L.A.S.THY TEMPTATION 3
碇君……
その頃レイは一人寂しく月を見上げていた。
泣いてるの?、わたし……
涙は流れていない。
だが胸はとても苦しかった。
アスカ……、アスカ、アスカ!
「シンジ……」
「アスカ……」
アスカは子供のように、シンジの胸に顔を埋めた。
可愛い……
シンジはようやくそう思えた。
まるで子猫のような、弱々しい姿を晒されてしまっていた。
甘えたかったんだ、アスカも……
シンジよりもしっかりとした肩が、とても細く見えてしまう。
シンジはどす黒い独占欲がわき上がって来るのを感じていた。
こんなアスカ、きっと僕しか知らないんだ……
ダメだ!
シンジはその想いを否定した。
僕じゃ何もできない!、アスカはきっと何とかしてくれる人を探し出しちゃうんだ!、僕なんて見捨てるんだ!
どうしても一線を踏み越える勇気を持てない。
だからシンジは辛くても、破局の言葉を呟いた。
「……男の人の匂いがする」
ん?っと首を傾げるように、アスカはシンジを胸から見上げた。
「ムースとタバコの匂いがする……」
アスカはそれが自分の話しなのだと気がついた。
「なに言ってんのよ?」
「……ごまかさなくていいよ」
シンジはきつく目を閉じた。
「だって、僕は頼られるほど……、ううん、見限られるほど情けない奴だから」
胸が、胃が、体の中のそこら中が痛くなって来る。
「アスカだって、誰かに頼ってるんでしょ?」
指先までが、ジンジンとうずき出す。
その痛みに目を閉じている。
「『アスカが全部僕のものにならないのなら、僕はアスカなんて欲しくない』」
シンジはいつか怒鳴り付けられた時の言葉を吐き返した。
バッと体を離すアスカ。
ああ、終わったんだ。
シンジはアスカがそのまま立ち去るものだと思った。
バサ!
え?
だがアスカの行動は違っていた。
目を開くと、シャツを脱ぎ、ブラを外したアスカがいた。
「これで良い?」
アスカはシンジが思っている以上に強かった。
月明かりが、アスカの胸に陰影をつけている。
アスカの肌が光っていた、うっすらとしている産毛が光を反射しているのだ。
「知らなかったわ」
細い指先が、シンジの頬を触れるように撫でていく。
「嫉妬してくれてたなんて」
再び体を重ねて横たわる。
「アスカ……」
きめまで見えそうな胸が潰れていく。
重みで伸びていた胸が、シンジとの間で歪んでいく。
その歪みが、シンジに欲情と後悔を持ち込んだ。
「アスカ!」
シンジはアスカの体を抱きしめた。
「アスカ、ごめんアスカ!」
ギュッと抱きしめるシンジ。
シンジはアスカを見ないように目をつむっていた。
「どうして謝るのよ?」
アスカはその力一杯の表現を受け止める。
「また僕は自分のことしか考えてなかった、また僕はアスカを傷つけてた!」
「え!?」
なによ、キスでもしてくれればいいのに……
アスカは正直、そんなシンジの態度に戸惑っていた。
「アスカに嫌われたかったんだ、アスカが他の人と仲良く、楽しくしてるとこなんて見たくなかった!、今すぐにでも見捨てられそうで、だから嫌われたかったんだ!、自分で捨てられてしまおうと思ったんだ!」
「シンジ……」
アスカは自分の方からキスをした。
んっ……、と多少押し付けるように、そして後二回程、ついばむように下唇をはむ。
「バカね……」
アスカはわざと息を吹き掛けた。
「僕は、バカなんだ……」
シンジはもう、泣いていた。
「それがアスカを追い詰めてるなんて思わなかった」
「そう?」
アスカから隠すように手で顔を被ってしまう。
「こんなに最低だなんて思ったことない!、こんなことまでさせるつもりなんて無かった、ただアスカに嫌われたかったんだ!」
「そうすれば、あたしが他の誰と仲良くしてても気にならないから?」
シンジは顔を隠したままで頭を振った。
「諦められるから、アスカに冷たい目で見られれば、ほらやっぱりって思えるから、だから!」
シンジの胸の上を、アスカの手がすっと這った。
「アスカ?」
顔を見せるシンジ。
「汚いわよ?」
アスカは脱ぎ捨てたシャツで、シンジの涙と鼻水を拭いてやった。
「そう思うなら、離れてよ……」
「ばか、あたしだって汚いわよ……」
アスカはもぞっと腰を動かした。
「あ……」
赤くなるシンジ。
アスカは先程から、お尻に当たる固い物を感じていた。
またがっている場所を多少後方へずらしていく。
「ほら、わかんない?」
真っ赤になるシンジ。
アスカとシンジが刷り合ってしまう。
布ごしにでも、アスカのあそこのごわつきがわかった。
それがアスカの恥毛だとも想像がつく。
しかしそれ以上に、帯びている熱が伝わって来る。
アスカはそれをシンジにこすり付けるようにした。
「ほら、あたしのあそこだって汚いじゃない……」
「違う、アスカは奇麗だ」
シンジの言葉を嬉しく感じる。
「汚れてるのは僕だ、汚したのは僕だ、汚そうとしてるのも僕だ!」
嫌な想い出が蘇る。
「僕はアスカを汚した、アスカが一番辛かった時に……」
右手を上げ、その掌を見つめる。
その手に白い物をつけた時の光景は、今でもはっきりと思い出せる。
「……それだけじゃない、僕は一緒に暮らしてた時にも」
「あたしで、してた?」
シンジはどう逃げていいのか分からなかった。
顔を隠す事も、目を閉じる事でも逃げられないと、脅えて固まった。
「僕は……、僕は今度はアスカにこんなことさせてる……」
シンジは正直に訴えた。
「お願いだから叩いてよ!、怒ってよ、嫌ってよ!!」
「それで罪の意識が消えるの?」
シンジは虚を衝かれたような顔をした。
「だけど……」
「消えないんでしょう?」
アスカは優しく微笑んだ。
「あたしから言わなくちゃ、ダメみたいね?」
「え?」
アスカはシンジの首に噛り付いた。
「好き、そして嫌いよ?」
戸惑うシンジ。
「あたしのことを一番に考えてくれるあんたが好き、でも臆病過ぎるあんたが嫌い……」
アスカはゆっくりとシンジの上に覆い被さった。
ん、ん、あ……
なに?
