「一体、どうして!?」
「帝国の勢力が消滅したんでね?、色々と摩擦が生じているのさ」
シンジはカヲルに振りむいた。
「摩擦?」
肩をすくめるトウジ。
「阿呆が恐いもんがおらんようになったとたん、今度はわしらの番やぁ言うてな?」
「権力者が居なくなれば、誰かが代わりになりたがるものさ…、結局は退治される運命にあったとしてもね?」
カヲルの隣に立つレイ。
「もう一度、碇君の力を借りたいの…」
そしてレイは怖々と尋ねた。
「力って…、トウジだっているのに!?」
「それがやなぁ…、どこからかアンチATフィールドの技術が漏れだしてしもうて…」
「なんだって!?、そんな、大変じゃないか!」
だが慌てたのはシンジだけだ。
「そう、大変なの」
くすくすと笑うファースト。
「だから、碇君に助けてもらいたいの」
「ちょっと待ちなさいよ!、またシンジにあんな辛い思いをさせようっての!?」
いきり立つアスカ。
「大丈夫さ」
そんなアスカをカヲルがなだめる。
「アンチATフィールドとはいえ、エヴァリオンの前には無力に等しいからね?」
「ほんとに?」
「ほんとさ」
「本当なのね?」
「大丈夫よん☆、誰もシンちゃんには叶わないから…って、アスカ?」
アスカは「くっくっくっくっくっ」と低く笑っていた。
思いっきり引いてしまうミサト。
「そう、そうなのね!、シンジ、行くわよ!」
「え?」
「あたし達の力は遅刻寸前の時の為じゃなくて、こういう為にあったのよ!」
「へ〜、アスカ、悪用してたのね?」
ミサトのジト目も気にしない。
「大丈夫さ、シンジ君」
「カヲル君?」
「僕もエヴァと同じ物でできているからね?、シンジ君さえ望んでくれれば一つになれ…」
ザシュ!
「うわわわわ!」
シンジは驚いて後ずさった。
カヲルの頭を、後頭部から高跳び用のバーが貫いたのだ。
投げたのはもちろんセカンドだ。
「やれやれ、君は無茶をするね?」
「か、カヲル君、大丈夫なの?」
「これくらいで死にはしないよ?」
ならどうなれば死ぬんだろう?
ちょっと恐くなって来る。
「まあ僕にもこれがあるからね?、シンジ君とは共に戦うよ」
カヲルは黒いインターフェイスを出して見せた。
「それは…」
「アスカちゃんを襲ったエヴァを封じ込めたものさ、彼女が運んでくれたからね?、残しておいたんだよ」
「残してって…」
それはセカンドが巨大なレイに飛び込むのに使ったエヴァの素体のことだった。
「このエヴァの中には魂が無い、でもさっきも言った通り、僕はエヴァそのものだからね?、魂が無ければ同化できるさ」
「エヴァそのものって…、カヲル君、君は一体…」
しかしカヲルは微笑むだけで答えてくれない。
「来たね?、レイ」
「碇君!」
「レイ!」
セカンドはファーストを押しのけて抱きついた。
空中にぽいっと捨てられて、ぶうっと膨れて振り向くと、セカンドがシンジの唇を奪う所だった。
「「なにするの!」」
ついユニゾンしてしまうサードとアスカ。
「さあ碇君、わたしと一つになりましょう?」
「で、でも…」
シンジは迷っていた。
「敵が来るわ」
「どうして、僕なの?」
わからない。
「彼らを退けるにはエヴァリオンの力が必要だからね?、そして今エヴァリオンへと導けるのはシンジ君?、君しかいないのさ」
「カヲル君?」
「エヴァリオンになるには心の交感が唯一にして絶対の条件だからね?」
「そういうことや…」
ぼりぼりと頭を掻くトウジ。
「こいつらみんな、お前以外とは嫌や言うとるしなぁ…」
ぽっと頬を染めるレイ達。
「って、なに勝手な事言ってんのよ!」
「そうだよ、それならアスカとレイでも…」
「何でそうなるのよ!、それならあたしとシンジでいいじゃない!」
アスカ、顔が真っ赤だよ…
言いかけてシンジは思いとどまった。
「まあ、僕としては無知な彼らにお仕置きするのは、アスカちゃんの方が適任だと思うけどね?」
ウィンクする。
「どういう意味よ!?」
「そう言う意味さ?、…それでもいいかい?、シンジ君」
「「「ダメ」」」
レイは同時に否定した。
「どうしたんだい?、レイ」
「「「わたしと一つになりましょう?」」」
だがセカンドがまたしても抜け駆けした。
シンジの唇を強引に奪う。
エヴァン、ゲリオン!
「きゃああああああ!」
ズガガガガン!っと校舎をぶち壊して巨大化するエヴァンゲリオン。
「何てことすんのよこのバカ!」
「アスカ!、後頼んだわよ!」
「ミサト逃げんじゃないわよ!」
「まだチャンスはあるわ…」
呟くサード。
「エヴァリオンかい?」
「わしは勘弁して欲しいなぁ…」
トウジは何故だかお尻を隠す。
「いらないのね?、わたしは…」
「はいはい、陛下はわたしと母船で待機しておきましょうね?」
「わかったわ…」
ファーストはサードに声をかけた。
「じゃあ、先行くから…」
ミサトに抱かれて、ガギエルの昇降用ビームに吸い上げられていくファースト。
地上に現われたのは5体のエヴァンゲリオンだった。
青、赤、紫、黒、白と。
「ばらついてて統一性がないわねぇ…」
「来たわ」
シャギャー!
