好き……
 好きってなによ。
 あたしが心を閉ざしてる?
 当たり前じゃない、なんでこんな奴に……
 ふと前を見る。
 二人が仲良く歩いている。
 シンジの右手はワキワキしていた。
(綾波、手ぇ握ったら怒るかな?)
 何となくアフレコしてみる。
 しかもその内容にムカムカして来る。
 そんなわけないじゃない!
 あたしがどうしようが関係無いのよ、あいつは、あいつは!
 フラッシュバックする加持の笑顔。
 加持さぁん……
(心を……)
 開いてたわよ!
 少なくとも。
 加持と言う男には。
 でも……
 俺は一生ヒモか愛人で楽して暮らせるのにな?
 加持はそう言っていた。
 だが俺が言った事で傷ついたのなら、アスカのしている事で同じようにシンジ君が傷つくと言う事だ。
 お金が目当てであたしに近付いていた加持さん……
 お金が目当てでシンジに言い寄っているあたし。
「あたしも、同じか……」


FIANCE〜幸せの方程式〜
第十六話、「乙女のココロ


「なにやってんのよ?」
「あ、うん……」
 下駄箱、固まったシンジを怪訝に思って、アスカは彼の手元を覗いた。
「なによ、手紙?」
「みたいだね……」
 戸惑ってるようにも困っているようにも見受けられてアスカは訊ねた。
「あんた、それ……」
「わかってるよ」
「で、どうするわけ?」
 無言だが、レイもじぃっと見つめている。
「困るんだよね、こういうのってさ」
「ま、あんたにはレイが居るしね?」
 何言ってんの?
 そんな表情でキョトンとした。
「……あたし、変な事言った?」
「うん」
「そう?」
「だって……、綾波は関係無いでしょ?」
 ピクッとレイの眉がつり上がる。
「あんた……、度胸あるわね?」
「そっかな……」
 シンジはぴらぴらと可愛らしい便箋を振って見せた。
「よくあったんだ、僕が『ネルフの跡継ぎ』って噂につられてさ」
 はぁっと深く息を吐く。
「冗談じゃないよね」
「……ホントのことじゃない」
 三人は並んで歩き出した。
「……父さんと母さんは凄いかもしれないけど」
「はん?」
「僕は……、そのつもりは無いからさ」
 微妙な微笑みに、アスカは何かが引っ掛かった。


>接続=守秘回線
>対象=2A26
>……ちょっといい?
>誰?
>あたしよ。
>アスカ?
>あんた……、朝言ってたわね?
>ネルフの話し?
>そうよ、それ。
>……僕に跡なんて継げると思う?
>そりゃそうだけど。
>大体子供が親の跡を継ぐなんておかしいよ……
>嫌なの?
>ずっと別々に暮らしてたのに……、今だって別に暮らしてるのに。
>……甘えたいの?
>もう諦めてる。
>他人なんだ。
>……かもしれない。
>なんでよ。
>え?
>なんで黙ってたのよ?
>あ、ごめん……
>……いいわ、これであんたにこだわる理由、なくなっちゃった。
>うん。
>寂しい?
>なんでさ?
>……あたし、邪魔するのやめようか?
>……アスカがそうしたいなら、それでもいいよ。
>なによそれぇ……
>だってアスカも同じでしょ?
>なにがよ?
>僕に手紙をくれる人と……


 バン!
 突然端末の蓋を閉じたアスカに、クラス中の視線が集中する。
 あたしが……
 そんなのと同じですって!?
 わなわなと手が震えている。
 シンジの言葉。
 ネルフの跡継ぎとか……
 レイのセリフ。
 好きでも無いくせに……
 シンジの付属にたかろうとしている。
 あさましい人間。
 その一人。
 あたしが?
 バカにしないで!
 だが否定できない。
 それ以外の感情を見付けられないから。
 シンジの価値はそれだけだから。
 加持のために好きなフリをしようと思っただけだから。
 加持に捨てられてその必要が無くなったから、騙している罪悪感に今更気が付き……
 逃げ出したくなっている自分がここに居るから。
 ──あなたは、何を望むの?
 お金?、それとも……
 ふざけるんじゃないっての!
「あ、あ〜、惣流君……」
 アスカは本気で憤慨していた。
 それはもう、教師の声が届かぬほどに。


 休み時間に入ると同時にアスカは席を立った。
 こんなとこに居たくない!
 そう思っての行動だった。
 アスカはちらりとシンジの姿を目で探しながら廊下を通り過ぎた。
 一瞬驚いたような表情のシンジが居た。


「ねえ、何処に行くのさ……」
 苛つく。
「授業始まっちゃってるよ?」
「何で着いて来るのよ」
 校舎裏。
「みんなアスカのこと待ってる……」
「うるさい!」
 怒鳴り散らす。
 わー……
 運動場の騒がしい声が、その後の静けさをより際立たせた。
「なんだよ……、なに怒って」
「あんたがここにいるからよ!」
 ムッとするシンジだ。
「なんだよ、アスカがこっち見たから来てやったんだろ?」
「そんなことしてないわよ!」
「したよ!」
「いつよ!」
 鼻面を突き合わせる。
「……だって、寂しそうにしてたから」
 パン!
 アスカは頬を叩いた。
「してない!、なによ、あんたに何が分かるのよ!」
「わかるよ!、だって……」
 アスカは叩くのをためらった。
 それ程に頬をさするシンジの表情に心を奪われたから。
「アスカ……、僕やレイと同じ目をしてるんだもん……」
「目?、なによそれ!?
 ──パン!
 なんだかよくわからなかった。
 わからなかったが、それは無性に苛つくだけの指摘であった。


続く



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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作品を元にでっちあげたお話です。