Falling Down 4

「あたし達は生きてるのよ……」
 求め合って。
「あんたも、求めるのよ」
 なにかを……
 その何かに、レイはシンジを重ね合わせる。
「碇君……」
「あんたのままで、答えるのよ……」
 ふうっと安堵するように、レイの上に身を投げ出す。
「……重い」
「生きてる証しよ……、それ以外は?」
「なに?」
「何を感じるの?」
 レイはすっと目を閉じた。
「……どう?」
 邪魔をしないように、小さく耳元でそっと尋ねる。
「……鼓動」
「ええ……」
「温かい、音」
「あんたからも聞こえるわよ?」
 アスカの言葉に、レイの表情がいつものものに戻っていく。
「じゃあ、次に答えてあげるわ?」
 アスカはごろんと転がった。
 レイは仰向き、アスカはうつぶせ、二人は並んでベッドに転がる。
 アスカの左手と、レイの右手の指は自然と絡んだ。
 心が少し近くなる。
「なにが聞きたい?」
 アスカの問いかけに、レイは一番聞きたかった事を尋ねた。
「なにを……、していたの?」
「なにって……」
 なんのことだか、わからない。
「……あの日」
 レイは想い返した。
「碇君が、傷ついた日……、逃げ出し、連れ戻された後」
 あのこと!?
 シンジとの初体験の日の話だ。
 さすがのアスカも赤くなった。
「あ、あんた聞いてたの!?」
「聞こえてきたの……」
 すまなさそうな声。
「さいってー!、信じらんない……」
 レイと顔を向け合った。
 レイも平常ではいられないのだろう、もじもじとアスカの指を遊んでいる。
「……なにを、していたの?」
 睨み付けるアスカ。
「そんなの決まってるじゃない!」
 からかっているのかと怒鳴ってしまう。
「ごめんなさい……」
 レイは謝ってから、反対側に顔を向けた。
「ファースト?」
 様子がおかしい。
「ファーストってば!」
 体をずらして密着させた。
「どうしたってのよ?」
 横になり、レイの頭の下に腕を差し込む。
「……わからないの」
「わからない?」
 腕枕をしながら、余った手でレイの両手を包み込む。
「そう、わからないの……」
「へ?」
 レイはすがるように身を縮め、アスカの胸に収まった。
「ちょ、ちょっと!?」
 潤んだ瞳は、情を求めるようにアスカを見ている。
「わからないの……」
 レイはアスカの胸に顔を押し付けた。
「この感じはなに?」
 押し殺した声が、アスカの胸に直接響く。
「なぜか体が熱くなるの……」
 まさか!?
 アスカは自分の想像を疑った。
「碇君とあなたの声を聞いたあの時から……、時々痒くなるの、体中が、熱いの……」
 腰をアスカの腿にすりつける、少し熱い。
 嘘でしょ!?
 しかしアスカは確信してしまった。
「この気分は、なに?」
 知らないんだ、キス以上のこと!
 慌てて飛び起きる。
 あのバカ……、今まで一体なにしてたのよ!?
 それはとても理不尽な怒りだ。
「ほんとに、知らないの?」
 アスカが尋ねると、レイは熱っぽい視線をアスカに向けた。
「はぁ……」
 手のひらで顔を被う。
「それはね?、切ないっていうのよ……」
「切ない?」
 横になったままで小首を傾げる。
 問いかける瞳と仕草がとても可愛い。
「あんたはね?、シンジに抱いてもらいたいのよ……」
 レイにはまだわからないようだ。
「抱くって、なに?」
 太股をすりすりとすりあわせている。
「やめなさいって!」
 アスカは泣き笑いでレイに怒った。
「でも、痒いの……」
 たまらないと言う顔をしている。
 たまらないのはこっちよ!
 アスカは恥ずかしく赤くなって来ていた。
「人前でする事じゃないの!」
「どうして?」
 身を起こすレイ。
「う……」
 非常にあどけない瞳で覗き込まれる。
「ど、どうしてって……」
「痒いから、かくの……」
 かく?
 表現的におかしい物をアスカは感じた。
「でもおさまらない……、薬でもあるの?、胸が苦しくなる、動悸が激しくなる、なぜ?」
 ちょっと待ちなさいよ、ねぇ?
