのまま、仁王立ちして二人を監視した。
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