サナギが崩壊する。
 ゴムボールが、風船が弾けるように、頂点に穴が開き、一気にしぼんでいく。
 黒き月はさらに加速し、光速の50%を超えて冥王星を通り過ぎた。
 そのサナギの裂け目から姿を見せるエヴァンゲリオンとペンペン、それに謎の使徒。
 リョウジはじっと何かを待っていた。
「なによあれぇ!」
 アスカは驚き、ブレーキを掛けようとした。
 正面の空間がいきなりひび割れたのだ。
 ズガァン!
 飛び出して来た何かが、エヴァ達を蹴散らしサナギを貫き黒き月に縫い止めた。
「うっく…」
 加持は頭を振りながら起き上がった。
 真横に白い壁がある。
「…よぉ」
 ガギエルだ。
 片手を上げる。
「遅かったじゃないか」
 その後すぐに、サナギは炎を吹き上げた。


(くぅ!)
 ガウン、ガウンと、月の上をバウンドする。
 シンジはエヴァのコントロールを取り戻すと、その指先を月の外壁に食い込ませることに成功していた。
(振り落とされる!?)
 加速が凄過ぎる、いつ弾き飛ばされるか分からない。
「きゃあ!」
(マユミさん!)
 シンジは思わず手を伸ばした。
 片手でなんとか捉まえる。
(くぅ!)
 腕が引きちぎられそうになってしまった。
「離してください!」
 マユミはその辛そうな声に泣き叫んだ。
「わたしは大丈夫ですから!」
(できるわけないだろ、そんなこと!)
 シンジの言葉には、言葉以上のものがこもっていた。
 もう外宇宙に出てしまっている。
 いくら使徒と言えども、この何も無い世界から帰還するためには、相当な苦労を強いられるだろう。
(マユミさんにそれができるの!?)
 この寂しい世界に置き去りにされて…
「それは…」
(碇君、あれを見て!)
 月の真上で吹きあがる炎。
 そこにガギエルの白い船体が見えた。
(ペンペン!)
(レイ!?)
 エヴァの胸部装甲が開いた。
「うわぁ!」
 そのみぞおちの辺りから、シンジがずるりと放り出される。
「危ない!」
 マユミは両手で顔を被った。
 ぱくっ!
 しかし後方に流れかけたシンジを、ペンペンはその口に飲み込んだ。
 ペンペンの目が一瞬エヴァと視線を合わせる。
(行って…)
 レイは軽く頷いた。
 ゴオオオオオ!
 ペンペンの足から、プラズマジェットの炎が伸びた。
 ゆっくりと月の加速を上回り、ガギエルの飛び込んだ空間の穴へと進み出す。
(これで…、いいのね?)
 レイは誰にでも無く呟いた。
 シンジを連れて飛び込んでいくペンペン。
(レイさん!)
 マユミが叫ぶ、しかしレイは力尽き、意識を失い、目を閉じていた。


 ゴォウ!
 空間を抜けた。
 かぱぁっと口を開けるペンペン。
「ここは…」
 背後の空間の裂け目は消えてしまっていた。
 その中から、ペンペンの口内に手を突き、シンジが姿を見せる。
「あれは?」
 目を細める。
 大きな星がある。
 地球と同じ青い色。
 シンジのヘルメットのバイザーに、美しい水の玉が映り込んでいる。
 でも、違う…
 それはもっとずっと寂しい色をしていた。
「そうか、ここは!」
 思い出す。
 帝国ゼーレ、そしてその星こそが…
「母さんの生まれた星なんだ…」
 シンジは複雑な心境のままで、その星の姿をその目にしっかりと焼き付けていた。



続く



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