巨獣が翼を広げながら降りて来た。
「恐くありませんか?、陛下」
「これが、あるから…」
くすくすくす…
インターフェイスを見せるファースト。
「そ、それは!?」
ハルカの魂をコピーして使用した、あの白銀のエヴァンゲリオンを封じ込めた物である。
「どうして、それを!?」
「秘密…」
くすくす、楽しい…
思わず冷や汗を流すミサトであった。
「状況は!」
ミサトはブリッジに上がると同時に大きく叫んだ。
「パターン青、使徒です!」
マコトが振り返る。
ファーストを艦長席に抱き下ろすミサト。
「アンチATフィールドだけじゃないの?、帝国の技術情報だだ漏れじゃない!、どういう事!?」
忙しく手を動かしているシゲル。
「インパクトの時に相当混乱しましたからねぇ…」
「まったく、マユミちゃん!」
(はい)
わりと穏やかな声が聞こえた。
「すまないわね?」
(いいですよ、みんなのためですから)
苦笑するような息づかいが、オープンになっている回線から聞こえて来た。
「じゃ、頼むわ」
(はい…)
外宇宙生命体特別調査機関ネルフは、現在外宇宙敵性体迎撃特務機関ネルフへと組織変更されていた。
地球名、葛城ミサト、彼女はその作戦部課長におさまっていた。
ネルフ、それはゲンドウの来たるべき戦いに備えると言う提唱に伴い設立された組織である。
「始まったな?」
「ああ…」
ジオフロント、かつての研究所があった地下に新たに作られた施設、その発令所の司令席で、ゲンドウは手を組み合わせていた。
隣に立っているのは副司令におさまった冬月だ。
「あなた、レイちゃん達にはどの部屋を使ってもらいましょうか?」
「シンジの両隣が良い、ファーストはシンジと同じでかまわん、アスカ君は向かいの部屋だ」
「そうですね、わたしもそれでいいと思います」
今現在地球最高を誇るコンピューターで、部屋割りを決めているのは特別顧問のユイだった。
「いいのか?、碇…」
「今はそれで良い…」
「?」
「楽しみはこれからと言う事ですわ」
「ああ、そう言う事かね、ユイ君…」
ジオフロント内にあるネルフ本部、その発令所は黒き月の発令所とまったく同じ作りをしていた。
その司令席でまさかその様な会話がかわされているとは、誰も思いはしなかった。
そしてここにも、悲しい男が一人いた。
「始まったか…」
ジオフロント直上の山の中、そっくりに建て直されたゲンドウの屋敷。
ぶちぶちと言いながら、諜報部を取り仕切る彼はシンジの部屋に隠しカメラとマイクを仕掛けていた。
「これも計画の内ですか、ユイ様…」
ちょっと情けなくなるリョウジであった。
リツコ&マヤの場合。
「きゃー先輩、見てくださいこのアナクロなシステム!」
「マヤ?、言ってはいけないことってあるのよ?」
「だってこれなんてまだ「言語」なんてレベルですよ?」
はあっとため息をつく。
「…あなたまで来ること無かったのに」
「だって先輩、あの時来てくれたじゃないですか」
「あの時?」
「インパクトの時です!、先輩愛してるって抱きしめてくれて」
きゃっと身をよじる。
「マヤ、夢は寝ている時に見るものよ?」
「夢じゃありません!、現実です!」
「夢想ね、明日精密検査しましょう」
「きゃっ!、先輩のエッチ!」
「……」
ちなみにリツコとマヤは技術部を丸ごと受け持っていた。
「なあ、俺達なんでここにいるんだ?」
「しょうがないだろう?、一生警備員やってたかったのか?」
こそこそと会話をかわしている二人。
「そこ!、私語は謹みなさい!」
「くすくす、無能者は用済み…」
ひぃいいいい!
全力を注ぎ込んで働くマコトとシゲルは、命を仕事に賭けていた。
「ちょ、ちょっと霧島、スピード落とせってば!」
山道を爆走しているジープがあった。
「シンジ君達が先に着いちゃったらどうするの!、それじゃあ終業式サボった意味無いじゃない!」
よく舌噛まないなぁ!?
舗装もされていないがためによく跳ねる。
そして後部の座席には…
「す、鈴原、先に逝って待ってるね…」
すでに覚悟を決めたヒカリがうなされていた。
「スピードを落とせって!、捕まったらどうするんだよ!」
「こう見えても国際公務員なのよ?、問題無いって!」
「嘘だ!、どう見たって自衛隊の制服着てるじゃないかぁあああああ…」
山間に、ケンスケの悲鳴がドップラー効果を交えてこだました。
わたしにも、できる事があるのかもしれない…
球状の空間、金色の液体に満たされた空間にマユミは裸体を浮かべていた。
すっと顔を上げると同時に一言呟く。
「シンクロ、スタート」
フウン…と、壁面に起動画面が現われ、次いで外の様子を映し出した。
マユミは使徒とのシンクロ能力を買われ、ファーストの養育係兼ガギエルの操艦主として乗り込んでいた。
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