L.A.S.The Dwarfish World 2
ネルフによる情報を求めようにも、電話に至るまで全ての機器は沈黙している。
土木作業機械、それもICチップを用いていない二十世紀初期の時代のものにまで遡れば使用は可能であろう。
先ずはそこから始めなければならない。
自家用発電機はあっても、その燃料を供給するシステムが無い。
では?
こうなればエヴァすらもただのお荷物だ。
なら?
しかしそのどれもがアスカにとっては、どうでもいい話であった。
心配事は探す事もままならない、シンジの安否であったのだから。
そしてそのシンジは悩んでいた。
「……本気、ですか?」
日向は頷く。
「ああ」
「そのためにあの二人を巻き込むんですか!」
「僕の勘だと、まず間違いなく彼女らは承諾する」
「そんな……、酷いですよ、そんなの!」
「何を恐がっているんだ?、もう失うものは無いはずなのに」
「僕は……、傷つけたくないのに」
「だがこれしか無い」
「勝手じゃないですか!、僕を引き離すためにネルフを動かそうとしたくせに、今度は……」
「すまない」
「今更……、エヴァなんて」
シンジのそれは泣き声だった。
シンジはうなだれている。
旧式のガソリン車を日向はコレクションしていた、それが役に立った。
マンションまで送ると、思った通りの二人が居た。
今はシンジを挟むように座っている。
そして先程と同じ話を二人に聞かせる。
「初号機を……」
「そうだ、S2機関、それが僕達に残された希望だからね?」
レイは自分のしでかした事の結果を知った。
だがそれを責めるような者はこの場に居ない。
「幸いにもディーゼルと予備バッテリーがある、エヴァは使徒の侵入を自ら拒んでくれていた」
「あたしだけじゃダメなの?」
「……レイちゃんには補助を頼みたい、この意味、分かるね?」
レイは極静かに頷く。
レイに人である事を捨てろと強要しているのだ。
「だめだよ、やっぱりダメだ!」
シンジは叫んだ。
「なんでだよ、どうしてこんなことになるんだよ!」
「シンジ……」
「碇君……」
シンジは唇を噛み締める。
初号機のS2機関を取り戻す。
そのためだけなら承諾できる。
「なんで僕のためなんだよ!」
初号機はシンジで無ければ操れない。
必然的に、シンジはこの世界にとって絶対不可欠な存在となる。
「こんなのってないよ……」
それは脅迫と同じことだ。
アスカとレイに、その提案に逆らえるはずが無いのだから。
「しかし全てはもう動き出しているんだ」
マコトは冷徹に言い放つ。
「これを逃せば文明は崩壊する、今がチャンスなんだ」
「なんのですか!」
「真実だよ、人は真実を知るべきだ!」
サードインパクトが何を成したのか?
それを誰が起こしたのか?
そして何をもたらしたのか?
誰が与えてくれたのか?
「僕は望んでないのに……」
「またそうやって逃げるのか?」
「逃げる!?」
「そうだろう?、レイちゃんは君のためを思って事を起こした」
少々浅はかではあったとしても。
「もう起こした以上は引き返せない、進むしか無いんだぞ」
「わたしは……」
「レイちゃんが思い詰めた責任は君にある、そうだろう!」
「ちょっとあんた!」
「……わかりました」
シンジはうつ向き、目をつむった。
「……お願いします」
実に他人行儀にシンジは告げた。
日向は準備のために引き上げた。
アスカとレイは動けなかった。
シンジが動こうとしないから。
「……ごめん」
思っていた通りの言葉。
あまりにも辛い。
「なに謝ってんのよ」
「ごめん……」
「気にしないで」
「ごめん……」
「あんたねぇ!」
「ごめん」
「だめ……」
「ごめん」
「わかったわよ……」
アスカはふぅっと溜め息を吐いた。
「でもこれだけは覚えておいて」
立ち上がる。
「あたしは……、あたしが決めたのよ、あんたは関係無いわ」
「責任は、取るから……」
二人が出て行く。
それでもシンジはうなだれていた。
僕はどうすればいいの?
無音。
ねえ、誰か教えてよ。
父さん、母さん……
誰も教えてくれなかったから、最良と思える道を踏んだのに。
またあれに乗るのか。
エヴァ初号機。
二人を犠牲にしてまで。
確かに弐号機は空まで飛べるだろう。
レイが居れば初号機を持ち帰るのも容易いだろう。
今なら衛星すらレイの事は記録できまい。
全てを隠したまま、秘密裏に……
「だめだ!」
シンジは起き上がる。
それじゃだめなんだよ!
シンジは知っていた。
「誰が知らなくても、分かってるつもりでも……」
自分の心は護魔化せないから。
「きっと、きっと二人とも……」
自分と同じように後悔する。
「悔いる事になる」
自分一人で抱えて。
あれで良かった。
よかったのよと。
「納得するんだ」
無理矢理。
「それじゃダメなんだよ!」
自分がそうだったから。
嫌われてる方が楽だったのに。
「ダメだったんだ……」
優しくされたい自分が居て……
そして他人を信じない自分が居る。
自分に嘘はつけなかった。
「ミサトさん……」
ぬか喜びと自己嫌悪を重ねるだけ。
「でもまだ前に進めないんだ」
どうすればいいの?
なにをすればいいの?
「ケリをつけろって、ケリをつけて戻ってこいって……」
まだあの時は続いている。
何も終わっていないし、始まってもいない。
「でも……、これだけは間違い無いんだ」
あの二人を行かせてはいけない。
「きっと、後悔するから……」
こんな価値の無い男のために。
「賭けるなんて、間違ってるんだ」
自分自身を捨てないで。
「どうして……、自分だけを大事にしてくれないんだよ」
大切だから。
「サードインパクトって何なんだよ……」
結局、なにも生み出さなかった。
一体どこで破綻したのか?
わかってたはずなのに!
自分と言う異分子。
シンジが回帰してしまったからだ。
「ちょうどいい……、か」
どうせ嫌われようと思っていたのだから。
「同じなら、こっちの方がいい」
嫌われる事を恐れながら、それでも嫌われる事を選び出す。
シンジの精神は崩壊していた。
だれも気に止めなかった。
誰も彼に気がつかなかった。
当然だろう、彼はATフィールドを張っていた。
絶対的な拒絶を物理的な力に変えていた。
それはあの日にもう決まっていた道なのかもしれない。
ATフィールドの解放。
自ら形を崩したシンジ。
人の身のまま、人の根幹を成すものを失った。
シンジはあの時から感じていた。
もう一度腕を取り戻せたように、その感覚は覚えていた。
例えアスカによって取り戻せた姿でも。
他人の視線すらも拒絶する、ATフィールドの使い方は覚えていた。
弐号機の前に立つ。
皆エントリープラグの移送に、人力で働いていた。
この中にはアスカの母親が居る。
そう思って見上げると、どこか優しい感じを受ける。
シンジはブリッジに昇って目の高さをエヴァに合わせた。
アスカにはこの人が居る。
幸せになれるよね?
「碇君……」
ブリッジから踏み出そうとして立ち止まる。
「……綾波」
レイだけが気付けた、理由は要らないだろう。
「なにを、するの?」
感じるのは不安と恐怖。
シンジは一瞬だけ目を伏せた。
次に明るく顔を上げて言い放つ。
「僕がコアに入るよ」
動揺。
「綾波なら、シンクロ、出来るよね?」
レイだから、かもしれない。
シンジは破滅を集約させる、唯一の方法を選択した。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作品を元に創作したお話です。