「シンちゃんに会えて良かったわね?、レーちゃん」
朝食の席で、シンジは母の発言を聞き咎める。
「母さん、レーちゃんってなに?」
「え?、だってレーちゃんって感じで、可愛いじゃない?」
二人は揃ってセカンドを見た。
肩をすぼめながら顔を隠すようにマグカップを持っている。
か、可愛い…
シンジはドキッとしてしまった。
今まで感じた事のない感情にとまどう。
これはいったい?
恥じらう様を新鮮に感じているだけなのだが、いかんせんシンジには人生経験というものがまるで足りない。
あるいは女性経験だろうか?
碇君が、見てる…
ずっと帝星で夢見ていた幸せな瞬間。
彼女はのぼせ上がっているのだ。
確かに、レーって感じかも。
シンジは陥落寸前だ。
「あらあら見つめ合っちゃって…」
ユイの言葉に硬直が解ける。
二人は赤くなってうつむいた。
EVARION THE AFTER
SECOND SEASON
第弐話
殺意
の
瞬間
「合体禁止」
「はぁ!?、なによそれ!」
元気になったアスカへの、サードからの実にありがたいお言葉である。
「あなた、ずるいもの…」
「なんでよ!」
「ずっとシンジ君と暮らしてた…」
「だから!?」
やはり合体は気持ち…、いや、心地良い。
それだけにここは譲れない。
「ここはわたしとシンジ君の家、だからあなたはいらないの…」
「勝手な事言わないで!、ちょっとシンジ!」
会話に参加しない一角に怒声を上げる。
だがシンジは二人を除いて、実に幸せな世界を築いていた。
「…レー」
ポッ…
「…レー?」
ポッ…
「レー」
ポッ…
頬が恥ずかしさの赤から嬉しさの桜色に染まっている。
体は気恥ずかしさで揺れていた。
モジモジとする仕草に心臓ばっくん。
「レー」
「
いい加減にせい!
」
ガス!
っと脳天に踵が入った。
「うあああああ…」
クラッと倒れかけるシンジをサードが滑り込んでキャッチする。
「シンジ君になにをするのよ」
にやり。
怒っているが目は笑っている。
この女!
睨みつけるがもう遅い。
「ふがぁ!、れ、レイってばぁ!」
レイはむぎゅっと強く強く、シンジの頭に肉丘固めをかけていた。
さてそんな碇研究所改、ネルフ宿泊施設(雰囲気的には洋館のホテル)とは裏腹に、ちゃんとした所ではちゃんとした会議が行われていた。
「それでは、使徒ではないのかね…」
「はい」
リツコが頷く。
「回収したコアの構成素材を分析した結果、99.89%の一致は見られました」
床に詳細が表示されている、小さな会議室にはゲンドウ、冬月、ミサト、リツコにマヤと、主な面々が揃っていた。
それに何故だかトウジとカヲルも。
「トウジ君はアンチATフィールドと断定したようですが、違います」
「なんやと?」
トウジはその解説に驚いた。
「戦闘中にそうそう分析してる暇が無くてね?、後から分かった事なのよ、これを見て…」
ATフィールドの波長パターンを表示する。
「一つがATフィールド、もう一つがアンチATフィールド」
「で、最後のが謎のフィールドっちゅうわけかいな」
マヤが続ける。
「酷似しているデータを探した所、エヴァリオンのATフィールドが68%合致しました」
「碇、これは…」
「ああ」
意味ありげな台詞を吐く。
「なにかご存知なんですか?」
ミサトが全員を代表して説明を求めた。
「冬月が立てた理論と同じというだけだ」
「え?、そんな!?」
驚きの声を上げるリツコ。
この人が!?
人間的に敬意は払っていても、たかが地球人と侮っていたのだ。
「それはどの様な?」
「しょせん碇の定義に衣を付けただけに過ぎんよ、それより…」
この人、何者なの?
