「恋かどうかなんてわかんないのよ、まだね?」
アスカは髪を掻き上げた。
言葉をまとめようとして、間を取っている。
「もやもやしてんのよ、この辺りが…」
心臓の心持ち下に手を添える。
「あのまんまじゃ、後悔しちゃうじゃない?」
それはシンジも同じかもしれない。
「だから、来たはずだったのよね、説得されてさ…」
トウジ達に。
「おかしな事になっちゃったけどね?」
アスカはようやく冗談っぽくウィンクした、できた。
「アスカ…」
「だからあんたは、あたしのことを好きなままでいなさいよ」
はぁ!?
思いっきり飛躍した論理に呆れ返る。
「それであの女のこと、あいつはあいつで大事にしてやるの」
「な、なんだよそれ!?」
ぴんっとアスカはシンジの鼻を指先で弾いた。
「だって、もしあたしがあんたのことを好きだったりしたら、これってもう相思相愛ってことじゃない?」
そ、そりゃまあ、そうかと納得しかける。
「それならもったいないじゃない?、けど勘違いだっりしたら、はいそれまでよね?」
酷い…、本気でそう思った。
「そ、それじゃあ僕は、アスカが自分の気持ちを確かめるまで、ずっと待ち続けなきゃいけないってこと?」
ピンポーンっとアスカ。
「酷いや、そんなの…」
トホーっとシンジは悲嘆にくれた。
「なぁによ、こんなかわゆ〜い女の子に抱きつかれて、あんたはうれしくないって言うわけ?」
正面から抱きつかれてしまった。
胸が押し付けられて潰れている。
「ちょ、ちょっと!」
ぞくっ!
背筋に悪寒が走った。
誰かに覗かれているような気がする。
しかもそれがレイの気配に似ているような?
「離れて…、むぐ!」
また唇を奪われた。
今度は鼻で息ができた。
すっと離れる、その唇が開いた。
「ファーストキス…」
「え?」
想像外の単語にドキッとする。
「あんたにあげたんだからね?」
あの夜のことを思い出す。
「そ、そんな、初めてだったの!?」
何だと思ってたのよ?
剣呑な表情に、シンジはびくびくと脅えだした。
「まあいいわ…、そういうことだから、せめてその責任はとって待ち続けなさいよね?」
「そ、そんな…」
「返事は!?」
「はい!」
っと答えるしかなかった。
「よろしい!」
上機嫌で解放してやるアスカ。
「とほほ〜〜〜」
まさにそんな感じのシンジであった。
二体のエヴァが合体を始めた。
「行くよ、アスカ」
スピーカーからシンジの声が流れてきていた。
研究所最下層の発令所だ。
「シンクロ率、ハーモニクス共に上昇!」
「レイの時を上回るか、シンジ…」
ゲンドウは少し不満そうだ。
「鈴原?」
声を掛けて見るヒカリ。
トウジは先程から少し離れた場所で背中を向けていた。
「鈴原」
声を掛けても返事もしない。
おかしわね?
トウジの姿が、半透明にぶれているような気がする。
そう思ったが…
「いったぁあああああああ!」
アスカの声に注意をそらされてしまうのだった。
それはほぼ大方が予想していたような悲鳴であった。
しかし上げたのはシンジではなく、アスカだ。
「この下っ手くそぉ!、一体何やってんのよ!!」
「ご、ごめん」
「あたし初めてなんだから、ちゃんとそっちでリードしなさいよね!」
「う、うん…」
「しっかし相変わらずな会話…」
ケンスケのセリフに、ヒカリはなんと答えていいのかわからなかった。
「あの赤いエヴァと合体したの?」
地上の様子が映し出されていた。
艦橋、そこにはリツコただ一人だけが残っていた。
上にアスカ、やはりシンジは下半身役だった。
「無駄かも、しれないけどね…」
スイッチを押す。
「終わりね…」
どちらのだろう?
船主方向から爆発が上がった。
コアが潰れたのね…
光がリツコを飲みこんでいく。
しかし爆発は黄金色の壁に遮られていた。
黒い影が飛び付く。
だが既にリツコは気を失っていた…
光の槍が来る。
舐められたものね?
その威力は前回の数十分の一も無い。
赤いエヴァリオン。
その形はレイがメインの時とは比べ物にならないほどに洗練されておらず、どこか「のっぽ」と言う印象を周囲に与えていた。
だが基本的に形は同じだ。
で、どうするのさ?
今回は幾分余裕があった。
慣れたのかもしれない。
あんなの一発で終わりよ。
何故だろう?、とシンジは訝しんだ。
アスカの方がエヴァについて詳しい。
気にはなったが、答えが見つかるはずも無い。
行くわよ?
うん、まかせる。
シンジはアスカに体をゆだねた。
よしっ、必殺必中、ポジトロンライフル!
右腕を後ろへスウィングし、前へ突き出した。
その手が途中でいったん歪み、消え、そしてライフルを持って現れる。
その下部からコードが伸びていた、それを背中に差し込み、エネルギーの充填を開始する。
フウウウウウゥン…
シンジの変身しているコアが赤みを増した。
それに合わせて、ライフルにエネルギーがチャージされていく。
撃てぇい!
引き金を引いた。
バシューー!
光線が真っ青な空を駆け登っていく。
キラン!
白い光、それに続いてゴオオオオオン!っという轟音が鳴り響いた。
真昼の空が真っ白に染まる。
凄いや…
シンジは驚嘆していた。
どう?、これこそが実力の差って奴よね?
うん…
素直に認めてしまうシンジ。
エヴァって、アスカのためにあったのかもしれないね…
そう思えてしまうほどに凄かった。
だがアスカは否定した。
これはあんたのでしょう?
苦笑、続いて吹き出す。
二人は笑った、笑いあった。
「碇君…」
そんなエヴァリオンを、レイはアスカの部屋からじぃっと寂しい目で見つめていた。
「ん…」
身もだえするリツコ。
「おお、気がついたぞ!?」
「先輩!」
抱きつかれて、リツコは生きているのだと実感した。
「でも、どうして?」
わからなかった。
ただ体がだるかった、とても…
泣きじゃくるマヤの髪をなでつける。
マヤが驚いたように顔を上げ、そして再び涙を溢れさせた。
その一瞬、顔がおかしいくらいに歪んでいた。
笑っちゃいけないわね…
自分のために泣いてくれているのだから…
気だるげに、再び体から力を抜いた。
「先輩?、先輩、先輩!」
眠らせてあげよう、疲れてるんだよ…
そんな声が聞こえてきた。
永遠に眠っても良かったのよ…
そう思いつつも、自分がなぜ助かったのかを考えていた。
思い当たる節はただ一つしか無い、あの黒いエヴァだ。
「あたし達以外の者の介入があるということね…」
プライドが刺激された。
「…そうね、眠ってなんていられないわ」
だから今は眠ることに決めた。
その後は働き詰めになるだろうから。
「このままじゃすまさないわよ、必ず…」
眠りに落ちる寸前、リツコは懐かしい風景を思い出していた。
母とゲンドウがいる、どこかの丘の上、大きな木の下で微笑んでいる。
懐かしいわね。
そしてリツコは眠りに落ちた。
その風景が、そのまま夢に出る眠りへと。
リツコの寝顔は、非常に穏やかで、あどけのないものであった。
続く
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