真っ白な部屋だった。
 そこには何人もの子供達が居た。
 誰も彼も、体に、心に障害を負っていた。
 深山もその中の一人だった。
 その時の彼には、下半身が欠けていた。


 逆光の中、アスカの変身したエヴァと、壊れたフェンスが落ちて来る。
 ドォン!
 背中から叩きつけられたアスカの上にフェンスが落ちる。
 グル……
 低い唸り声を上げてアスカは壊れたフェンスを押しのけながら空を見上げた。
 太陽の中に不安定な状態でホバリングしている使徒が見える、やはり太陽は風の影響で歪んで見えた。
 ダイブ。
 真下に向かって使徒は落ちて来た。
 フェンスを跳ねのけ立ち上がる。
 そのまま屈んで、跳び上がる。
 開かれる口、突き出す拳が交錯した。
 ゴガン!
 アスカの腕は使徒の口腔に飲み込まれた。
 その奥にあった何か硬い物に拳はぶつかる。
 それを砕く、確かな感触。
 アスカは拳を捻り込んだ。


 ドガン……
 青陵学園の外側に横付けされていた保冷車。
 その後部が重みに沈んだ。
『いいわよ、出して』
 もちろん見かけだけの車だ。
 青葉は通信機からの声にサイドレバーを倒した。
 変身状態でもアスカは通話を可能にしていた。
 それは頭に付けている髪飾りが、エヴァと融合する事で思考波を電波に変換する役割を持つからである。
 もちろんそう都合よく思い通りに変質してくれるわけではない。
 その機械がそう変異するように調整したのは、ドイツ支部での研究の成果であった。


「困った事をしてくれたな」
 そうドイツ支部長が怒ったのは、わずか一週間前のことだ。
「特にアスカ、君はこのような事で表に出て良い人間ではない、わかるかね?」
 スキャンダルは困ると言っているのだ。
「研究所の恥?、汚点?、そんな所の出身だなんて言われるわけにはいかないのよ」
「遊ばせるために君に力を与えたわけではない!」
「無能な上司の元に着くつもりはないのよ、わたしはね?」
 アスカは冷笑した。
「来てるんでしょう?、日本からの召喚状」
 ビクリと支部長は反応した。
 頃合いを見て切りだそうと思っていたからだ。
「何故知っている?」
「聞いたからよ」
 クスッと笑う。
「誰にだ!」
「碇のおじ様から」
 今度こそ言葉を無くし、パクパクと動かすだけになる。
「あたしのママ……、キョウコママだけど、ママってユイ叔母様とは親しかったのよね?」
 ユイとサチの真相を知っている人間は、綾波家とネルフ創設に携わったごく一握りの者達だけである。
 その中にあってアスカは例外的な存在であったと共に、唯一個人的な付き合いのある人間でもあった。
 アスカに対しては直接碇ゲンドウから情報が届くのだ、それはアスカとも面識のあった『故』ユイからの『遺言』でもある。
 アスカは満足げに微笑んだ。
「綾波家に、あたしが必要になったと言うことです」
 没落寸前のラングレー家に興味など持ってはいなかった。
 なにしろ自分と言う存在で保っているのが本当の所なのだから。
「日本へ」
 だからアスカは自分のために、その誘いに乗って日本へ来たのだ。
 真に上に、昇るために。
 貴族などと言う「俗物」の足かせに囚われないために。


「遅れました」
 ゲンドウの執務室に通され、アスカは直立のまま悪びれもせずに言葉を発した。
「かまわん、使徒を倒すのが君の仕事だ」
「ああ……、ドイツで片付けていれば、また無策なもみ消しに問題が吹き出していただろうな?」
 ゲンドウは立ち上がるとアスカの前に立った。
 アスカよりも頭三つ分は大きい、だがまさに見上げるような身長差にも、アスカは脅えることなく笑みを浮かべた。
「お久しぶりです」
「ああ、良く来たな、アスカ……」
 冬月でさえもしばらく見た事の無かった微笑み。
 ユイやレイの前でさえ見せなくなった微笑を浮かべ、ゲンドウはアスカの頭を一撫でした。
 まるで我が子を慈しむように……
 そこには信頼関係に結ばれた、本当の親子が存在していた。


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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作品を元にでっちあげたお話です。