L.A.S.The Dwarfish World 3
「ファーストチルドレンエントリー」
「セカンドを待って!」
「ファースト!」
だがエントリーは開始される。
ゴガァン!
拘束具が引きちぎられた。
「なにやってるの!」
拡声器で叫ぶマヤ。
グッ!
弐号機の胸装甲に手がかけられる。
「ファーストやめてぇ!」
バガン!
赤い玉が衆目に晒される。
「ファースト、あんた一体……」
「誰か居るぞ!」
少年をすくい上げる弐号機。
「シンジ!?」
シンジは一瞬だけアスカを見た。
その顔が悲しみに歪んでいる。
なによ……
なんでそんな目で見るのよ!
何処かで生きている、そう思ってくれてれば良かったのに……
その姿を思い描いてくれていれば、それだけで……
なぜだかシンジの心が読めてしまった。
「ばかシンジぃ!」
レイはコアの前にシンジを導いた。
シンジは手のひらをコアへと当てる。
わかってるんだ……
ATフィールド。
わかってるんだ。
アンチATフィールド。
それは拒絶と誘惑。
岩戸を開けるための甘い誘い。
シンジが放つのはアンチATフィールドだ。
レイは一端、弐号機への融合を断った。
そう、レイはシンクロしていなかった。
正確には「出来ない」のだが。
ずるり……
コアから女性がこぼれ出た。
白い髪と血色を失った肌。
大人の女性だ。
……あなたの欠けた心は、アスカがきっと埋めてくれると思います。
シンジは謝罪し、そしてコアへと向き直る。
「シンジぃ!」
だがその嘆きはシンジの心を止められず……
ズッ……
シンジはコアへと姿を消した。
グォン……
一度身震いした後、弐号機は再起動を果たした。
ゆっくりと手のひらが降ろされる。
「何が起こったのよ?」
下からではなにも分からなかった。
「シンジ!」
駆け出すアスカ、だが手のひらの上には別の女性が寝そべっている。
「救護班!」
マコトが叫ぶ。
「そんな、まさか!?」
震えるアスカ。
「間違い無いのね?」
確認するマヤに、カチカチと歯を鳴らしながらもアスカは答える。
「ええ……」
ママ。
マヤだけが神妙な面持ちで頷いた。
悲しまないで。
苦しまないで。
これは僕が望んだ事だから。
僕のできる唯一の……
「嘘!」
レイは否定する。
「これはわたしの罪、碇君を追い詰めた、わたしの」
もうやめて、もうやめようよ……
疲れ切った声が聞こえる。
これは僕の贖罪だから。
償うんだ、全てを。
僕の勝手で振り回されたみんなのために。
「違うわ、わたしが、わたしの……」
ポタッと、涙が腿で跳ねる。
泣かないで。
「なぜ?」
もう泣かなくていいから。
「いいえ」
綾波は幸せになれるよ。
「そんなことはないわ」
だって……
「碇君が……」
僕が……
『いないから』
二人の想いがシンクロする。
「な、なにが……」
コアが赤々と光っている。
背中のバッテリーがバチッと派手に火花を散らした。
エネルギーの逆流!?
慌ててマヤが指示を飛ばす。
「電源ケーブルを接続!」
「マヤちゃん!?」
「リバースモードで蓄電器へ繋いで、早く!」
このマヤの直感は的中する。
「あなたは、何を望むの?」
シンクロ率が跳ね上がる。
同じことを、聞かれたよね?
それはサードインパクトと同じであった。
他人の恐怖を、受け入れたのに……
だが今それが訪れているのはシンジ一人にだ。
「でも人の心を手にしてしまった」
それはレイ自身の嘆きである。
「なぜ、わたしは人として生まれたの?」
使徒と呼ばれる正体不明のものでありたかった。
だって、綾波は綾波じゃないか。
その認識がレイを作った。
僕は恐怖を望んだのに……
綾波レイを作ってしまった。
「だからわたしは惹かれるの?」
あなたに。
きっと、ね。
「そう……」
レイは深く深く、血の味のする液体を吸い込んだ。
「希望、なのね……」
あなたにとっての。
だから僕は恐かったのかな?
甘い誘惑。
甘美な関係。
友人、恋人、そして……
ずっと側に居てくれるの?
一緒に居続けてくれるの?
それはいつか聞いた問いかけだ。
「わたしは、恐れていたのに……」
人で無い事を。
シンジと違う事を。
「わたしは、人になれたのに」
涙が溢れ出し、頬を濡らす。
「あなたは、消えるのね」
コアの中へと。
「だめ……」
レイはレバーを握り込んだ。
「一人は、だめ……」
髪が揺れる、内からの力に。
弐号機と同化するために。
それがわたしに残された方法……
シンジと共に生きるための、唯一の。
それは、誰のための補完なのか?
嫌あああああああああああ!
アスカが泣き叫んだ。
弐号機の放出した莫大なエネルギーは、少なくとも第三新東京市の電力を百年は補えるであろう数値を満たした。
これだけでも当初の計画を嬉しい方向へ修正させた。
復興は一・二年で終わるだろう。
もちろんその間の労働は過酷を極めるし、外の復旧はさらに送れることとなるだろう。
それでも今晩からは夜に灯が灯るのだ。
その精神的な負担の軽減は否めない。
しかしアスカは泣いていた。
ばかシンジ!
泣いていた。
アスカのトラウマの全てが帰って来た。
彼女は毛布にくるまり震えてはいたが、正気はちゃんと保っていた。
髪もじきに元の色を取り戻すだろう。
ふやけた肌も、再び張りを見せるはず。
アスカに対し、彼女は「ごめんなさい」と謝っていた。
それでよかった、アスカには十分だった。
守ってくれていたことは知っていたから。
しかしそれと引き換えに失った。
永遠に彼は帰って来ない。
そう言った絶望感に包まれている。
なぜならコアが、その赤い輝きを失ったから。
嬉しいと思った。
帰って来てくれたから。
ママが……
それが何と引き換えにするものか、分かった瞬間に後悔した。
まるで彼の行為を受け入れてしまったようだったから。
どうしてこんなことになったのか?
誰が彼を追い詰めたのか?
喜ばしい事の全てを憎悪する。
吐き気がする。
気持ちが悪い。
「うれしかないわよ……」
彼はここには居ないのだから。
「ほんとにバカよ……」
バカは一体、誰なのだろう?
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作品を元に創作したお話です。