L.A.S.The Dwarfish World 5
僕が悪いの?
そうだよ。
そうなんだ。
そうに決まってる。
それはシンジを包む金色の殻。
シンジを守る黄金の卵。
(チェロなんて高い物を……)
(ちゃんと育てたかどうか、後で文句を付けられてはな)
嬉しかったんだ、ほんとに嬉しかったんだよ!
(シンちゃんにプレゼントよ?)
(ありがとう、おばさん!)
でも嘘だったんだ!
(適当に誉めてやればいいさ)
(そうですね)
ありがとうって……、言ったのに。
(せっかく買ってあげたのにねぇ)
ごめんなさい。
(さ、今日はシンちゃんの大好きなエビフライよ?)
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
迷惑はかけませんから……
だから許して……
お願いだから……
嫌わないで。
お願い。
良く出来たわねって……
ねぇ……
誉めてよねぇ……
優しくしてよぉ!
「内罰的ぃ!」
ハッとアスカは顔を上げる。
「ごめん……」
「あんた謝れば良いと思ってんの!?」
(しょうがないじゃないか……、ずっとそうして来たんだから)
「苛突くのよ、あんたを見てると!」
(だから謝ってるのに……)
「側に来ないで」
(ごめん……)
「あんた誰でも良いんじゃない!」
(ごめん……、でも来ないでって言ったのはアスカじゃないか!)
「あんたが全部あたしのものにならないんなら!」
(いらないって言ったのはアスカじゃないか!)
「なによその顔は!」
(ごめん……)
もう言わないよ。
側にも近寄らないよ……
だからもう嫌わないで。
いじめないでよ!
お願いだから好きになってよ。
優しくしてよぉ!
「……なによ、優しくしてあげたじゃない」
箱庭に閉じ込める事で?
「違う」
自分の篭に放りこんでさ……
「そんなつもりじゃないわよ!」
気が向いた時にだけ会いに来て……
「そんなつもり……」
そのためのあのマンションでしょ?
「じゃあ会いに来ればいいじゃない!」
行けるもんか!
アスカに嫌われたんだ。
嫌われたんだよ!
いらないって言われたんだ……
いまさらなんだよ!
そんなの信じられるわけないじゃないか!
不意に見えるシンジのビジョン。
アスカの誕生日パーティーの会場。
その外にいるシンジ。
車の中で、日向に元気づけられている。
「アスカちゃんも喜ぶさ」
「そうでしょうか……」
手には花束と小箱。
用意したのはもちろん日向だ。
「好きなんだろ?、アスカちゃんが……」
「まさか」
シンジは乾いた笑いを浮かべている。
「僕は……、ここにいます」
「諦めるのか?」
「……あそこに行けば、きっと空気が悪くなるから」
「そうか……」
マコトは溜め息を吐いてラジオを入れた。
「盗聴器の電波はこれで拾える、アスカちゃんは知らないけどね、あのドレスに……」
(まったくもう、うっとうしいわねぇ……)
マコトの言葉が途切れてしまった。
(仕方が無いでしょ?、チルドレンの誕生日ですもの)
(だからってなんで?、くそ面白くもないオジンの相手なんてしなくちゃいけないのよ?)
(ふふ……、友達と気軽なパーティーがしたかった?)
(分かってる!、みんな心からお祝いしてくれてるんだもん、そりゃ嬉しいわよ……)
(物足りないんでしょ?)
(……そうね)
(そう言えばシンジ君、遅いわね?)
(シンジぃ?、いいわよ、あんなやつどうでも)
ハッとしたマコトが、スイッチを切ろうと手を伸ばす。
「シンジ君……」
シンジはその腕をつかんでいた。
(何が気に入らないのか知らないけど、僕一人が不幸ですぅなんて顔しちゃってさ?、贅沢なのよね……)
(そう?)
(いいじゃない、これだけ幸せでさ……、他に何が必要なのよ?)
(……他人が幸せだからでしょ)
(え?)
(あ、な、なんでもないわ)
(変なマヤ……)
プツン……
シンジは日向はシンジの手から力が抜けるのを待ってスイッチを切った。
そうか、マヤちゃん……
気付いたのだ、シンジとマヤが同じ物を抱えていると。
人に言えぬ孤独と罪悪感をかかえていると。
シンジも、マヤも……
大切な人に捨てられたから。
なのに!
