「こんのぉ!」
スマッシュホークを振り上げる、アスカはその斧を使徒に向かって叩きつけた。
ガイン!
思った通りに、ATフィールドで弾き返されてしまう。
「くっ!」
アスカは使徒の眼孔、その奥の危険な光に気がついて、慌てて横へ飛びのいた。
カッ!
閃光が放たれ、アスカの居た位置に炎が吹きあがる、十字架の形をした炎が。
パッ!
その炎を貫いて、陽電子が使徒を襲った、レイだ。
ポジトロンライフルを構えている、そのケーブルは背中のコンセントへと繋がれていた。
「てぃやぁああああ!」
スマッシュホークを横に振る、使徒のATフィールドはレイの攻撃を受け止めるので精一杯だ。
いける!
だがアスカの確信は外れた、使徒はふわりと浮き上がり、レイの真正面に降り立った。
スマッシュホークは空を切る。
「きゃあ!」
「レイ!」
使徒に向かってスマッシュホークを投げ付ける。
ブオンブオンブオンと音を立てて回転し、それは使徒の背中に突き立った。
グルゥオオオオオ!
使徒の目に違う光が初めて宿った。
「効いてる!?」
「くぅ!」
だが使徒はレイを逃がさなかった、左右対称に、両側からレイをつかみ、持ち上げる。
ズガン!
「きゃあああああああ!」
両腕をつかまれたままで、レイは使徒の放つ炎に焼かれた。
「レイィーーー!」
突撃するアスカ。
ガン!
しかしアスカは壁にぶち当たり、それ以上は進めなかった。
「このっ、この、このぉ!」
必死になって壁を叩く、殴る、掻く、だが破れない。
「なんでよ、何で破れないのよ?、これじゃあいつが死んじゃうじゃない!」
ぐぐっと、レイのエヴァが顔を上げた。
「なによ、あんたなんでそんな目であたしを見んのよ!」
レイのエヴァの一つ目が、じいっとアスカを見つめている。
「いい…、これで良いの」
「あんた何言ってんのよ!」
アスカはレイの体に異常な力の高まりを感じて焦った。
「あんたまさか自爆するつもりなの!?」
アスカの叫びに、声を失うミサト。
むうっと、ゲンドウも渋い顔をする。
「綾波さん!」
「綾波、なに無茶すんのや!」
二人はミサトの持つマイクに向かって叫んでいた。
「…良い、だって、わたしが死んでも、あなたがいるもの」
レイはアスカだけを見ていた。
「お願い、碇君を…」
「そんな勝手、許さないわよ!」
アスカのエヴァの左肩の装甲からナイフが現れた。
それを握るアスカ。
「あんたが死んだら代わりはいないのよ?、わかってんの!?」
はっとするレイ。
「代わり…」
「そうよ!、あいつはあたしに憧れてんのよ?、そのあたしが守れなかったら、あいつがあたしにこだわる理由が無くなっちゃうじゃないのよ!」
バシュ!
エヴァの仮面が開かれた、四つの瞳が妖しく光る。
「負けらんないのよ、誰にも、このあたしは、あいつのためにも!」
アスカはナイフを壁に突き立てた。
「あたしはあいつの憧れなんだからぁ!」
ギチィイイイイ!っと火花が散った、まるでアスカの心の様に。
「今助けてあげるから、ちょっとそこで待ってなさいよ!」
バシュン!
ATフィールドに切れ目が入った、後は簡単に裂けてしまう。
「嘘!、ATフィールドを破るなんて!?」
驚きの声を上げるミサト。
「ていやぁああああ!」
ガコォン!
アスカの体当たりに、使徒二体はレイを捕まえたまま、一緒になって倒れ込んだ。
派手に土煙が舞う。
「うっ!」
アスカのくぐもった声が聞こえた。
「アスカ、大丈夫なの!?」
赤いエヴァは体を震わせるだけで、中々起き上がろうとはしない。
「ああ!、敵が!?」
ヒカリが使徒を指差した。
ぐぐっと、まるで何事も無かったかの様に起き上がる。
アスカは脇腹を抑えて苦しんでいた。
使徒がアスカを睨みつけても。
「…やだな、ここまでなの?」
せっかくこいつを助けたのに…
アスカの下にはレイのエヴァが転がっていた。
「…まずい、こいつはマズイよ!」
裏山の中ほどで、ケンスケはその様子を見守っていた。
「でも、チャンスだよな?」
ごくっと喉が鳴る、ケンスケは震える手でインターフェースを髪に付けた。
「よし、行くぞ!」
決意に満ちた瞳で使徒を見る、そしてケンスケは空へ向かって大きく叫んだ。
「エヴァンゲリオーン!」
…と。
「葛城君…」
落ち着いた声を掛けるゲンドウ。
「はい」
こんな時に何事かと、ミサトはゲンドウを振り仰いだ。
「シンジを起こせ」
すっとミサトは息を呑んでしまった。
その瞳がゲンドウの正気を疑っている。
「で、ですがまだ!」
焦るミサト、ミサトの計算では、シンジが回復するにはまだ、時間が早過ぎたのだ。
「死んでいるわけではない」
アスカが悲鳴を上げている。
「手遅れになる、急ぎたまえ」
ガイン、ドゴォオオン…
だがそのゲンドウの言葉をかき消すような轟音が響き轟いた。
使徒が転がっている。
「え?」
その時、瞬時に状況を悟った者はいなかった。
全員が目を疑う、その巨人に。
「エヴァンゲリオン・オリジナル?」
ミサトがオペレーター席に着いた。
「ケンスケ君!?」
エヴァからフィードバックされてくる情報は、確かにケンスケを指し示していた。
やれるじゃないか、俺にだってやれるんじゃないか!
