L.A.S.PRETTY NIGHT MARE 6
「いいの?、シンジ、本当にここで……」
第三新東京市郊外の新築マンションだ。
十階建ての最上階、フロアー全部が一つの部屋になっていて、やたらと大きい。
「良いよ、アスカ達もここなら楽でしょ?」
そりゃまあね……、と口ごもる。
大丈夫かしらね?
シンジは一応落ちついているように見えていた。
でも、そう見せてるだけかもしれないのよね……
アスカにはそれを見抜けるだけの人生的な経験が無い。
はっきり言って、不安だった。
「大丈夫だよ、僕はもう逃げたりしないから」
髪を切り、さっぱりとしたシンジは、そう笑顔で安心させようとしていた。
「シンジ?」
「アスカ達の好意はできるだけ素直に受け取るよ、変な風には考えないからさ……」
一応、苦笑が混ざってしまうが、それを信じることにする。
「じゃあ、約束しましょう?」
アスカは目を閉じ、唇を突き出した。
「うん……、え?、アスカ?」
頬がやや赤らんでいる。
「早くしなさいよ、バカ……」
「う、うん……」
シンジは緊張で固まったままの、やたらと固い唇を触れ合わせた。
「じゃあ、あたしは帰るけど……」
玄関口、その正面にエレベーターがある。
「良いの?、ここに泊まらなくても……」
「良いよ、荷物を解くのは明日だし、ベッドも準備してないからね?、今日は毛布にくるまって寝るよ」
「なら、あたしの家に来ればいいじゃない……」
「そ、そこまで面倒はかけられないよ!?」
本気で言ってるのかしらね?
ため息をつく。
「じゃあいいけど、ちゃんと風邪引かないようにはしなさいよ?」
「わかってるよ……」
「あったかくして寝ること、いいわね?」
シンジはちょっと不機嫌そうに黙り込んだ。
「なによ?」
「アスカ、お母さんみたいにしつこいんだもん」
「バカ!」
アスカは本気で照れていた。
まったくあの鈍感が!、人が誘ってあげてんのに、なによなによ!
マンションの出口で一瞬立ち止まる。
まさか、ね?
もしかすると、シンジの頭の中からは、アスカとそういう関係であり続けたいと言う願望がすっぽり抜け落ちてしまっているのかもしれない。
あたしって何?
ちょっと不満が沸いてきた。
え?、不満?
それを自覚した瞬間、アスカは真っ赤にゆで上がった。
ち、違うわよ、確かに好きだけど……、恋人とか、彼氏とか、そんな!
でも、もう一度「して」みたいとは思っている。
ちゃんと、もっと楽しく、明るく、じゃれ合うように、遊ぶように……
苦しみをぶつけ合うような感じではなく……
あたしは……
アスカは夜空を見上げた。
視界に入るマンション、だがどの部屋にも明りは灯っておらず、最上階だけがやたらと眩しい。
ネルフのセキュリティシステムが入っているのだ、普通の人間は入居できない。
そのため、今の所はシンジが唯一の住人だった。
「明日、朝一番に来てあげるからね?」
アスカ、ファイト!
アスカはそう呟くと、車をとめている駐車場に向かって歩き出した。
心の持ち様一つで感じ方が変わるって、本当なんだな……
アスカの心づかいが身に染みる。
本当に僕のことを心配してくれてたんだ……
でもまだ、好かれているとは思っていない。
思いたいけど……、そこまでは、ね?
あの時はそうだったかもしれない。
でも……
レイへしたのと、同じ質問をくり返す。
一生側に居てくれるの?
それはない。
ないと確信している。
それも決め付けなんだよな……
でもまだ、そんな不確かな想像を本物にするだけの勇気は持てない。
積み上げられた段ボール箱。
部屋は広く、一番狭い部屋でも17畳を越える。
シンジは自分の部屋と決めた部屋の中で、引っ張り出した毛布にくるまっていた。
スー……
シンジの寝息が聞こえる。
すっとその前に立つ人影。
碇君……
どうやって入り込んだのか、それは誰にも分からない。
だがレイは、ネルフのセキュリティ全てをかいくぐって、ここに立っていた。
寒いの?、寂しいの?
一人、小さくなっている。
わたしが側に居てあげる、ずっと側に居てあげる……
レイはすっとしゃがみこむと、シンジを起こさないように毛布を半分奪い取った。
お休みなさい……
シンジの背に抱きつく形で眠りに入ろうとする。
温かい……
鼓動が聞こえる、背中から。
これが、わたしが求めている物のうちの一つなのね……
レイの鼓動も早くなる。
嫌……
急に気恥ずかしくなって来た。
なぜ?、わたしがこうしようと思ったのに……
やはりやめようと言う気持ちが沸き上がって来る。
だが、やめられなかった。
温かいや……
シンジは寝ぼけた頭でそう考えていた。
ゴロンと寝返りを打つ。
「え?」
あ!
レイはシンジに抱きつかれていた。
碇君!?
ドキドキとレイの胸は限界にまで高鳴った。
碇、くん……
レイもそっと、シンジの体に腕を回す。
仰向けになるシンジ、その腕を枕にしがみつく。
碇君の匂い、碇君の温かさ……
それを自分にも染み付けようとする。
あの人の、香り?
わずかに混ざっている物がある。
嫌!
レイはそれを打ち消そうとした。
髪の香りをすりよせる。
だがアスカの、わずかだが付けていた香水の香りが、その程度のことで消えようはずが無い。
碇君!
シンジの首にすがり付く。
一度気になった匂いというのは、ずっと鼻についてくる。
くんと嗅げば、部屋中にその匂いが残されているような気がした。
「ん……、あや、なみ?、綾波!?」
シンジがあまりの寝苦しさに目を覚ました。
「碇君……」
「綾波、どうしてここに……、いや、それよりもどうやって入って来たんだよ!?」
シンジは酷く混乱していた。
「……来ては、いけなかったの?」
「い、いや、そうじゃないけど、あの……」
軽く手を当てて、レイの体を引き離そうとする。
「だめ……」
だがレイは、それ以上の力で抵抗して見せた。
「綾波、どうして……」
「碇君を、守るために……」
守る?
キョトンとするシンジ。
「碇君はわたしが守る、そう決めたもの……」
でもそれは命令だったじゃないか……
そう言いかける。
「それとも、あの人でなければ、いけないの?」
「綾波……」
シンジにはどう答えていいのか分からない。
アスカに嫉妬してるの?
今のレイからは、それがありありと見て取れた。
「そんなの……、僕には決められないよ」
「なら、わたしは、わたしの望みを叶えるわ……」
「え?」
もう一度、抱きつき直すレイ。
「お休みなさい……」
「お休み……って、ちょっと!」
スゥ……
だが返事は寝息だ。
「そんなに寝付きが良いわけないだろう!?、起きてるくせに、綾波ってば!」
レイの口元は、くすりと小さく笑っている。
そんな、こんな状態で、僕にどうしろって言うんだよ!?
腕枕、レイの温もりに、少しばかりの汗くささ。
そ、そんなぁ……
いやがおうにも、体が勝手に、多少の反応を示してしまう。
こんな状態で、眠れるわけないよ!
それはレイも同じであった。
碇君……
熱っぽさが増している。
結局この日はお互いに、金縛りにあったような状態で朝を迎えてしまう二人であった。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作品を元に創作したお話です。