「なんやこりゃ!?」
 驚きに声を上げるトウジ。
 レイを包む金色の球体、その表面から染み出した液体は、赤く変色しながら滴り落ちた。
「水が…」
 恐怖を顔に張り付かせるシンジ。
 血?、血の味だ…
 はっとして見上げる。
「綾波ーーー!」
 カヲルが右手を差し出していた。
 ずぶりと、何の抵抗もなく球体の壁を突き破り、レイの体の中へと入っていく。
 …君の心が閉ざされていて助かったよ。
 レイの背中から入り込み、レイの心臓を探り当てた。
 さあ、おいでアダムより生まれしリリスの分身…
 閃光が二人の体から発せられる。
「融合を果たすつもりか?」
「あるいは破滅を導く為か…」
 順番にモノリス達が消えていく。
 まるで光に負けるように。
「シンジくーん!」
 マヤははっとして、手でメガホンを作って叫んでいた。
「変身するのよ!」
「でも!」
 マヤは全てを理解していた。
「エヴァの廃棄場よ!」
 廃棄…、まさか!
 シンジはぞっとした。
 エヴァの死体。
 それもまた間違いなく、エヴァを構成しているものであったから。


「誰?」
 レイは人の気配に顔を上げた。
「僕だよ…」
 素肌のレイの前に、同じく素裸の少年が現われた。
 しかし少年は安定しないのか?、少女と少年の二つの形の間で揺らいでいる。
「どうして嘘をつくんだい?」
「嘘?」
 レイは唐突な言葉にも薄い反応を返した。
「帰りを待っていてくれる人…、お帰りなさいと迎えてくれる人が居るということは幸せに繋がる…」
 二人の間に少年が現われた。
「碇君…」
 何も言わず、何も見ていない。
 辛い…
 レイは顔をそらした。
「ほら、嘘をついた…」
 カヲルは微笑んだ。
「彼の心を殺しているのは君自身さ…」
「わたし?」
 そうだよ、と頷く。
「彼の心を否定するから、彼の心は君には無いのと同じになる」
「違う…」
「極端に恐れるんだね?、触れ合いを…」
 レイは立てた膝の間に顔を伏せた。
「…わたしには、受け入れられないもの」
「人は永久に寂しさから逃れることは出来ない…」
 シンジが消えた。
「でも忘れることができるから、人は生きていけるのさ」
「生きて…」
「そう、君には忘れさせてくれる人は居ないのかい?」
 …碇君?
 叫びが聞こえた。
「綾波ぃ!」
 待ってて、すぐに戻って来るから!
 碇君…
 レイは久しぶりの声に涙を溢れさせた。
 ぽたぽたと膝の上で跳ねた滴に驚く。
 両手でそれを受け止める。
「泣いてる?、泣いてるの?、あたし…」
 何故?
 分からない。
 碇君がすぐそこにいる、来てくれた、それだけなのに…
 ほら…、とカヲルは微笑んだ。
「悲鳴を上げている、君の心が聞こえるだろう?」
 はっとするレイ。
「なら君はここに居るべきじゃない…」
「そう…」
「もう終わりにしよう…」
 顔を上げるレイ。
「君は人と並び、歩いていくべきだよ…」
「あなたと?」
 苦笑するカヲル。
「いいや、彼とさ」
 碇君…
「おいでアダムの分身、そしてリリスの子」
「碇君…」
 少年にシンジの姿がだぶる。
 くす、くすくす…
 誰かの含み笑いが聞こえた。
「誰?」
 二人の見つめている先に、小さな女の子が立っていた。
「誰なの?」
「レイ…」
 女の子は嫌らしい笑みを浮かべて答えた。
 うつむいていて顔は分からない。
「それはわたしよ?」
 それに対して女の子は、さらに嘲るような笑みを作った。


 ゴォンゴォンゴォン…
 月の上部の一部が開いた。
 そこから赤いエヴァンゲリオンが片膝をつき、エレベーターで上がって来る。
 その片手に握っているのは穂先に剣の付いた柄の長い武器、ソニックグレイヴ。
 それを肩に立てかけるようにしてもっている。
 顔を上げるアスカ。
(!?)
 その目に写ったのは、死肉にたかるカラスのようなエヴァの姿。
 バサバサと翼を羽ばたかせ、マユミであった使徒に食いつき食い散らかしている。
 引きちぎられる肉体、血しぶきが白いエヴァを汚していく。
 へし折った腕の中から液体をすするエヴァ。
 胴体を食いちぎり租借するエヴァ。
 その全ては全部アスカと同じエヴァだ。
(いやあああああああああ!)
 だからアスカは、かぶりを振って泣き叫んでいた。



続く



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