リツコの冬月を見る目が少しだけ変わる。
「伊吹君」
一瞬だれも反応しなかった。
「伊吹君?」
「あ、すみません…」
慌ててファイルを開く。
「まだその呼び方になれなくて…」
戸籍が必要だろうと言うことで、名字を新しく作ったのだ。
「かまわんよ、それで分析の方は?」
「はい、エヴァリオンは相乗効果によってATフィールドの強化を図りますが、それを踏まえた上で…、このパターンは獣に酷似していると思われます」
「獣ぉ?」
いかがわしそうにミサトの声。
「別におかしな事じゃないさ…、絶対の者が命じれば人は死さえも厭わなくなる…、支配と服従、それはペットと飼い主の関係に似ているからね?」
「そやけど噛みつける分だけ、ペットの方がマシとちゃうんかい?」
カヲルは軽く肩をすくめた。
「ATフィールドは極限、心の形だからね?、ATフィールドが自分を隠す壁であるように、アンチATフィールドは心をさらけ出させる力と定義できる」
「ATフィールドは脅える小犬の自己防衛本能だな」
「アンチATフィールドはそれを手なずける飼い主の手管と言うわけかね?」
「でもアンチATフィールドは人を壊すための力でもあります、マヤ?」
「あ、はい、かなり異質ではあるものの、同じ測定器でチェックできた事からATフィールドと判断しました、アンチATフィールドでは身は守れませんから、これについての対応策は十通り以上」
「そんなにあるんかいな!?」
「もっとも、即座に実行可能なものは一つしか無いのよ…」
「なんやそりゃ?」
「ま、必然的に決まって来るわね…」
「ああ、チルドレン…、エヴァ適格者のユニゾン」
「協調、調和が生み出す力か…、しかし碇」
「問題無い…」
ニヤリと笑う。
「シンジにレイ達、それにアスカ君もいる」
「その多角関係が輪を乱す事になっているのではないのか?」
心配する冬月に対して、一同はそれぞれに含みのある笑いを浮かべていた。
「シンちゃん久しぶり!」
抱きつくマナにシンジは慌てた。
ここは地下3階に広がるトレーニングルームだ。
マナもまたプラグスーツを着ているために、想像以上に体の密着が楽しめてしまう。
「お、お願いだよ、離れてってば!」
レイとアスカの冷たい視線に冷や汗をかく。
マナは顔だけを少し離した、しかし首にかけた腕は離さない。
「ねぇシンちゃん?、あたしのあげたペンダント、まだ大事にしてくれてる?」
それはバレンタインのチョコと一緒に貰った物だった。
「うん…、ちゃんとしまって」
はっ!
「み、見つからない所に隠してあるから、大丈夫だよ!」
「…付けててくれないんだ」
あうー…
アスカ達を気にすればマナが落ち込むと言う寸法だ。
「ちょっとあんた…」
非常に険悪なムードが漂っている。
「なに?」
「シンジ君から離れて」
「い・や・☆」
べぇっと舌を出す。
「だってシンちゃんまだフリーなんでしょ?、なら別れたわけじゃないんだし、元彼女のあたしに一番の権利があるんだもんね?」
「ちょっとシンジぃ!」
「はい!」
マナに抱きつかれたまま硬直する。
「元彼女ってどういうことよ!」
「ど、どうもこうもないよ!、ただの冗談に決まってるじゃないか!」
「酷い!」
よよよっとシンジから離れて倒れる。
「シンちゃん、じゃああの楽しい日々はなんだったの!?」
「なにって…、一週間ぐらいちょっと話してただけだったし、それに…」
「それに?」
「霧島さんは命令で僕のこと見てたんじゃなかったの?」
この一言にマナは激しく傷ついた。
「違うよぉ、ホントに好きになったの!、でもちょうどいいからって頼まれて…、だから悩んで、シンちゃんに話しかけないようにしようって、我慢して他人になろうって離れたのにぃ」
「え…」
「いつかちゃんと話せるから、その時まで我慢しようって!」
「そ、そうだったの…」
「嫌われてもいいからって」
マナ…
ショックを受ける。
「ごめん…、僕、何も知らなかったから」
「いい…」
肩に置かれた手を握り返して、マナは潤む瞳をシンジに向けた。
「やっとこうして、話せたから」
すがる様にシンジに抱きつく。
「まだ好きでいてくれてるよね?」
「え?、あ、あの…」
シンジは即答しようとして焦りまった。
即時殲滅
の四文字を何処からか受信してしまったからだ。
「いい…、答えは期待してない、けど覚えてて?、あたしがシンちゃんの『最初の女』だから」
にやり…
抱きつかれ体の柔らかさに慌てたシンジは気がつかなかったが、肩越しにやり合う三人の少女の視線はそれだけで使徒を殺せそうな鋭さであった。
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