 アスカは頭痛を感じた。
 シンジ、あんた一体なにやってたのよ?
 やっていればいたで怒る所だが……
 なによ!、あたしなんかよりずっと一緒に居たくせに……
 でもなにも無かったのかと思うとちょっと嬉しい。
 こんなの相手に嫉妬してたなんて。
 そう考えるととても空しい。
 はぁ……、まあいいわ。
 アスカは何とか割り切った。
 そうよね……、こいつにそっち系の話なんて、耳に入るわけないんだ。
 雑誌を読む事も当然無い、指示された通りに動いていた人形。
 アスカはレイに正座させた。
「あんたはね……、嫉妬したのよ」
 ぽんとその両肩に手を置いて諭す。
「嫉妬?」
「そうよ?」
「……碇君に?」
「違うわ、あたしによ……」
「あなたに?」
 キョトンとする。
「あたしの声が聞こえてたのよね?」
 コクリと頷くレイ。
「シンジの声は?」
 思い出せない。
「……呼吸なら」
 酷く荒い息だった。
「でしょ?、あたしの……、あたしの声っ、どうだった!?」
 恥ずかしくて、つい声が大きくなってしまう。
「……泣いてばかり、でも嬉しそうだった」
 アスカはくるりと背を向けて、頬を両手で挟み込んだ。
 赤くて熱くて、逃げ出したくなっている。
「嬉しそう、初めて聞く声……」
「もういいってば!」
 黙らせる。
 ああー!、恥ずかしい……
 だが真正面に居る、とても近しい少女は真剣そのものだ。
 しょうがないわ、よ、ね?
 アスカは完全に開き直った。
「あんたはその声が羨ましいって思ったのよ!」
「……そう?」
「そうよ!、嬉しそうって言ったでしょ!?」
「……ええ」
「初めて聞くほど嬉しそうな声、それを出させてたのはシンジ!」
 レイの手が動いた。
 自分の胸元をギュッとつかむ。
「想像できた?、できなかったんでしょ?、何をされてるのか、何をしてもらってるのか……、悔しくなかった?」
 わからない……
 それが正直な気持ちだった。
「……シンジに伝えた?」
 蒼白になるほど、手には力がこめられている。
「なにを?」
「して欲しいって」
「あなたと同じことを?」
 アスカは真剣な表情で、ゆっくりと頷く。
「どうなの?」
 レイは目をそらして、答えた。
「……ええ」
「どうだったの?」
 荒くなるアスカの鼻息。
 どうだったのよ!?
 されてないのは、ここまでの会話から推し量れる。
 でもキスは?
 それぐらいなら、したかもしれない。
「……拒絶されたわ」
「なんで?」
 ふうっと、少しだけ安堵する。
「……あの時は、心を、閉ざそうとしていたから」
「そう……」
「でも……」
 レイの頬を涙が伝う。
「碇君は、わたしを認めてくれたわ……」
 すがり付いた。
「なるほどね……」
 あれ?
 アスカは自分の感情に戸惑った。
 なんで嬉しがってんのよ、あたし……
 よくわからない。
「でも……、苦しさは増したの」
 レイは真下にうつむいた。
 もぞもぞとまた腰を動かしている。
 重傷ね……
 慰める、と言う行為。
 それを自分は知っている。
 後で空しくなる、して欲しいのに、触れてもくれないと苦しみがこみあげる。
 でも……、その時だけは忘れていられる。
 自分だけのシンジを作り上げられる。
 でもそれができなかったら?
 ここにその自分がいる。
 苦しげに耐えている自分がいる。
 目の前に居るもどかしい自分。
 誰にも言えない悩み……、いいえ違うわね?、こいつには相談相手なんていないんだわ……
「ファースト……」
「なに?」
 アスカは切れた時特有の薄ら笑いを浮かべていた。
「行くわよ?」
「行く?、どこへ……」
「決まってるじゃない!」
 アスカはレイの手を引きながら立ち上がった。
「バカシンジの所へよ!」
 レイはシンジの所と聞いて、特に抵抗せずに腰を上げた。



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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作品を元に創作したお話です。