「足元を狙えよ?」
 ラングレーが指示を出す。
「しかしNN兵器の使用は…」
 やはり迷いがあるらしい。
「何を言ってる…、仕様書では直撃にも耐えるとあるだろう?」
「ですが…」
「あれが自爆でもすればアメリカ全土が死滅する事になる、止めるんだ」
「はっ!」
 意を決し命令を伝える。
「1〜5号車はNNミサイルを水平発射、狙いは敵性体の第58関節部」
「発射」
 ゴゥ!
 ラングレーの命令通りにミサイルが飛ぶ。
 爆音と熱風が指揮車を揺らした。
「着弾まで、3・2・1…、あ!」
 ミサイルが急に勢いを失って失速した。
「どうなった?」
「電磁バリアーですね、全部おしゃかですよ…」
 直前で落ちたミサイルを踏み潰す。
 起爆装置でさえも壊れていた。
「…地雷の方がマシだったかな?」
「今から埋めにかかりますか?」
 磁場の影響に指揮車の目も潰された。
「しかし信じられんな…、核使用直後でも指揮が取れるように作られていたはずなんだが…」
 倒すのは難く、そして破壊は死を撒き散らす…
 放射能で動いているJ−アローンは、それだけでも驚異である。
 各個に撤退。
 ラングレーに思いつく唯一の命令がそれであった。


「ミサト、今どこに居るか教えて」
 ウィンドウが開き、先程と変わらぬミサトを見せる。
「現在目標の頭上、3000メートルで旋回中…」
 ゴォオオオオ…
 空気の薄い超高空を、ペンペンジェットが飛んでいた。
 プラズマジェットは使用していない、地球の自転、公転に合わせて完全な空中静止を行っている。
「それで、どうなってんの?」
 ペンペンの情報解析能力はそれ程高くないのだ。
「いま状況が変わったわ?」
「変わった?」
「ええ…」
 つねにバックアップを受けなければ、共同的な作戦行動は行えない。
 下の様子を送ってもらう。
「ドンパチ始まってんの!?」
 J−アローンに向かって火線が集中している。
「爆発の危険を考えて地上へ射出、その後はまったくコントロールが出来ず…、乗っ取られたのね?」
 ふうっと言う息づかいが背後で聞こえた。
「着いて来て正解でしたね?」
「ええ…」
 後部に座っているのはカヲルだ。
 目を閉じて何かをずっと探っている。
「何か分かった?」
「第拾壱使徒型バイオウイルスコンピューター・イロウル、第拾三型使徒、侵殖粘菌バルディエル」
「イロウルで乗っ取り、バルディエルに強化させたってわけか…」
 ほぞを噛む。
「使徒については?」
「亜種、そう感じる程度ですから」
 口の端に笑いを浮かべる。
「僕の力で止めますか?」
 使徒に魂は無い、なればこそカヲルであれば支配下に置くことも可能なのだ。
「リツコ?」
 それは酷く簡単な事だというのに、返事が無い。
「リツコってば!」
「ごめんなさい、ちょっと計算してたの」
 地域マップと、赤く広がっていくドームが表示される。
「なにこれ?」
「使徒だけを排除した際に出る被害よ?」
 酷くあっさりと言い放つ。
「なんですって!?」
「炉心は使徒の補助を受けてなんとか保ってるみたいなの」
「放射能への対策を教えて」
「押さえ込んで」
「それだけ!、レリエルは!?」
 一応ペンペンに積んで来ている。
「…J−アローンの爆発時のエネルギーは、エンジェリック空間を破壊して有り余るわ」
 つくづくとんでもない兵器である。
「他には?」
「中和剤がどの程度効果があるのか…」
 中和剤!?
 慌てて兵装をチェックする。
「こんなの聞いてないわよ!?」
 放射能中和剤。
 数キロから数十キロにもおよぶ汚染を完全中和することが可能である。
 それもまあ濃度にもよるのだが、拡散前に使用できれば被害は最小限に抑えられるだろう。
「こんな事もあるかと思ってね?、核なんて古代燃料、資料を揃えるのに苦労したわ…」
 まるで信用してないのね…、この星の科学を。
 帝国に比べれば、遅れている、時代が違うのではなく、次元が低過ぎるのだ。
「パイロットは…、彼女か」
 マナの事を思いやる。
「僕たちに対抗するために作ったロボットに、僕たちの友達を乗せている…」
「司令のね?、アイディアだったのよ…」
「司令の?」
 苦そうな顔をするリツコ。
「開発を認める代わりに、パイロットはこちらで選出するってね?」
「ちょっとぉ、墓穴掘ったわけぇ?」
「さっきも言ったと思うけど、保険は持たせてあるから安心して」
「どうせならその内容を教えてもらいたいですね?」
 カヲルは不敵な笑みを浮かべていた。