ケンスケは調子に乗って、肩の装甲からナイフを抜いた。
このぉ!
使徒に踊りかかる、馬乗りになり、そのコアにナイフを突き立てる。
「今だわ、アスカ!」
「こんちっくしょぉおおお!」
アスカもナイフを拾い上げて飛び付いた。
残りの一体のコアに突き立てる。
「片方のコアに不都合が起こればATフィールドは張れないわ!」
「ああ、勝ったな…」
ズガァアアアアアン!
数秒もせずに使徒が爆発を起こした。
木々が吹き飛び、湖が大きくさざめき立つ。
「アスカ、レイは!?」
オレンジ色のエヴァを抱き起こすアスカ。
「…大丈夫、生きてるわよ」
「はい…、それより、あの人を…」
ケンスケを見るレイ。
「あ、はは…、やったよ、やりました!、見ましたか?、俺にもできたんだ、凄いよ!」
一人で喜んでいるケンスケ。
「いかん、相田君、早く変身を解くのだ!」
「なんでですか、凄いや、これがエヴァなんだ、エヴァの力なんだ…、うっ!」
急に苦悶の声を漏らした。
「う、ううう、うわああああ!」
ガコン、額部ジョイントが外れた。
「うわ、うわあ、うわああああ!」
右手で頭を抑え、ふらつき出す。
「いかん!、魂を食いつくされるぞ!」
「何よ、一体どうしたって言うのよ!?」
ゲンドウの叫びに脅えてしまう。
「暴走…」
レイの呟きが耳朶を打った。
「暴走って…、そんな!」
アスカは脅えた声を漏らしてしまった。
「心の暴走だ、エヴァは心を具現化する、その想いが他人では無く自分の私欲に向けられた時、エヴァはその欲望を際限無く食いつくそうとしてしまうのだ!」
自分の欲求を満たすために。
自分一人の欲望を満たすために。
渇望する全てを求めて。
「だから相田君には無理だって言ったのよ!」
「早く相田君を止めるのだ!」
「と、止めるって言ったって…」
アスカは手をこまねいていた。
「そ、そんなのに変身してたの?、あたし達…」
その恐怖心が、アスカのエヴァから力を失わせていく。
「え?」
突如エヴァ・オリジナルがアスカに顔を向けた。
その瞳に危険な色が宿っている。
「きゃあ!」
ガコォン!
オリジナルがパンチを繰り出していた、届くはずのない距離で、だがアスカはしっかりと殴り飛ばされていた。
「ATフィールド!?」
「ああ、新しい使い方だな…」
分析するミサトとゲンドウ。
「バカにしやがって…、俺をバカにしやがって…」
スピーカーからぶつぶつとケンスケの声が聞こえて来る。
「俺をバカにしやがって、どいつもこいつもバカにしやがって…、俺にだってやれるんだ!、その証拠を見せてやる!」
「きゃああああああ!」
アスカは成す術も無く殴り飛ばされていた。
ズウンと地響きを立てて地面に転がる。
「…わたしが相手をするわ」
レイがゆっくりと立ち上がった。
まるでアスカを守るように立ちふさがる。
「レイ!、ダメよ後退して!!」
誰の目にも、レイのダメージが抜け切っていないのは明らかだった。
だがレイは下がろうとしない。
「…さっき彼女が言ったわ」
レイはちらりとアスカを見た。
アスカは頭を振って、意識をはっきりさせようとしている。
「代わりは居ないって…、なら、彼が死んでも碇君は悲しむもの…」
「レイ…、あんた」
アスカはそのセリフにレイを見上げた。
オリジナルを睨みつけたまま、手を差し出すレイ。
「合体しましょう」
そして最後の決断をした。
「でも…、あんた…」
「本当は嫌いかもしれない、碇君が好きなあなたとなんて、一緒になるのは嫌、でも…」
「そうね…」
アスカはその手を借りて立ちあがった。
ぐぐっと体を屈めるように、二人はオリジナルを睨みつける。
「でも、碇君が悲しむのはもっと嫌」
「泣きそうなあいつなんて見たくない」
「「だから、今は!」」
二人は同時に飛び上がっていた。
それを追い、見上げるエヴァ・オリジナル。
「させるかよ!」
オリジナルの腕が一瞬消え、拳銃のような武器を握って現れた。
「まずいわ、合体中は無防備に!」
ミサトの焦りは通じなかった。
パンパンパン!
三連射するオリジナル。
…だが。
「なんだって!?」
陽光の中で二体のエヴァが合体を始めていた。
その手前にATフィールドが展開されている。
「まさか、黒いエヴァンゲリオン!」
そいつはアスカ達を守るように、背後に二人と太陽を背負って、ケンスケに踊りかかり飛び付いた。
「うわぁあ!」
ズガァン!っと、二人の巨人は絡まるように転がりこける。
「あのエヴァは!」
「むう!」
ゲンドウも席を蹴って立ちあがっていた。
「ど、どうなってるの?、鈴原…、あれ?」
姿が見えない。
「鈴原?、鈴原…、もう!、こんな時にどこ行っちゃったのかしら?」
ヒカリには、いつからトウジが居なくなっていたのか、まったくわかっていなかった。
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