壁の向こうから、切ないあえぎ声が聞こえて来る。
セカンド……、碇君?
レイは両耳を押さえて、全ての音を排除しようとした。
「シンジ……」
アスカは再び股間同士をすり合わせた。
「アスカ、ダメだよ……」
「どうして?」
「だって……」
シンジは顔を伏せる。
「アスカを汚したくない」
アスカはそんなシンジに、黙って手を動かした。
「え?、あ、アスカ!」
アスカの手が、ズボンのベルトをかちゃりと緩めた。
「やめてよ、どうしてだよ!」
「いつもあたしのこと考えてしてたんでしょう?」
泣きそうになるシンジ。
「してみなさいよ、見ててあげるから……」
先程までの優しさが無い、アスカはシンジに足を揃えさせた。
トスッとその上に座りこみ、、シンジのチャックに手をかける。
「やめて!」
シンジは置き上がろうとしたが、アスカに胸を軽く押されて再び倒れた。
「あ!」
その隙に一気にチャックを下ろすアスカ。
「あたしだってね……」
膝立ちになり、アスカはスカートのホックに手をかけた。
「シンジを待ちたかったわ……」
「え?」
一瞬我に返る、ストンとスカートの落ちる瞬間を見てしまった。
「あ……」
真っ白なショーツが、月の光にやけにはっきりと浮かび上がる。
薄いのか、少し何かの影が透けていた。
「シンジ?」
「あ、な、なに!?」
驚き見上げるシンジ。
「タバコの匂いの正体、教えてあげる」
聞きたくない!っとシンジは思った。
だがアスカの固い顔からは逃げ出せない。
思い詰めているようにも見えたからだ。
「ファーストと、同じなのよ……」
アスカはゆっくりと言葉を紡いだ。
「綾波と?」
「そう……」
今度はシンジのシャツのボタンを外しにかかる。
「たまに泣き崩れる人が居るの、抱きついて来る人も居るの、そう言う人達を軽く抱きしめてあげてるの……」
「僕にしてるみたいに?」
シンジはアスカの指の動きを眺めた。
「シンジは、特別よ……」
シャツを左右に広げ、その下にあるだらしのない体に見入る。
「こんなこと、するわけないじゃない……」
お腹から胸に向かって、撫でるように手を這わせた。
「どうして、僕なの?」
栄養失調と運動不足があばらを浮き上がらせ、その下は逆にたるませてしまっていた。
「何度も言ったでしょ?」
アスカはその手を首筋からさらに頬にまで進ませる。
それに従って、少しずつアスカの体も傾き、ついにはシンジの体に倒れ、重なった。
「太ったわね?」
シンジは純粋な恥ずかしさに顔を背けた。
「ごめん……」
急にアスカの裸体が眩しくなってしまう。
「……どうしたのよ?」
シンジはアスカを見ようとしない。
もごもごとアスカの神経を逆なでする。
「もう、やめようよ……」
「なんでよ?」
シンジの体に腕を回す。
まるでシンジを逃さないかの様に。
「だって、アスカにはきっとふさわしい人が居るから……」
アスカは転校してすぐの時に吐いたほら話を思い出した。
あたしの作り話じゃあるまいし……
軽く苦笑してしまう。
「こんなのダメだよ……、きっと、僕は、勘違いしてしまうから……」
アスカはシンジの言葉を待った。
「アスカは僕のだって……、きっと言い出すんだ」
かちかちと歯が打ち鳴らされる。
「アスカを否定するんだ、僕に優しくしてよ、僕を大切にしてよって、思い通りにしてくれないアスカを批難するんだ、そして嫌われちゃうんだ……、僕の人形じゃないって、きっと……」
シンジのあそこが萎えてしまう。
「シンジ……」
「アスカ、ごめん!、僕はバカで、情けなくて、弱虫で、だから!」
「だから、自信を分けてあげる……」
「え?」
ん……
「あ、アスカ?、なにやってんだよ!?」
アスカはシンジと折り重なったままで、手をショーツの中に差し入れた。
ごそごそと動く手が、何をしているかは考えるまでもない。
「あ、シン、ジ……」
アスカの潤んだ、そして切ない目がシンジを見上げた。
「アスカ……」
「シンジ、見てて……」
熱くなった息がシンジをくすぐる。
アスカはシンジに、キスを求めた。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作品を元に創作したお話です。