 シンジは呼吸も忘れるほど、食い入るように画面を見ていた。
「シンジ…」
 ギュッとシンジの手を握る。
 アスカの胸中はざわめいていた。
 シンジ…、あの子が心配なの?
 トウジが漏らした事があった。
 シンジ…、あの子にチョコ貰ったって。
 自分よりも早い時期から付き合っていた子。
 どうしても感情が抑え切れない。
「シンジ…」
「ん?」
 ようやくシンジは、手が握られている事に気がついた。
「そんなに…、行きたかった?」
 当たり前だろ?、シンジはそんな目つきでアスカを覗く。
「見てるだけなんて、嫌だ…」
「でも」
「なに?」
 反対側の腕にはレーが抱きつく。
「碇君が危ない目に合うのは…」
「レー」
 両腕が塞がっているので、シンジは頬を髪へとすりよせた。
「大丈夫だよ、僕はそれだけの力を貰ってるから…」
 その返事にますますすねる。
「ほんとにバカねぇ…」
「え?」
 あたし達が何を言ってるか、全然分かってないじゃない…
「なんだよ…」
 二人の顔を交互に比べる。
 おんなじ表情しちゃってさ…
 シンジはその意味にすら気付かなかった。


「レリエルで戦闘フィールドを形成、エヴァンゲリオンにより大気圏外へ移送の後破壊、これしかないわね?」
「パイロットの安全は?」
「保証の範囲外…、嘘よ、保険を使うわ」
 大丈夫なんでしょうねぇ?
 旧友を疑う。
「なんのためにプラグスーツを着せたと思ってるの?」
 今はその言葉を信じるしかない。
「行くわよ?」
「高度1500メートルで放り出して下さい」
 カヲルはリラックスして、体をシートに深く預けた。


 真っ青な空だが雲が無いと言うわけでも無い。
 あまりの速度に、円心状に散っていく。
 中心を貫いたのはペンペンだ。
「2000・1800・1600」
 地表があっという間に近くなる。
「くっ!」
 ミサトは後部座席の射出レバーを引いた。
 カヲルのシートが背後に滑り、その姿をシャッターが隠してしまう。
 シャッ!
 ペンペンの背中のプラグ挿入口が開き、プラグのお尻からカヲルがシートごと放り出された。
 ゴウ!
 自由落下するカヲルを置いて、ペンペンがより加速していく。
「レリエル!」
 ペンペンの嘴が空気抵抗を生まない程度に開かれる。
 クェ!
 五つの黒いボールが撃ち出された。
 レリエル達はJ−アローンを中心とするピラミッドを形成する。
「このぉ!」
 上昇は間に合わず、ペンペンはお腹をこするように低空を飛んだ。
「エンジェリック・インパクト!」
 叫ぶのとカヲルが一個のレリエルを追い越したのとが同時だった。
 黒いピラミッドがそこに生まれる。
「なんだありゃ!?」
 ラングレーは突然回復した後の映像に驚いた。
 黒いピラミッド、だが中は不可視では無く、透けて見える。
「ちょっと待って下さい…、ネルフが動いたようです」
「こちらには任せておけないって事か…」
 歯噛みするかと思えば、ほっと安堵の息を吐いている。
「ラングレーさん…」
「こんなこと言いたくは無いが…」
 後頭部を掻く。
「物事は対処できる奴に任せたほうがいい、俺達に出来るのはここまでだ」
 彼はさじを投げ捨てた。


 背中で空間が閉ざされたと確認する。
「エヴァンゲリオン」
 静かな呟き、ヘッドセットが前後に割れ、白銀の粒子がカヲルを包んだ。
 ズガァン!
 降り立った時には白いエヴァンゲリオンに変化していた。
(さ、早く終わらせて…、なに!?)
 両腕をクロスするように体を庇う。
 ATフィールドが貫かれた、J−アローンの放った閃光がカヲルの両腕を黒く焦がした。


「カヲル君!」
「なんや今のは!?」
 ペンペンからの映像に切り替わった。
(リツコ!)
「高出力ビームね…」
 基本武装の中から、該当する兵器を探し出す。
(いくら高出力って言ったって、ビームでしょ!?)
「それを言うならエヴァンゲリオンの武器だってそうよ…」
 以外にも答えたのはアスカだった。
「それにわけまでは知んないけど…、あいつの壁は一番弱いから…」
 言いながらシンジの顔を横目に窺う。
 シンジは真っ青になって言葉を失ってしまっていた。



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