二人の混濁した意識が混ざり合っている。
 嫌悪感が一つになることを拒んでいた、だがその中で、唯一シンジのためだと言う想いだけが掛け橋となって存在し、繋がっていた。
「そう!、これはあのバカシンジのためなんだからね!」
 ビシッと指差すアスカ、二人は境界線も作り出せないほどに、ごちゃごちゃと混ざり合うお互いの心の中に居た。
「何よその目は?」
 くっと顎を引き、睨みつけるアスカ。
「あたしは前からその目が気に入らなかったのよ!、物欲しげに、人をうらやむように、なんなのよ、一体!」
 レイは二三度ぱくぱくと口を動かしてから、言葉にして答えて返した。
「…わからないの」
 とただ一言だけ。
「わからないって、何がよ?」
 怪訝そうにアスカ。
「なぜ、碇君はあなたのことを好きになったの?」
「そんなのあったりまえじゃない!」
 アスカは胸を張った。
「内罰的でウジウジしててさ!、そりゃああたしみたいに、自信に溢れた魅力ある女の子に転ぶって言うのもわかるってもんよ、そうでしょ?」
 唇を噛み、視線をそらすレイ。
「…どうして碇君はわたしを好きにはなってくれないの?」
 はあ?
 今度はアスカが疑問符を投げかける番だった。
「あんたバカァ?、あいつきっちりあんたにも惚れてんじゃない」
 苦渋に満ちた想い。
 だがアスカは認めていた、認めないと先へ進めないからだ。
「…だと、良い」
 だがそう言われても、レイの声には精彩が欠けていた。
 少しも喜んでいる様子が無い。
「けど、違うもの」
 レイはアスカを見た。
「わたしとあなた、向けられているものが違うもの…」
「あんた…」
 アスカは戸惑った。
 一瞬だけレイの心が見えてしまったのだ。
 透き通るほどに純粋な想い。
 シンジに好かれたいと言う願いが、アスカの心を貫いていた。
「そんなの…、贅沢じゃない…」
 まっすぐにレイを見れなくなるアスカ。
「あんたは一番大事にされてんのよ?、だったら…、だったらシンジの求めるものぐらい、あたしに持たせてくれたっていいじゃない…」
 顔を背けるアスカ、その背後にレイもまたアスカの心を覗いてしまっていた…
 甘えたい、優しくされたいという、普段のアスカとはまるで正反対の望みの姿が…
 それにダブるのは、レイとシンジのいちゃつく姿だ。
「あなたも?」
「そうよ、悪い?」
 あんたとシンジの関係に憧れてんのよ…
 アスカはむくれて、そう告げた。
「でも…、でもしょうがないじゃない、約束しちゃったのよ…」
 シンジに。
 シンジと。
 アスカはその約束を教えた。
 あたしを好きなままでいるって。
 それで、あんたのことも大切にしろって。
 約束させちゃったのよ、あいつに…
 言葉にしなくとも、その声はレイに届いていた。
「アスカ…」
 はっとするアスカ。
「…あんた、ようやくあたしの名前を呼んだわね?」
「そう?」
 小首を傾げるレイ。
「そうよ、そう…」
 はにかむような笑みがアスカの口元に現れる。
「あたし、バカみたいね…」
 アスカは一歩を踏み出した。
「あいつに好かれるためには、逃げるようなことしちゃいけないのに…」
 そしてレイと手を繋ぐ。
「あんたから逃げようとしてたなんて…」
 そしてアスカは心を開いた。
「見て?」
 レイに微笑みかける。
「これがあたしの想いよ?」
 瞳を閉じるレイ。
 胸の中を、アスカの想いが駆け抜けていく。
「碇君…」
 レイは確かに、その中にシンジの存在を感じていた。


「いったぁ!、何やってんの、もっと優しく入ってこれないの!?」
「あなた狭いんだもの…」
「ガバガバよりはマシでしょうが!」
 あいかわず合体の時には下品な会話が飛び交ってしまう。
 ヒカリはもうコメントする気にすらならなかった。
 ズガァン!
 赤と白、新しく誕生したエヴァリオンが、地響きを立てて地面に降り立った。
 すらりとした足、大きめの胸、それはトップモデルのような均整を保っていた。
 ぐぐっとその顔をオリジナルに向ける。
「く、くそ!」
 焦るケンスケ、と、その前から黒いエヴァが飛びのいた。
「え?」
 唖然とする一同。
 ケンスケはその隙を見逃さなかった。
「ポジトロンスナイパーライフル!」
 がしゃっと構えるオリジナル。
「ち、レイ、避けるわよ!」
「右へ」
「左よ!」
 てんでばらばらに動いた、足をもつれさせてこけるエヴァリオン。
「あちゃー…」
 ミサトは手で顔を覆い隠して、天を仰いでしまった。
 ゴォオオン!
 倒れたエヴァリオンの上を光線が走っていった、それはその向こうの山を吹き飛ばす。
「アスカ、レイ、何やってんの!」
「うっさい!、こいつがあたしに合わせないからよ!」
「戦いはわたしの方が慣れているわ」
 またケンカを始める二人。
「あんたじゃ頼りないのよ、さっきもやられてたくせに!」
「碇君のエヴァはわたしの手で取り戻すの…」
「ああ!、そんなこと考えてたのね!、あんたわ!」
「碇君の感謝は、わたしが貰ったわ」
 ニヤリと言う擬音が聞こえて来そうな口調だった。
「そうはいかないわよ!、シンジはあたしが貰うんだから!」
 さらりと本音を言うアスカ。<BR>  ずいっと一歩を踏み出すエヴァリオン。
「ダメよ、わたしの力で取り返すの」
 エヴァリオンはさらに一歩を踏み出した。
「碇君にキスしてもらうの」
「あんたなに言ってんのよ!」
「キス、感謝の行為、一部的接触…、でないと不公平だもの…」
「あ、あ、あんた!」
 エヴァリオンの上半身が赤く赤く発光した。
「あんたそんなことまで覗いたのねぇ!」
 そして蒸気を吹き出した。
「シンジめ…」
「やるじゃない、シンジ君」
 耳を塞いでいるのはヒカリだ。
「そんなこと絶対にさせないから!」
「じゃあ止めてみせるのね?」
「もちろんよ!、あいつはあたしが倒すの!」
「わたしよ」
「あたし!」
「俺を無視するなぁ!」
 ケンスケがついにぶち切れた。
 その叫びに反応する二人。
「「うるさい!」」
 カッ!
 その四つの目から、謎の光が放たれた。
「そんなバカなぁ!」
 ゴォン!と爆発に尻餅をつくケンスケ。
「あんたはちょっと…」
「黙ってて!」
 その瞬間、二人のハーモニクスは限界数値を記録していた。
「うわあああああ…」
「哀れやのぉ…」
 それを見ながら、トウジはやっぱり館の屋根の上で呟いていた。


 ちなみにその頃、シンジはと言えば…
「ミサトさぁん…」
 …その言葉がチェックされているとも知らずに、なんだか怪しげな寝言を呟いていたのであった。



続く



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