「時に西暦2015年」
 黒のバックに白い文字、表示は鮮やかなコントラストを放っていた。
「敵による本部直接強襲を受ける」
 テレビに肘をつき、逐一解説を入れているミサト。
「使徒による適格者の捕獲」
 絵が切り替わる。
 そこに映し出されたのはレイだ、サキエルによって吊し上げられている。
「エヴァ・オリジナル・コアマン、碇シンジ」
 うわああああああ!
 レイに向かって走るシンジ。
 その背中が爆発に弾けた。
 画面を見ていたレイが、一瞬だけ眉をひそめる。
「捨て身の行動により、エヴァ・マスター・コアマン、綾波レイを救出する」
 次に映ったのは赤いエヴァテクターだった。
 便所からのそりと現れるエヴァテクターのアップ。
「惣流・アスカ・ラングレー」
 ATフィールドを展開し、次々と敵を打ち倒していく。
 その動きは訓練を受けたもののそれであった。
「初の実戦を経験、後にエヴァンゲリオン、エヴァリオンへの合体を果たす」
 テレビには、その過程も全て映し出されていた。
「結果的に未知のエヴァの介入により敵の司令官を取り逃すものの、経験ゼロの少女が初陣に挑み、これを完遂せしめた事実は特筆に値するものである」
 小指を立ててマイクを握っている、そのミサトの表情がいきなり陰った。
「しかし保護者代行としてはさらなる問題点を浮き彫りにし、多々の反省点を促す恥ずかし〜い戦闘であった」
きゃああああああああ!
 いきなりアスカはテレビに飛び付き、背中で画面を覆い隠した。
「なんや、見えへんぞぉ!」
「そうだそうだ!」
 やじを飛ばすバカがふたぁり。
「うっさい、なんでこんなとこまで撮ってんのよ!」
 そこに映し出されていたのは、エヴァテクターを解除して「へくち!」っと可愛らしくくしゃみをしているアスカの姿であった。
 山林の中、もちろん素っ裸だ。
 その横にはエヴァテクターのままで気を失っているシンジが転がっている。
「人権問題よ!、こんなのただの盗み録りじゃない!」
「問題無い」
 ソファーでお茶をすすっていたゲンドウは、くいっと眼鏡を持ち上げた。
「ちゃんとモザイクはかけてある、プライバシーの保護は最優先事項だからな」
「顔にかけたってしょうがないでしょうが!」
 アスカは「ひーん!」っと泣き笑いで反論した。