どうして追いかけて来たのさ?
どうして探しに来たのさ?
どうして連れ戻しに来たのさ!
「あたしは!」
アスカは泣き叫ぶことしかできない。
「ホントはそれが嫌だったくせに」
(変わってない、こいつ……)
見ていて、自分だけ幸せなのが嫌になった。
「それだけじゃないか」
「違う!」
「僕のことが好きなんて、嘘吐いて」
「ちがうっ!」
「なら綾波を連れて来て、一体何をさせるつもりだったのさ?」
アスカの放つ想いがアスカに返る。
ATフィールドと言う壁に跳ねて心に深く突き刺さる。
「好きなのよ、こいつ」
「だから?」
「キスしてあげなさいよ」
「なんだよそれ」
「抱いてあげたらいいじゃない」
「なんでだよ!」
「この子だってあんたのことを!」
「だから僕をあてがうってわけ!?」
「!?」
「自分はもう満足してるから、人にもおこぼれを上げようって?、ふざけないでよ!」
「そんなつもり……」
「じゃあなんだよ!?、僕はアスカの人形じゃないんだ!、アスカが満足すればそれでいいわけ?、アスカの気に入るように動いていれば良いって言うの?、そんなのないよ!」
アスカの背後に、また新しいシンジが現われた。
その瞳は血の涙を流し、白く濁ってしまっている。
「アスカは僕が欲しかったんだ」
彼は言う。
「僕以外に不幸な奴が見つからなかったんだ」
自己満足のために。
「助けてあげられる、可哀想な奴が欲しかったんだ」
エヴァでエリートになるために。
人を苦しめる敵が必要であったように。
そこで苦しむ人々が居たように。
「非力な奴が欲しかっただけなんだ」
「あたしは!」
「気持ち悪いって、言ったくせに」
それでもアスカはしがみつく。
「パルス逆流!」
「自我境界線を維持できません!」
「予想された事よ、落ちついて」
オペレーター達は必死だった。
セカンドチルドレンを助けるために。
しかし納得できないものも居る。
なぜサードチルドレンが必要なのか?
世界に崩壊をもたらし、そして救い主をたぶらかした少年が……
「これは……」
「4年前と同じ数値を指しています!」
「アンチATフィールド発生!?」
アスカ?、それとも……
道が少しずつ開き出す。
「じゃあなんで……、あたしにママを返したのよ!」
ビシッ!
卵の殻にヒビが入った。
「あたしにすがって、泣いた事もあったじゃない!」
シンジの壁に爪を立てる。
「だってしょうがないじゃないか!」
卵の中のシンジが吠えた。
「僕が居たから、綾波にあんなことをさせちゃったんだ!」
思い詰めさせた。
自分が!
「綾波があんなことをしちゃいけないんだよ!」
「どうして!」
「僕には……、こんなことしかできないから」
罪を引き受けてあげるぐらいのことが精一杯で……
「だからあんたはバカなのよ!」
アスカの心がシンジの壁を傷つける。
「自分一人で、自分で考えて、自分で決めて……」
「だって……」
「あんたもミサト達と同じじゃない!」
「僕は!」
「結局自分を選んで、あたし達を捨てて」
「違うよ、僕は!」
「じゃあ!」
泣き顔を上げる。
「帰って来なさいよ!」
言葉に詰まる。
「責められるのがいやなら、あんたをやめればいいじゃない!」
「僕を……」
「顔でも名前でも変えなさいよ!」
「そんなこと……、できるわけ」
「なんでよ!」
「だって僕が知ってるもの、僕が許せないもの!」
「じゃあ逃げるんじゃないわよ!」
「逃げる?、逃げてなんて!」
「あたしから逃げてんじゃない!、そうよ、あたしは嫌よ!、あんたが居なくなるのが、あんたの事なんてどうでもいいわよ!、あんたが居ないと嫌なのよ!」
今のシンジを否定する。
「側にいなさいよ、それだけでいいじゃない、他の理由なんて知らない、落ちつかないのよ、安心できないのよ!、嫌なのよ!、知らないとこで、あんたが一人で傷ついてるのが!」
あたしを見てよ……
ママ!
何処かで子供が泣いていた。
誰もその涙に気がつかなかった。
気付いてもらえず、その子は心を閉ざしていった。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作品を元に創作したお話です。