(返してもらうわよ!)
 アスカはマユミのはまっている部分を見つけ出した。
 うまい具合に食いちぎられており、そこの部分だけを小脇に抱える。
(ミサト!)
 バックステップしてエヴァを蹴り飛ばし、アスカは退路を確保した。
(回収して!)
 素早く下がり、開かれた入り口にマユミのはまっている肉片を放り込む。
(助けたわよ!)
 振り返る。
(!?)
 剣が真っ直ぐに飛んで来た。
(甘いわよ!)
 右腕を大きく凪ぐ、生まれたATフィールドが、剣を一瞬だけ受け止めた。
 嘘!?
 その剣がねじれるように変形する。
(槍!?)
 その形状はロンギヌスの槍であった。
(あっ!)
 槍は壁を貫いて、アスカの顔面を串刺しにした。


 変化は急速に起こっていた。
「なんなの!?」
 マヤの目の前でレイの上半身が、天井を突き抜けて巨大化していく。
 物質をすり抜けているの!?
 マヤも急ぎ、逃げ出した。


「こらバカシンジ、さっさと起きなさいよ!」
 はっと目を覚ますシンジ。
 ゆっくりと大きく開いたまなこで見る。
「アスカ!?」
「なによ!」
 シンジの勢いにたじろぐ。
 どうして、ここに?
 ここはどこ?
 僕は…
 シンジはぐるっと見回した。
 なんだ僕の部屋じゃないか。
 アスカは起こしに来てくれたんだ。
 記憶が都合よく構築される。
「寝ぼけてんじゃないわよ!」
「うん、わかったから、あと五分だけ…」
 ドン!
 シンジは思いっきり飛び乗られて潰された。
 二人で学校へ向かい、教室に入る。
「おはよう、今日も仲がいいよな?」
 冷やかされ、真っ赤になる二人がいた。
 シンジはやれやれと鞄を机の上に置いた。
 と、一人の少女が視界に入る。
 綾波レイだ。
 レイは頬杖をついて、じっと窓の外を眺めている。
「お、なぁに見てるんだよシンジ!」
 ケンスケが抱きついて来た。
「お、なんや綾波か?」
 それに混ざって来るトウジ。
「ち、違うよ!」
 慌て照れて、ごまかしにかかる。
「わかっとるわかっとる」
「そうそう」
「お前にそんな度胸があるわけあらへんもんな?」
「え?」
 シンジはトウジの雰囲気が変わった事に気がついた。
「トウジ?」
「お前はうじうじしとって、恐いもんには笑ってごまかすだけの情けないやっちゃで…」
 シンジはじくじくと胸を傷める。
「なにを…、なにを言ってるんだよ、トウジ」
 思い出したくないものが込み上げる。
 トウジはバキバキと拳を鳴らした。
「こういうことやぁ!」
 ビリ!
 突如トウジだった物が縦に裂けた。
 その中から姿を現わしたのはエヴァだ。
 黒いエヴァが、トウジの皮を被っていた。
「ぐっ!?」
 首を締められるシンジ。
 トウジとシンジを残して、後の景色がぼやけていく。
 アスカ、助けてよアスカ!
 シンジはあえいで手を伸ばした。
 だがアスカは友達と話し込んでいて、シンジの叫びにも面倒臭そうな目を向けるだけ。
「アスカ…」
 泣きそうになるシンジ。
「人を恐がっとるくせに、なに甘い夢見とんねん!」
 エヴァの腕に血管が浮かび上がった、シンジの首を折りにかかる。
「やめて…、どうして、こんな…」
 シンジは一筋の涙を流した。
「自分の殻に閉じこもっとる奴が邪魔すんなや!」
 トウジはそのまま、床へとシンジを叩き付ける。
「痛い、痛いよ!」
 転がされ、弱音を吐くシンジ。
「邪魔なんや!、おんどれが!!」
 トウジはシンジを蹴り転がした。
「なんで!?」
 シンジの脳裏に、トウジに助けられた時の情景が蘇る。
「トウジは友達になってくれたじゃないか!」
「そんなもんをいつまで信じとんねん!」
 ピシ!
 突如空間に亀裂が走った。
「嘘だ!」
「なにがや!」
 シンジは大きく叫んでいた。
「トウジは本気だった、本当に僕を友達と思ってくれてた、助けてくれたじゃないか!」
「そう信じとんのは、お前だけや、騙されとったんは、お前だけや!」
 裂け目は教室を塵に変える。
「トウジ!」
 シンジの学生服も弾け飛んだ。
 頭にインターフェイスが現われる。
 そして殺し合いが始まった…