第八話 勇者志願

「何泣いてるの?」
 そのアスカの頭を、ぽんぽんっと軽く叩いて慰めるレイ。
「あ、あんたバカァ!?」
 顔を真っ赤にして、アスカはその手を振り払った。
「このあたしのグッドでナイスなバディが衆目に晒されちゃったのよ!?、その上録画までされちゃって…、ビデオ屋にでも出まわったらどうするつもりよ!」
 売らない売らないっと、手をぱたぱたと動かし否定するミサト。
「大体あんただってそうよ!」
 ビシッとアスカは指差した。
「わたし?」
「そうよ!、いっつもほいほいほいほい肌さらしてさ!、あんたそれで恥ずかしくないの!?」
「別に?」
 レイはきょとんと言い返した。
「どこも恥ずかしいところは無いもの…」
 自分の身体を見下ろすレイ。
「それともあなたは、恥ずかしい体をしているの?」
 んな!
 その時アスカには、レイがくすっと笑っているように見えたわけで…
「違うわよ!、作りじゃないの!、見られたことが恥ずかしいのよ!」
 アスカは一同を見渡して言った。
「どうして男って、こうバカでスケベなのかしら!?」
「そ、それは違う、誤解だよ!」
 それに対して、ケンスケが慌てて抗議を試みた。
「そや!、これは次の戦いに備えてのためのやなぁ!」
 同調するトウジ。
「誤解も六階もないわ!」
 ヒカリの目に涙が光る。
「みんな不潔、不潔よぉ!」
「ちょ、ちょお待ちいや!、なんで委員長が泣くねん!」
「そうだよ、資料なんだ!、別にやましいことはないんだからさ!」
「「じゃあそのディスクはなんなのよ!」」
 同時に突っ込むヒカリとアスカ。
 ケンスケは「うっ」と、ダビング用に用意していたディスクを急いで隠した。
「全くあんたが無頓着だから…って!、あんた何ぼうっとおんなじとこ見てんのよ!」
 レイはうっとりとして、リピートをかけて同じ場面に見惚れていた。
「碇君…」
 レイのためにシンジが身を投げ出したシーンだった。
「っかあああああ!、自分の世界に入ってんじゃないわよ!」
 地団駄を踏むアスカ。
「なに妬きもちを焼いているの?」
「うっ!」
 レイの素朴な疑問に、アスカは思わず後ずさった。
「碇君が大切に想ってくれているのはわたし、だからあなたには関係無いのに…」
 おお!
 トウジ、ケンスケ、ミサトがどよめいた。
「聞きましたか?、所長!」
「うむ、シンジめ」
 ぎゅう。
 何故だか拳を握りこんでいる。
「あ、あ、あ、あんたバカァ!?、これ見て言うことがそれだなんて、ほんっとどうかしてんじゃないの!?」
 アスカはレイとテレビとの間に割り込んだ。
 ムッとするレイ。
「どういうことなの?」
「うまくいったから良いようなものの、へたすりゃ死んでるところだったのよ?」
 レイはぽっと頬を赤らめた。
「だって、これは命を投げ出してもいいと言う、碇君の気持ちの現れだもの…、だから嬉しいの、いけない?」
 レイは首を傾げて問い返した。
「碇君の本当の気持ち、嘘のない気持ち、一番大切に思ってくれてる証し、だから嬉しいの…」
「そんなの、ただあいつが暴走しちゃっただけじゃない!」
 そんなレイにアスカは頭をかきむしる。
「それに残念ね!、あいつはっきり言ったわよ?、あたしのことを好きだって、好きなままでいるって!」
 言わせたってことは、プライド上削除されている。
「違う、それは未練よ、好きではないわ…」
「なんですって!?」
「いずれ断ち切る、捨て去る想い…、可哀想に、捨てられてしまうのね、あなた」
「勝手に決めてんじゃないわよ!」
 唾が飛んだ。
 ムッと眉根を寄せるレイ。
「いいえ、それが真実よ、一時の気持ち、ただの気の迷い」
「迷わせてるのは、あんたでしょうが!」
 勢いでレイの胸倉をつかむアスカ。
「あいつが憧れてるのはあたしよ!、あたしみたいになりたいって、あいつはちゃんと言ったもんね!」
 いや、それはやめといた方が…
 みんなは密かに心で突っ込む。
 鼻面を突き合わせる二人。
 アスカは勝ち誇るようにテーブルに片足を乗せた。
 だがレイは口元に張り付かせた笑みを消さない。
「ならやっぱり、あなたはいつかいらなくなるのね?」
「なんですって?」
 その台詞に、アスカの顔が凍り付いた。
「今なんて言ったの!?」
 アスカは角を生やして睨みつけた。
「碇君が求めているのは心よ?」
 だがレイには通じない。
「碇君が求めているものはわたしの中にあるもの、見た目じゃないわ…」
「あいつが血迷ってるってぇの?、この体に!」
 アスカは胸元に手を当てた。
「でもま、無理もないわねぇ?、そぉんなぺッタン胸じゃ欲情なんてするわけないもの」
 流し目をくれるアスカ。
「…知らないの?、碇君は小さい方が好みなのよ」
 レイはふっと蔑むように笑った。
「碇君が好きなのは、脂肪の塊じゃないわ…」
「でもあいつはあたしを見れなかったわよ、エヴァの中で!」
「わたしは抱きしめてもらったけど…」
「大体、何であんたがシンジの好みを知ってんのよ!」
「所長が教えてくれたもの…」
「おじ様ぁ〜?」
 ぎぎぎっと、首が音を立てて動いた。
「いや、それは葛城君が!」
「所長の命令で仕方なく!」
 こそこそと逃げ出そうとしていた二人。
「所長!、ここは男らしく」
「何を言うか!、恋愛についてのレクチャーは君に一任してあるはずだ!」
「ああ!、ずっこい!」
「みんな不潔、不潔よぉ!」
「シンジィ〜」
「あいつリンチや」
 そのバックで涙する三人。
「ああもう、うっさいわね、黙っててよ!」
「「「はい」」」
「あんたそんな手でシンジの気を引いて、恥ずかしくないわけ!?」
「エヴァは心が形作る物…」
 レイはリモコンをいじって、アスカとシンジのエヴァリオンを映し出した。
「不細工ね」
 そして次に自分のエヴァリオンを表示する。
「どう?、これが美しい心と言うものよ?」
 にやり。
 レイはわざとゲンドウの真似をした。
「そんな風に見ていたのか、レイ!」
 背後でちょっと傷つくゲンドウ。
「うっさい、うっさい、うっさい!」
 ついにアスカは切れてしまった。
 しかしレイは容赦をしない。
「碇君が望んでいるのはわたし、大切にしているのもわたし、あなたじゃないわ」
「あいつが本当に好きなのはこのあたしだけよ!」
「どうして…、そんなことがわかるの?」
「だってあいつが自分でそう言ったもの!、それがエヴァってもんじゃないの!?」
「違うわ、碇君はただ引きずっているだけよ、それは碇君の望みではないわ」
「あんたあたしにケンカ売ってんの!?」
「望む所だわ」
 そして二人の視線がぶつかり合った。
 過激にショートし、火花が飛び散る。
 二人は同時にドアに向かって歩き出した。
「センセも災難やのぉ、なぁケンスケ?」
「もったいないぃ〜…」
「これもシナリオの内と言うわけですか?、碇所長」
「シンジめ…」
 ビーーー!
 何だかよくわからない空気に汚染されつつある居間。
 その空気をはらいのけたのは、耳に触るような非常警戒音だった。


 その頃シンジが何をしていたかと言うと…
「やめてよ、ケンカするなら僕を挟むのはやめてよ…」
 と、なにやら切羽詰まった夢にうなされていた。


「使徒、まだ来るの!?」
 発令所で、ミサトは湖に居座る巨大な存在に目を細めていた。
 一番高い司令席にゲンドウが居る。
 子供達はミサトの背後に控えていた。
「ああ、パターン青、間違い無い、使徒だな…」
 データをチェックするゲンドウ。
「だがデータにないタイプだ、どうするかね、葛城君?」
 ミサトは振り返ると、レイとアスカ、それぞれと視線を合わせて頷いた。
「出撃…、いいわね?」
 こくんと頷き返す二人。
 そして同時に横を向き、お互いキッと睨み合った。
「なによ、あんたやる気なの?」
「あなたはいらないわ、わたしが倒すもの…」
「うっさいわねぇ、負け続けのくせに」
 高飛車に笑みを浮かべるアスカ。
「あんなのこのあたし一人で、おちゃのこさいさいよ!」
「それで負けたら、笑ってあげるわ…」
 それはそれで見物かもしれんな…
 ちょっぴりいけない期待してしまうゲンドウであった。



[BACK][TOP][NEXT]