(シンジ!)
(トウジぃ!)
 がしぃん!っとぶつかり、手をつかみ合う。
(なんでだよ!)
(何度も言わすな!)
 力比べで、お互い顔をつきあわせる。
 黒いエヴァの瞳が光った。
 とっさに首を伸ばすように顔をそらせる。
 バシュ!っとシンジの頬を焼くように、強烈な閃光が駆け抜けた。
 それは真っ白な空間に吸い込まれていく。
(これから起こるインパクトが、ワシには、ハルカには必要なんや!)
 シンジの中に、トウジの意識が流れ込んだ。
(ワシにはあいつしかおらへんのや!)
 狂っている母がいた。
(ワシがついてたらなあかんのや!)
 トウジのエヴァの顎部が、ガコンと外れるように開かれた。
 グワッ!っと、シンジの喉笛に食らいつく。
(トウジ!)
 シンジは手を離し、トウジの喉を締めようとした。
(甘いわ!)
 解放されたトウジの手が一瞬かき消える。
(!?)
 それはシンジの一瞬の判断だった。
 がくんっ!
 トウジの消えた腕が、何かに引っ掛かったように戻ってくれなかった。
(なんやと!?)
 見ればシンジの腕も、肘から先が消えている。
(そないなことが!)
 ドン!
 シンジはトウジの腹部を蹴り飛ばした。
(僕たちを構成しているのは同じエヴァだからね、接触してるんなら素体となってる武器を奪う事だってできるさ)
(くそがぁ!)
 離れた事で、トウジはあらためてブレードを取り出した。
 他人の素体をなしている物質、武器を奪い取る。
 それはトウジが白銀のエヴァと合体したのと同じ理屈であり、逆の行いでもある。
(トウジ!)
 シンジもトウジよりは短い剣を抜いた。
 ダン!っと何もない空間を蹴る、トウジが振り下ろすのに対してシンジは横から薙ぎ払った。
((だあああああ!))
 シンジの脳天、トウジの脇腹で、局所的な壁が展開される。
 赤い光を散らしてブレードを受け止める。
(い、妹さんは…、ハルカちゃんは!)
 シンジは歯を食いしばりながら伝えた。
(こんなことをしても、レイの想いを、心を奪っても帰ってこないんだよ!)
(わかっとるわぁ!)
 トウジの叫びは力に変換されて、均衡を一気に押し潰す。
(うあ!、くっ!?)
 剣が肩口に食い込んだ。
(死ねやァ!)
(死ぬもんかァ!)
 シンジの叫びが剣を筋肉で押し返す。
(なんやと!?)
(うあああああ!)
 シンジは剣を捨てて、左手で刀身をつかみ払いのけた。
 指の幾本かが切れかける。
(トウジ!)
 シンジの抜いたプログナイフが、トウジの胸に突き立った。
(があっ!)
(うわあああああ!)
 ぐりぐりと深く胸にえぐり込む。
 刃が光り、エヴァの装甲を食い破っていた。
 トウジの声が一瞬弱まる。
(うわあああああ!)
 それでもやめないシンジの耳に、トウジの弱々しい声が届く。
(…ンジ)
(トウジ!?)
 はっと我に返るシンジ。
(それが甘いっちゅうんじゃあ!)
 突如としてトウジは勢いを取り戻した。
 振り上げられた刃が、シンジの右腕を斬り飛ばす。
(インパクトは起こる、起こしてみせるわ!)
 吠えるトウジ。
(腕が!)
 再成している暇は無い、シンジはATフィールドを全力で張った。
 ギギギギキン!
 剣が斜めに張られた壁の表面を滑っていく。
(インパクトが起きたら、みんな死ぬんだよ!)
 体が流れた隙を逃さず、シンジはがら空きになった腹部にボディーブローを叩き込む。
 ドガァン!っと吹き飛ぶトウジ。
(誰も助からないんだよ、誰も!)
(ちゃうわ!)
 飛び掛かり、さら殴りつけようとした腕を取らた。
(うわっ!)
 トウジの目からの光に顔を焼かれる。
(インパクトが起きる瞬間、あっちと繋がるんや!)
 トウジはナイフを取りだし、シンジの胸を貫いた。
(くう!)
(ガフの部屋と呼ばれる、魂の還る世界があるんや!)
(あああああ!)
 トウジの顎に手をかけ、押しのけようともがきあがく。
(わしが想ってやるんや、ATフィールドがあいつの形を作るんや、あいつの魂を形作るんや!)
(それじゃあ、扉を開く為に!)
(インパクトが必要なんやァ!)
 トウジの叫びと共に、その向こう側に巨大な円体が現われた。
(だからって、自分と同じ人を作ろうとするなんて!)
 黒ぶちの赤い皿。
(お前にワシのなにがわかるんじゃあ!)
(そんなのわかるわけないだろう!)
 だが二人は気にもとめない。
(あああああ!)
 獣じみた雄叫びを上げて、トウジの顎に手をかける。
 口を引き裂こうとしたシンジの指を、逆にトウジは噛み切った。
 殺し合いは、まだ続く。



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